物差(読み)モノサシ

デジタル大辞泉 「物差」の意味・読み・例文・類語

もの‐さし【物差(し)/物指(し)】

物の長さを測る用具。竹・金属・プラスチック製などがあり、長さの単位の目盛りがつけてある。さし。「―を当てる」
物事を評価するときの基準。尺度。「普通の―でははかれない人物」
[類語](1差し曲尺かねじゃく矩差かねざし差し金鯨尺鯨差し巻き尺メジャー/(2基準標準尺度水準レベル規準定規本位

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「物差」の意味・わかりやすい解説

物差(指) (ものさし)

ものさしは細長い棒や板あるいは紐やテープに目盛をつけて,その目盛で長さをはかる計量器で,日常生活で長さをはかる道具として身近にある長さ計である。

 ものさしの歴史はきわめて古い。インドにおいて前3000年にものさしを使用した例がある。長い間使用してきているが,目盛間隔の大きさにその歴史がある。古代オリエントにおける長さの基礎はひじの長さに始まるキュビト(約50cm)で,中国では手幅に始まる尺(約18cm)である。中国の尺は周の時代に黄鐘(おうしき)管の長さとして科学的に決められた。すなわち,ある一定の高さの音を出す笛の長さは一定であることを用いて,これを基準とし,この10/9を尺としたといわれ,また中くらいの大きさのくろきびの90粒分を黄鐘管の長さとし,この1粒の幅を1分としたといわれ,10分を1寸,10寸を1尺とした。西洋ではものさしは青銅や石などで作られたので変化は少ないが,東洋では起源のものよりかなり伸びて30cmを超えている。今日の尺は1891年の度量衡施行令付則にメートルの10/33と定められて,それまで長さの標準がなく推移してきたことに終りを告げ,初めて長さの単位としての基礎が確立されたのである。
度量衡

現在,使われているものさしには直尺rule(scale),角度直尺,たたみ尺,巻尺などがある。直尺はまっすぐな一片の棒や板に目盛線を刻んだもので,もっともたくさん使われている。実目盛のものと伸目盛および縮目盛のものがある。伸目盛は例えば鋳物尺に用いられている。鋳型を作るとき鋳型を鋳物の寸法より大きく作るために縮む分だけ長くした目盛をもつものさしを用いる。縮目盛は例えば製図や洋裁の縮尺に用いられている。実際の長さに縮率をかけた目盛をつけたものさしである。その一種に断面が三角形で,3面の上下の6ヵ所に縮目盛をもっているものさしもある。実目盛のものは標準用,工業用,商業用,家庭用,学校用などがある。標準用は標準尺といわれ,その材料には耐食性のある金属やガラスなどが用いられ,断面は長方形,H形,丸平形となっている。工業用には標準尺のほか金属製直尺が広く用いられている。金属製直尺の材料はステンレス鋼が多く,他に炭素鋼,黄銅,洋白も用いられており,長さ15cmから2mまでの数種の長さのものがある。商業用,家庭用,学校用などは竹,木,合成樹脂などの材料が用いられている。竹,合成樹脂製などでは,目盛はくし型という原型をあて,くし型の溝に沿ってけがきで目盛を刻んだものに炭などをすり込んだもの,または印刷したものが用いられている。金属製のものは印刷,けがき,写真焼付けなどの手段を用いて腐食した目盛が作られている。精度の高い目盛尺は目盛機械で刻まれる。

 目盛尺は1mmごとに目盛が刻まれているが,ディジタルに目盛値を表示するリニアエンコーダーの光学格子のスケールでは,ピッチ0.02mm,線幅0.01mmとか,ピッチ0.08mm,線幅0.04mmなどに刻まれている。ガラスまたは金属上に刻まれた格子のスケールを照明し,反射または透過した光を同じように刻んだスリット群で明暗を検出し電気的分割をして0.001mmとか0.0001mmの表示をしている。光学格子と同様に磁気格子も作られている。棒あるいは帯状体の上に磁性粉を塗布し,これに一定波長の正弦波を記録したものをスケールとし,テープレコーダーと原理的には同じであるが,磁性体が一定速度で動かなくても読取りができるヘッドを用いて電気信号にかえるものである。これらのスケールからできているリニアエンコーダーは,各種の自動測定に用いられている。

