ばさら

改訂新版 世界大百科事典 「ばさら」の意味・わかりやすい解説

ばさら

婆娑羅と書くこともある。語源は,〈金剛金剛石〉を意味するサンスクリット語vajraの音訳〈バザラ〉にあるとされ,十二神将の一つである〈伐折羅大将(ばざらだいしよう)〉をもさすが,鎌倉時代の中期には,すでに〈派手(はで)〉〈分(ぶ)に過ぎた贅沢(ぜいたく)〉〈乱脈〉等々の意味をもつ言葉として用いられていたようである。〈ばさら〉の語が文献に現れた早い例には,1270年(文永7)ころの成立と見られる狛朝葛(こまあさかつ)の音楽書《続教訓抄》の記事があり,音楽・舞楽において,本式の拍子から外れて自由に目だつように演ずる形式のことをさしている。また,室町幕府の発足時,1336年(延元1・建武3)に足利尊氏が出した政治要綱《建武式目》の第1条では倹約を諭し,近ごろ〈婆佐羅(ばさら)〉といって〈過差(かさ)〉を好む風潮が際だっているのを深く戒めている。〈過差〉とは,平安時代以来,〈度を越えた,身分の格差軽視ないしは無視した華美・贅沢さかげん〉の意味で用いられていた語であるが,その語義が〈ばさら〉に受けつがれて,南北朝の動乱期の美意識や価値観を端的にあらわす流行語となり,扇,団扇絵馬などの奔放な画風の絵を〈ばさら絵〉(《太平記》),派手な伊達扇(だておうぎ)を〈ばさら扇〉(二条河原落書)などといってもてはやしたし,また,近江大名佐々木高氏(道誉)とその一族のような熱狂的ともいうべき〈ばさら〉愛好の武家たちも続出していた。また,この語は後代にも長らく受けつがれ,〈乱れた,異様の,見えっぱりの,勝手気ままな〉といった意味を生かした新語もいくつか派生した。なお,別に〈ばさ(婆娑)〉の語が平安時代から用いられ,これは〈舞い翻る,徘徊(はいかい)する〉などの意であった。
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百科事典マイペディア 「ばさら」の意味・わかりやすい解説

ばさら

婆娑羅とも表記。南北朝の動乱期の美意識や価値観を端的にあらわす流行語で,華美な服装で飾りたてた伊達(だて)な風体や,勝手気ままな遠慮のないふるまいなどをいう。語源はサンスクリット語のvajra(金剛・金剛石)の音訳バザラにあるとされる。近江(おうみ)の大名佐々木高氏(道誉)とその一族のような熱狂的〈ばさら〉愛好の武家も続出した。→南北朝時代かぶき

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世界大百科事典(旧版)内のばさらの言及

【佐々木高氏】より

…政治情勢の変転きわまりない内乱期に,いわゆる権謀術数を駆使することで,よく京極家の家運をひらいたのであった。 ところで道誉のいま一つの顔は〈ばさら〉の王者の顔である。〈ばさら〉とは当時では武将を中心に流行していた服装や遊宴に贅をつくす華美な風潮をいうが,道誉の場合は66年(正平21∥貞治5)の大原野花会に代表されるように,自由奔放の中にも創意をこらした〈ばさら〉を楽しみ,有名となった。…

【漂泊民】より

…しかしこの行為が公認されることなく行われたとき,漂泊民・遍歴民はしばしば海賊,山賊になったのである。13世紀後半から重大な政治問題となった悪党も,こうした漂泊民の動向とかかわりがあり,彼らは柿帷を着て覆面をするという漂泊民―非人の衣装を身につけ,ときには〈金銀ヲチリバメ,鎧・腹巻テリカガヤクバカリ〉(《峯相記》)という〈ばさら〉の風体で姿を現したのである。 14世紀にかけて,こうした〈ばさら〉な風潮を積極的に肯定する動きが世に広がる反面,悪党―漂泊民の風体を〈人倫ニ異ナル〉〈異類異形〉として忌避,嫌悪する風潮が定住民の側にしだいに強くなってくる。…

※「ばさら」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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