知恵蔵 「シンギュラリティ」の解説
シンギュラリティ
AIを巡る議論は、研究が始まった1950年代後半(第1次)に起こり、80年代末~90年代(第2次)にも再燃した。97年には、チェス用に開発されたAI(ディープ・ブルー)が当時の世界チャンピオンを破り、大きな話題になった。その後、家電製品を始め、情報通信・金融工学・医療・軍事などの分野で、実用化も進んできたが、2010年代に入り、ディープ・ラーニング(深層学習)の飛躍的な発達やビッグデータの集積などに伴う「第3次人工知能ブーム」が起こるなか、シンギュラリティが注目を浴びるようになった。
シンギュラリティには懸念の声も多い。世界的な理論物理学者スティーヴン・ホーキングは、AIは人類に悲劇をもたらす可能性があると警告し、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツも批判的な見解を出している。こうした脅威論を一蹴するカーツワイルも、安全運用のためのガイドライン作成の必要性は否定しない。
日本では15年末、野村総合研究所が「10~20年後、国内の労働人口の約49%がAIやロボットで代替可能になる」(英・工学博士M.オズボーン他との共同研究)という報告書を発表し、雇用の消失という面から注目された。報告書は、601種の職業について、創造性や協調性が求められる非定型の業務は人間が担うが、一般事務・配送・清掃・警備・運転・製造業務などの約100種は代替可能性がきわめて高いと指摘している。総務省も15年に「インテリジェント化が加速するICT(情報通信技術)の未来像に関する研究会」を発足させ、部分的なシンギュラリティの到来を前提とした未来像や取り組むべき課題、経済・雇用への影響などについて議論を始めている。
(大迫秀樹 フリー編集者/2016年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報