 角度直尺は直角を作る二つの辺に目盛がつけられているものさしで,ステンレス鋼,鋼,木で作られている。金属製は大工用,工場用で,木製は裁縫用である。目量は1mmまたは2mmで,長枝または短枝の裏面に角目または丸目がついているものが多い。角目は丸材の直径をはかってそれから得られる角材の1辺の長さを知るための目盛で,実目盛に対して\(\sqrt{2}\)倍に目盛られている。丸目は実目盛に対して1/π倍に目盛られている(曲尺(かねじやく))。

 たたみ尺は数片を連接して折りたためるようにしたものさしで,折り尺,箱尺,スタジア尺などがある。材料は木,竹,金属である。折り尺は6または8片を金具で連接したもので,直尺と同じ用途に使用する。箱尺は長形の木製の箱の中に他の小箱をたたみ込んであり,引き出して使用する。主として測量に用いる。スタジア尺は2個の木片を接続金具で接続してあり,測量に使用する。

 巻尺は金属,竹,繊維でできた帯状または線状の巻き取ることができるようにしたものさしである。測量用,工場用,タンク用に長いものが用いられ,短いものは洋裁,医療,家庭などに用いられている。鋼線を同質の継環で鎖状に連接し,継環の継目から継目までの長さを一定の長さにしたものさしをれん尺と呼び測量に使っている。

 ものさしの製造には国の,修理には都道府県の許可が必要で,販売には登録が必要である。商取引や証明に使うものは検定が必要で,誤差が公差以内にあるものに検定証印が付される。おもに生産工場で用いられる直尺などは日本工業規格に従って作られる。1959年1月から尺や鯨尺やインチのものさしの製造および商取引上の使用は禁止されている。しかし,尺相当目盛のものさしは77年10月から再び製造が認められ市場で見られるようになった。
執筆者:

物の長短測定の手段の起源は,手幅の利用にあるといわれるが,古代日本においては,記紀などに長さの単位として,〈ヒロ〉〈アタ〉〈ツカ〉などの呼称が見え,日本固有の単位が存在していたことが知られる。その後,中国や朝鮮から度量衡計器が流入し,その単位も使用されるに至った。度量衡の制は税制と深く関係するため,その国家的統一が緊急の課題であったが,法文に明示されたのを知りうるのは701年(大宝1)に制定された大宝令からである。大宝令は現存しないが,その規定は養老令と同一であった。長さに関する規定をみると,10分を1寸,10寸を1尺,1尺2寸を大尺1尺,10尺を1丈とする単位,進法であり,また土地の測量には大尺を使用し,他はすべて小尺を用いると見えるほか,関係官司には銅製の標準計器支給の条文も見えている。この大尺は高麗(こま)尺に,小尺は唐の大尺に相当し(唐尺),したがって大宝令制の尺は唐のそれと1対1.2の比で日本の尺のほうが長かったが,後,尺を唐制に一致させようとする動きがあり,そのため713年(和銅6)に大尺=唐大尺,小尺=唐小尺とし,唐制と一致することになった。しかし高麗尺は土地測量や土木工事などと密接に結びつくものであったため,その後も使用された。なお古代において唐の大小尺が使用されていた状況を見ると,小尺は楽器や佩飾用の特殊なものに限られ,一般には唐大尺が常用されていたことが知られる。《延喜式》雑式に,度量権衡は晷景(きけい)(日影)を測り,湯薬調合の場合に小制を用いるほかは,すべて大制を用いると規定されているが,これは713年の改制に基づくものであった。なお和銅改制後の令大尺1尺はメートル法で約30cmに相当することが確認されている。こうした官制の統一的な尺以外,民間ではこれよりも尺寸の長いものさしが使用されたが,律令国家の衰退により,そうしたものさしはより増えていったことが当時の史料から知られる。
執筆者:

