鼈甲(読み)べっこう

精選版 日本国語大辞典 「鼈甲」の意味・読み・例文・類語

べっ‐こう ‥カフ【鼈甲】

〘名〙
① 亀(かめ)の甲。カメ類のからだをおおっている、堅い殻(から)。特に、鼈(すっぽん)の甲をさすことが多い。古く、薬用として珍重された。
※延喜式(927)三七「諸国進年料雑薬 畿内 山城国卅二種〈略〉鼈甲一枚」 〔新唐書‐地理志・七上〕
海亀の一種である瑇瑁(たいまい)の甲を何枚か重ね、水と熱を加えながら圧縮して作ったもの。櫛(くし)、笄(こうがい)眼鏡のつる、カフスボタンなど装飾品の材とする。近世、瑇瑁の甲を服飾品として用いることが禁止されていたため、これを鼈の甲と言いのがれたところから生じたことば
※仮名草子・都風俗鑑(1681)二「思ひ思ひのさし櫛は〈略〉亀甲(ベッカウ)、たいまひなり」
③ 張形(はりかた)異称。近世、最高級品は鼈甲で作られたところからいう。
※雑俳・末摘花(1776‐1801)初「へっ甲を下かいへおとす長つぼね」

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デジタル大辞泉 「鼈甲」の意味・読み・例文・類語

べっ‐こう〔‐カフ〕【×鼈甲】

海ガメの一種タイマイの甲を加工して作った装飾品の材料半透明で、黒と黄のまだらの模様がある。くしブローチなどの細工物に用いる。江戸時代、タイマイの甲の使用が禁止されたことから、名をスッポン(鼈)に借りたものという。
スッポンの背甲漢方で強壮薬とする。

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改訂新版 世界大百科事典 「鼈甲」の意味・わかりやすい解説

鼈甲 (べっこう)

ウミガメの一種タイマイ玳瑁)の甲羅をいい,木工芸などの加飾材に古くから用いられ,装身具としても加工される。主成分は角質(炭素55%,酸素20%,窒素16%,硫黄2%)で半透明,樹脂ようの光沢があり,モース硬度はほぼ2.5,比重1.29,屈折率1.55。べっこうは多く屋根瓦状に積み重なっているが,タイマイ以外のウミガメは重なりのない石垣状で〈和甲〉と呼ばれ,べっこうの代用にされる。べっこうは色と黒の斑(ふ)の有無により白甲(しろこう),あめ甲,黒甲,斑甲(ばらふ)に分類される。日本では淡黄色で不透明の白甲が珍重され,ときに斑のおもしろさから斑甲が用いられる。細工にはそのまま切って用いるが,多くは均一の厚さに貼り合わせ,日本では独特の〈水バリ〉と称する方法が生まれた。べっこう片に水を塗って軟化させ,これを重ねて焼ごてで加熱する。このとき,発生する水蒸気でにかわ質が溶解し接合する。またべっこうをかぶせて加飾する場合は,焼ごてをあてて軟化させ,型に添わせる。

 べっこう細工の歴史は古く,朝鮮楽浪時代の墳墓からは文様をべっこうごしに観賞する透絵(すかしえ)技法の方箱の断片や笄(こうがい)が出土している。法隆寺献納宝物中には同じ技法の〈玳瑁貼経台〉があり,正倉院御物には〈金銀亀甲龕〉〈玳瑁螺鈿八角箱〉ほか多数が遺される。従来玳瑁貼りとされたものの中には古くは角質(馬の爪を薄くはいだもの)も含まれており,前記のうち〈八角箱〉は玳瑁貼りだが,他は角質と考えられる。この技法は朝鮮において,華角(角質貼りの工芸品)に伝えられたのであろう。伝菅原道真遺品中にも〈玳瑁装牙櫛〉があり,東大寺には〈玳瑁貼如意〉が遺され,当麻寺の高麗漆器〈螺鈿唐草文合子〉にも一部うかがえる。べっこう細工が盛行したのは17~18世紀の長崎で,当時は櫛,髪飾などが多く,また芝山細工にも貝や象牙とともに用いられた。今日でも装飾品,眼鏡枠など広い用途に使われているが,長崎はなお伝統技法を伝える主産地である。日本以外では東南アジアの一部が知られるが,欧米でのべっこう使用の歴史はほとんど見られず,使用される場合も腹甲からとられたあめ甲が普及している。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「鼈甲」の意味・わかりやすい解説

鼈甲
べっこう

タイマイ」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の鼈甲の言及

【スッポン(鼈)】より

…スッポン科Trionychidaeに属する軟らかい甲をもつカメ類の総称。約6属25種がアフリカ,アジア南部および東部,北アメリカに分布するが,化石種はヨーロッパ各地からも発見されている。甲長は20~40cmほどで,大型種は50~80cmに達する。甲はほぼ円形で平たく,表面は厚い皮膚に覆われて鱗板を欠き,側縁部が軟らかい。大半の種では背甲と腹甲が固着せず,靱帯組織で結合している。頭頸(とうけい)部がきわめて細長く,吻(ふん)部は細長い管状となって先端に鼻孔が開口している。…

※「鼈甲」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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