草鞋(読み)そうかい

精選版 日本国語大辞典 「草鞋」の意味・読み・例文・類語

そう‐かい サウ‥【草鞋】

〘名〙 (「かい」は「鞋」の漢音)
植物を編んで作った沓(くつ)の一種。そうあい
※宇津保(970‐999頃)あて宮「いひがひをさくにとり、沓かたし、さうかいかたし、踵(きびす)をばはなにはきて」 〔馬天来‐山中詩〕
令義解(718)衣服「无位皆縵頭巾。黄袍。烏油腰帯。白襪。皮履。朝庭公事則服之。尋常通得草鞋

そう‐あい サウ‥【草鞋】

〘名〙 (「あい」は「鞋」の慣用音) わらじ。わらぐつ。そうかい。
参天台五台山記(1072‐73)一「自買草鞋一足。直八十文」
太平記(14C後)七「忝も十善の天子、自ら玉趾を草鞋(サウアイ)の塵に汚して、自ら泥土の地を踏せ給けるこそ浅猿けれ」
※元和本下学集(1617)「草鞋 サウアイ」

わらんじ わらんぢ【草鞋】

〘名〙 (「わらんず(草鞋)」の変化した語) =わらじ(草鞋)
※漢書列伝竺桃抄(1458‐60)爰盎鼂錯第十九「屐はわらんちのやうなものぢゃげなぞ」
浮世草子好色五人女(1686)二「わらんじの緒もしどけなく」

わらんず わらんづ【草鞋】

〘名〙 (「わらぐつ」の変化した語) =わらじ(草鞋)
※平家(13C前)二「わらむづなどいふ物しばりはき」
随筆北越雪譜(1836‐42)初「人のはきすてたる草鞋(ワランヅ)

わらず わらづ【草鞋】

〘名〙 (「わらうず藁沓)」の変化した語) =わらじ(草鞋)
※観智院本名義抄(1241)「屩 ワラヅ」

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デジタル大辞泉 「草鞋」の意味・読み・例文・類語

わらじ〔わらぢ〕【草鞋】

《「わらんじ」の音変化》わらで編んだ草履状の履物。足形に編み、つま先の2本のを左右のに通して足に結びつけて履く。
[類語]草履雪駄ゴム草履突っ掛け草履サンダルスリッパ

そう‐かい〔サウ‐〕【草×鞋】

そうあい(草鞋)」に同じ。
「片足には―をはきたり」〈今昔・六・三〉
挿鞋そうかい」に同じ。
「かく殿中にして―はきて勤め侍る」〈雑談集・九〉

わらんず〔わらんづ〕【草鞋】

《「わらぐつ」の音変化》「わらじ」に同じ。
「―などいふ物しばりはき」〈平家・二〉

そう‐あい〔サウ‐〕【草×鞋】

わらじ。わらぐつ。そうかい。
「自ら玉趾ぎょくしを―の塵に汚して」〈太平記・七〉

わらんじ〔わらんぢ〕【草鞋】

《「わらんず」の音変化》「わらじ」に同じ。
「―をはき」〈幸若・山中常盤

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改訂新版 世界大百科事典 「草鞋」の意味・わかりやすい解説

草鞋 (わらじ)

鼻緒式はきものの一種。一般に稲わらでつくるが,麻,ブドウやフジなどのつる,布きれを併せ用いるものなどがある。わらで足の形に台を編み,爪先の2本の緒を左右にある乳(ち)(緒を通す輪)に通し,さらにかえし(踵(かかと)にある返し輪)に通して足首に結びつける。長時間の労働や遠方への歩行などに用いられてきた。奈良時代に唐から伝わったくつ形の草鞋(わらぐつ)が平安時代末期に現在のような鼻緒式のわらじに改良され,〈わらうず〉と呼んだ。鎌倉時代には〈わらんず〉,室町時代に〈わらんじ〉,江戸時代になって〈わらじ〉と呼ばれるようになった。わらじには有乳(ゆうにゆう),無乳(むにゆう)(ごんず),草履わらじ,馬(牛)わらじの種類がある。有乳には四乳(よつち),二乳(ふたつち),その他がある。有乳のわらじを〈つたてわらじ〉〈ちちわらじ〉と呼ぶところもあるので,当初のわらじには乳がなかったものと思われる。四乳では,かえしを後乳にさしこむ型が雪の少ない関東以西の太平洋側に多く,中国,朝鮮,インドのわらじと同じである。一方,このかえしを短くして後乳へ差しこまない型は,雪の多い北海道から東北,北陸,山陰地方に分布している。これは爪掛脛巾(はばき)をつけてわらぐつをつくるために改良されたものと思われる。二乳わらじは福島県会津地方を中心に新潟県や山形県,栃木県の山間部に分布する。その他,江戸時代に軍学者のはいた武者わらじは乳が6個あり,山伏がはいた〈八つ目のわらじ〉は乳を8個もっていた。いずれも丈夫にするためのくふうであり,足ごしらえのための便をはかったものであった。無乳わらじは台座にかえしと緒があるだけで,多く〈ごんぞわらじ〉と呼ばれ滋賀県や京都府の山村で用いられている。ゴンズ,ゴンゾは横着,悪者,ごみなどの意で,あるべき乳を省いたという意味であろう。