平安時代になって律令体制が崩壊してくると,ものさしの公定制度もしだいに衰微していき,平安時代の中ごろから,これにかわる私的なものさしが登場してきた。こうして衰退したものさしの公定は,それ以後明治に至るまで復活することはなかった。平安時代から中世にかけて,文献上にしばしば見える私尺は,主として〈鉄尺〉と〈竹尺〉と称するものである。鉄尺は以前の公定尺の小尺の系統を受け,平安時代以後,長く日本のものさしの中心的な地位を占めてきたと推定される。またその名称は,素材が鉄であることに起因したらしい。このものさしの用途は多方面にわたったらしいが,測地尺としての用例が少なくない。室町時代中期の例では,高野山領紀伊国富田荘の検地尺の写があるが,その寸法は現在の曲尺(かねじやく)とほとんど変化はない。時代が少し下るが,1594年(文禄3)に実施された島津家領薩摩以下3ヵ国の太閤検地に,石田三成が証判を加えた検地尺が現存している。その長さは現在の曲尺と完全に一致している。そのほか,中世の枡の差図などに注記されている寸法などは,ほとんどが現行の曲尺と同様の基準によっていることがわかる。以上によって,鉄尺の使用範囲の広さが推定される。

 竹尺は竹製のものさしである。文献には〈竹計(たけばかり)〉〈鷹量(たかばかり)〉などと記されている。用途は主として絹,麻などの繊維品の計測に使用されたらしい。例えば《園太暦(えんたいりやく)》の1310年(延慶3)の記事によれば,幼児の衣服の絹の寸法をはかるのに,〈竹量〉を用いたことが見えている。また1462年(寛正3)の大内氏掟書によれば,領内の年貢麻布は,〈鷹秤〉ではかるべき旨を定めている。かようなことはほかにも例がある。1976年に大津市園城寺で発見された1424年(応永31)の1尺のものさしには,〈竹計〉の銘がある。その長さは今の曲尺で1尺1寸7分ある。

 以上の諸事実から,中世の代表的な私的ものさしである鉄尺は,古代の公定枡小尺の系統に属し,近世以降の曲尺の祖型となったことは,ほぼまちがいないと思われる。また鉄尺と並んで使用された竹尺は,その性格からみて,後世の呉服尺,鯨尺が,これから発達したと考えられるのである。

 江戸時代になると,ものさしについては,はかりのような座による幕府の統制はまったくなく,その製造,販売は自由に任されていた。このことは経済,とくに租税制度の立場から,枡やはかりと比較してものさしがもつ意味がそれほど重要ではなく,したがって幕府はこれに直接に統制を加える必要を感じなかったに違いない。その結果,江戸時代にはさまざまの名称をもち,それぞれ寸法の異なる幾種類かのものさしが併用された。例えば曲尺,又四郎尺,享保尺,さらにまた呉服尺,鯨尺などがよく知られている。以上のうち曲尺以下又四郎尺,享保尺などはいずれも中世以来の鉄尺の系統をひき,当時のものさしの中心的役割を果たし,次いで現在の曲尺に及んでいる。また呉服尺,鯨尺は,近世以降も布帛(ふはく)の計測に専用され,しかもその寸法が曲尺より1尺につきそれぞれ2寸,2寸5分長い事実は,中世の竹尺との密接な関係を思わせるものがある。
執筆者:

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世界大百科事典(旧版)内の物差の言及

【度量衡】より


[語義と出典]
 度,量,衡の3文字は順に,長さ,体積,質量を意味し,同時にそれぞれをはかるための道具(ものさし,枡,はかり)や基準を意味する。なお衡と類縁の文字で権(けん)というのもあるが,これは,はかりそのものではなく,分銅のほうを指す。…

※「物差」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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