家庭医学館 「じんま疹」の解説
じんましん【じんま疹 Urticaria】
[どんな病気か]
じんま疹は10~20%の人が一生に一度は経験するといわれるほど多い皮膚の病気です。皮膚に小さな膨(ふく)らみ(膨疹(ぼうしん))が急にでき、それがいろいろな形、大きさに広がり、周囲には赤み(紅斑(こうはん))がみられます。そして強いかゆみがあります。ふつう、これらの症状は数時間以内に消えますが、なかには1日以上残るものもあります。症状が激しいときには、まれに、のどの粘膜(ねんまく)が腫(は)れ、呼吸困難になることもあります。
●じんま疹の種類
じんま疹にはいくつかの種類があります。ふつうにみられるじんま疹(1か月以内に治ってしまう急性(きゅうせい)じんま疹と、それ以上たっても治らない慢性(まんせい)じんま疹があります)のほかに、皮膚をかくと出る機械性(きかいせい)じんま疹(人工(じんこう)じんま疹)、冷たいものに触れると出る寒冷(かんれい)じんま疹、汗をかく状態になると出るコリン性じんま疹、日光に当たると出る日光(にっこう)じんま疹、さらになにかの物質(たとえば牛乳など)が触れたところから出る接触(せっしょく)じんま疹などがあります。
ほかにもいくつかありますが、以上が日常よくみかけるものです。まぶたや唇(くちびる)、外陰部などが腫れるクインケ浮腫(ふしゅ)(血管性浮腫(けっかんせいふしゅ))もじんま疹の1つです。
●じんま疹がおこるしくみ
じんま疹がおこるしくみにはいくつかあります。大きくアレルギー性とアレルギー性でないものとに分かれます。
アレルギー性のものはIgE(免疫(めんえき)グロブリンE)という血清(けっせい)中の抗体(こうたい)が関係しています。たとえば、食べ物の成分(抗原(こうげん))に対するIgE抗体がからだの中にできると、皮膚のマスト細胞の細胞膜上で抗体と抗原との反応がおこり、そのマスト細胞からヒスタミンという物質が出て、じんま疹がおこるのです。
ほかにもいろいろなかたちでIgEがじんま疹の発症にかかわっていることがわかってきています。
また、補体と呼ばれる物質がアレルギー反応によって活性化されておこるじんま疹もあります。この場合は膨疹や紅斑が長く残り、ときに膠原病(こうげんびょう)などの全身性疾患にかかっている可能性もあります。
麻薬類やある種の抗生物質などが、アレルギー反応をおこさないでマスト細胞からヒスタミンを出させ、じんま疹をおこすこともあります。また、アスピリンや非ステロイド系消炎鎮痛薬、アゾ色素などは、じんま疹を悪化させることがあります。
さらに最近、精神的ストレスによって神経末端から出る神経ペプチドという物質も、じんま疹をおこす可能性のあることがわかってきました。
[原因]
じんま疹はいろいろな原因でおこります。たとえば、薬物、食物、感染(細菌、ウイルス、真菌(しんきん)など)、虫刺され、物理的な刺激、心因(精神的ストレス)、そしてほかの病気に合併するものなど、じんま疹をおこす引き金になるものはきわめてたくさんあります。
急性じんま疹では比較的原因を見つけやすいのですが、慢性じんま疹ではなかなか原因がわからないことが多いのです。さらに、全身性疾患の初発症状として、あるいはその部分症状としてじんま疹がおこることもあります。じんま疹をおこす全身性疾患には、膠原病、血管炎、免疫異常、感染症、血清病、薬疹(やくしん)・中毒疹(ちゅうどくしん)、内臓悪性腫瘍(しゅよう)、消化器病変などいろいろなものがあります。
[検査と診断]
じんま疹の診断は、その症状からさほどむずかしくはありません。しかし、じんま疹がおこるしくみや原因を探しだせないことはしばしばあります。じんま疹の原因は、検査をすればすぐわかるというものではないのです。そこで、検査を受けるときには、じんま疹が出るときの状況、じんま疹の症状や経過、体調などをできるだけ詳しく医師に伝えることがとてもたいせつです。医師はそれらの情報をもとにして、どのような検査をすればよいかを決めるのです。
◎慢性の場合は根気よく治療
[治療]
じんま疹の治療でもっともたいせつなことは、原因を見つけ、それを取り除くことです。しかし、じんま疹、とくに慢性じんま疹では、原因を見つけ出すことがむずかしいことが多いため、まず薬物によって症状を抑える対症療法が行なわれます。
日常みられる多くのじんま疹はヒスタミンによっておこるものです。そこで、薬物療法としてはヒスタミンの作用を抑える抗ヒスタミン薬(H1ブロッカー)がまず選ばれます。たくさんの製剤がありますが、それぞれの薬の効果や副作用(眠けなど)の現われ方には個人差があるため、漫然と同一の薬を使うのではなく、常にその薬剤の効き方や副作用をチェックしておくことがたいせつです。
慢性じんま疹の場合、かなり長期間、抗ヒスタミン薬を服用することになります。じんま疹がおこったときだけ服用するのではなく、症状がないときでも2週間程度続けて服用し、医師の指示によってしだいに減量していきます。抗ヒスタミン作用のある抗アレルギー薬も同様に使用されます。
副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン(ステロイド)薬の服用や注射による全身投与は、症状が激しいときや、特別な型のじんま疹に対してだけで、通常のじんま疹には使われません。
そのほかにもいくつかの治療法がありますが、専門医の指示に従って行なうことがたいせつです。
[日常生活の注意]
じんま疹を悪化させる因子、たとえば、飲酒、解熱鎮痛薬の使用、高温、ストレスなどを避けるように心がけましょう。また、自分自身で悪化因子に気づいたときには、いうまでもなく、それを避けるようにしましょう。
じんま疹、とくに慢性じんま疹は難治性のやっかいな病気ですが、けっして治らないわけではありません。専門医を受診し、正しく診断してもらい、医師の指示に従って適切な治療を根気よく続ければ、たいてい軽快します。