 奄美,沖縄地方の乳のないわらじは,ワラグチとかプツ(くつの音)と呼ばれ,もとはわらの短ぐつであったことがわかる。また草履とわらじを結合したような構造を示すわらじがある。新潟県佐渡のアシナカワラジ,京都市花背のゾウリワラジは前半部が足半(あしなか),後半部がわらじの足半わらじ,九州の山村で用いられるムシャワラジは前半部が草履,後半部がわらじの草履わらじである。足半わらじ,草履わらじは鼻緒が太く丈夫で,山仕事や荒磯の岩ノリ採りなど激しい労働に用いられた。わらじの横緒を切って前緒とし,布きれで横緒をすげたものは切り緒わらじといい,祭礼などにはかれる。牛や馬にはかせるわらじはウシノクツ,ウマノクツ,マグツといい,乳がなくかえしと緒,台座からなる無乳わらじである。

 わらじにまつわる民俗は各地に見られる。足の病気の治癒を祈願して,神社や寺院にわらじを奉納することは広く行われてきた。峠の神である子之権現(ねのごんげん)にわらじや鉄わらじなどを奉納することも広く行われたが,これは旅中の休憩場所である峠で新しいわらじにはきかえ,不用になった緒の切れたわらじや古いわらじを近くの木に掛け,旅の安全を祈るとともに,古いわらじを脱ぐことによって,これまで通ってきた土地の悪霊や疫病神の侵入を防ぐ意味をもっていた。各地に残る沓掛の地名の由来でもある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「草鞋」の意味・わかりやすい解説

草鞋
わらじ

履き物の一種。稲藁(わら)でつくられた。平安時代の『栄花物語』、鎌倉時代の『平家物語』などにその名がみえている。草鞋と草履(ぞうり)とが並行して用いられているが、草履は自家を中心とする近距離用のものであり、草鞋は草履とは違って、旅など遠距離用の履き物である。道中の宿(しゅく)で、草鞋が掛茶屋に下がっているのは、草鞋は傷みやすいためにほかならない。農家では藁ばかりでなく、麻、科(しな)(シナノキ)、藤(ふじ)(ヤマフジ)、葛藤(くずふじ)などを使ったり、さらに頑丈にするために布きれを挿入したりした。草鞋は足の運びをよくするために、台、かえし、紐(ひも)からできており、なかには乳(ち)のあるものもある。乳は左右に一つずつ、あるいは左右に二つずつ、三つずつ、四つずつのものもある。草鞋を履くときは左右の紐を乳、かえしに通してから前へ回し、それを後ろでよじってから前で結び留めるのである。幕末に馬蹄(ばてい)がわが国にもたらされる前までは、馬のひづめを傷めないために馬の草鞋をつくって履かせることが習わしであった。この履き物は、おそらくその源流を尋ねると、中国文化とかかわりをもつと考えられる。

 草鞋は、農村においては農閑期渡世の作品であり、多く夜なべ仕事であり、これを何足つくれるかが、成人としての大きな目安にもなった。つまり長旅以外では買うものではなかったのである。また道中安全を祈願するために、大草鞋や、鉄でつくった金草鞋を奉納することも多かった。なお、深山を回って修行をつむ修験(しゅげん)者の草鞋は乳が多いので「八ッ目の草鞋」といわれ、山伏の十六道具の一つにも数えられた。二乳草鞋は「おなごわらじ」といわれて、京都大原女(おはらめ)の草鞋とされた。

[遠藤 武]

『宮本勢助著『民間服飾誌履物編』(1933・雄山閣出版)』


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普及版 字通 「草鞋」の読み・字形・画数・意味

【草鞋】そう(さう)あい

わらじ。草鞋銭は餞別。宋・成大〔催租行〕詩 牀頭の慳(けんなう)(へそくり袋)、大なること(こぶし)の如し 撲破すれば、正に三百錢り 堪へず、君と一すに 聊(いささ)か復(ま)た君の鞋の費を償せしむ

字通「草」の項目を見る

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「草鞋」の解説

草鞋
わらじ

「わらぐつ・わろうず・わらんじ」とも。稲藁で足の形に編んで作った履物。踵(かかと)をうける返しと,足に草鞋を結びつけるための紐,紐を通すためのいくつかの乳(ち)で構成される。ふつうは乳が左右に2対つく四乳(よつち)草鞋だが,無乳(むにゅう)で子ども用のゴンゾワラジ,1対の大原女(おはらめ)の草鞋,2対か3対の武者草鞋,4対の修験者の草鞋がある。仕事や旅行のときに履くことが多く,紐で足がすれるためにふつうは甲掛・草鞋掛・足袋を一緒につける。

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百科事典マイペディア 「草鞋」の意味・わかりやすい解説

草鞋【わらじ】

履物(はきもの)の一種。稲わらのほか麻,フジづるでも作られ,古くから旅行用などに用いられた。足をのせる台と,踵(かかと)をとめる〈かえし〉,紐(ひも)と四つの乳(ち)からなるが,乳が六つとか八つあるものや全くないものもある。草履(ぞうり)に踵をとめる輪をつけただけのごんずわらじや,草履と草鞋の中間のぞうりわらじ,牛馬用の馬わらじなどもある。

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世界大百科事典(旧版)内の草鞋の言及

【衣帯】より

…草履の類は,堂外および土間または石畳の堂内で用いる。沓の類はみな浅い突っかけ形式のもので,黒塗のものを鼻高(びこう),浅沓(あさぐつ),木履(きぐつ)などと称し,金襴を張ったものを草鞋(そうかい)と称する。草鞋は通常堂上でだけ使用するが,宗派によっては高僧が堂外で使用することもある。…

※「草鞋」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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