知恵蔵
「「東アジア共同体」」の解説
「東アジア共同体」
このところ「東アジア共同体」に関する論議が盛んである。2005年12月にはマレーシアで「東アジア共同体」をめぐるサミットも開かれた。しかし、おおむね肯定的な意見が多い学界やマスメディアなどの議論をみると、東アジアの現実から大きく乖離(かいり)した、楽観的な言説や待望論が多い。それらの論議の大部分は、いまや東アジアには共通の大きな経済実態が存在しており、域内貿易額は約60%と、EU(欧州連合)のそれを凌駕しているという経済的相互依存関係の進展を背景にしたものである。だがこの地域には、日中間の「政冷経熱」現象をみるまでもなく、経済中心の制度面や機能面でいくら問題を論じても意味をなさないほどの、政治的、文化的、さらには地政学的な問題が内在している。だからこそ、東アジアの全体像を体系的にとらえる視点が不可欠だといえよう。 東アジアの現実を地政学的にとらえれば、大陸国家・中国の大陸性(continentality)、半島国家・韓国の半島性(peninsularity)、そして海洋国家・日本の島嶼性(insularity)がせめぎあっているということができよう。そこには、容易に一致し得ない文化的・文明的違和が存在する。しかも、近代史における歴史的体験の違いや、歴史認識の蓄積の違いが極めて大きい。 「東アジア共同体」の構想では、日本はASEAN10カ国プラス日中韓、オーストラリア、ニュージーランド、インド(ASEAN+6)を、中国はASEAN10カ国プラス日中韓(ASEAN+3)を主張している。しかし、そこでの政治的、社会的な課題を棚上げした形での「東アジア共同体」の実現は無理ではなかろうか。
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