アブラナ(読み)あぶらな

改訂新版 世界大百科事典 「アブラナ」の意味・わかりやすい解説

アブラナ (油菜)
mustard
cole

油料植物や野菜として重要なアブラナ類は,4月ころ黄色の十字花をつけるアブラナ科植物で,種子には40~45%の油を含み,世界中で広く栽培される。明治以後セイヨウアブラナの栽培が始まる前は,日本ではアブラナが植物性油の中でも最も重要なものであった。

 このアブラナ類の所属するアブラナ属Brassicaは約40種からなり,北半球に広く分布している。この属には,アブラナ,カブ,ハクサイ,キャベツカラシナなど多くの有用植物が含まれ,葉や根は野菜や飼料作物として,また種子から良質の油がとれるので油料作物として重要であり,さらに観賞用として利用されるものもある。そのため多岐にわたって多くの栽培品種が発達しており,互いに近縁の植物とは思えないほどである。

 この属の中で栽培植物として重要な種は次の6種で,多様に分化したこの群は細胞遺伝学的な研究によって,それぞれの単位群とその相互関係が,次のように明らかにされている。すなわち,はじめの3種は10,8および9本の半数染色体(これをnで表す)からなるA,BおよびCとそれぞれ名づけられた遺伝的に相異なる染色体の1組(これをゲノムと呼ぶ)をもつ二倍体である。後の3種はこれら3種の二倍体の種間交雑とその雑種の染色体数の倍加によって生じた植物で,これらを複二倍体と呼んでいる(図参照)。

(1)アブラナB.campestris L.(n=10で,ゲノムA) 英名はfield mustard。野生型は,近東地方から北ヨーロッパに分布し,しばしばムギ畑の雑草となっている。この類の栽培植物としては油をとるアブラナ(ナタネ)をはじめ,地下部や葉を利用する野菜や飼料用に栽培されるカブ,野菜のハクサイタイサイ,ミズナ(キョウナ)などがある。とくに中国を中心に東アジアで多様な品種分化がみられる。

(2)クロガラシB.nigra(L.)Koch(n=8で,ゲノムB) 英名はblack mustard。野生型は,冬季が比較的温和な地中海地域の雑草として分布する。野菜としてまた種子が薬味料として有用なクロガラシが栽培型で,ヨーロッパ中・南部に広く栽培される。

(3)カンラン(キャベツ)B.oleracea L.(n=9で,ゲノムC) 野生型は,ヨーロッパ中・南部の海岸の岩場に自生する。地中海地域で栽培化されたこの種の野菜の品種群には,結球した葉,花序,側芽などを利用する重要な品種群が分化していて,キャベツカリフラワーケールコールラビメキャベツがある。また正月用の花卉(かき)として用いるハボタンは,ケールと同類である。このうち,キャベツは古代のギリシアとローマの人々にも知られていた。

(4)カラシナB.juncea(L.)Czern.et Coss(n=18で,ゲノムAB) 英名はleaf mustard。B.campestrisB.nigraの間の複二倍体に由来する。野生型は近東地方に分布するが,この種は中国大陸において最も多様な栽培型が分化しており,野菜のカラシナザーサイ,ならびに芥子(からし)油をとるキガラシが含まれる。北アメリカやヨーロッパでは種子を薬味料(カラシ)として用い,インドでは油料用,中東地方では野菜として栽培されている。

(5)セイヨウアブラナB.napus L.(n=19で,ゲノムAC) 英名はrape,colza。B.campestrisB.oleraceaの間の複二倍体に由来し,野生型はヨーロッパの海岸の砂浜に自生する。油料作物および野菜として有用なセイヨウアブラナ(ナタネ,レープ)や根菜のスウェーデンカブがある。

(6)アビシニアガラシB.carinata Braun(n=17で,ゲノムBC) 英名はAbyssinian mustard。B.nigraB.oleraceaの複二倍体起源で,その野生型は知られていない。栽培型の分布はアフリカ北東部のエチオピアとその周辺部にのみ限られており,古くからこの地域で知られている野菜および油料作物である。
執筆者:

双子葉植物。ダイコン,キャベツ,ハクサイ,ワサビなど350属約3000種があり,主に北半球の温帯から暖帯に多く分布しているが,中でも西アジアから地中海沿岸地方にとくに種類が多い。

 ほとんどが草本で,葉は互生し,単葉または種々に分裂して複葉となるものもあり,托葉がない。昔は十字花植物と呼ばれたことがあるように,花は4枚の花弁があって,開くと十字形になる。萼は4枚。おしべは6本あるが,外側にある2本は短くて内側に向かって葯が裂け,内側にある4本は長く(4強雄蕊(ゆうずい))て外側に向いて葯が裂開する。4本のおしべの基部の間には普通それぞれ1個ずつの蜜腺があって,蜜を分泌している。めしべは1本で,子房は上位,隔壁によって2室に分かれ,側膜胎座(2枚の心皮が互いに合生する合せ目の部分に胚珠がつく)をもつ。花柱は子房の先にあって棒状,普通は果実のときまで残る。柱頭は小盤状かまたはまれに2裂する。果実はいろいろの形の莢果(きようか)(角果)をつくり,熟すと隔壁を残して,2枚の皮が両側にそれぞれはじけ,種子をはねとばす独特のしくみになっているものが多い。花序は総状で多くの花をつけ,下の方から先の方に向かって順次開いていくが,花の柄のつけ根の部分に苞がない。若い花序は,中心部につぼみがあり,外側のつぼみほど生長して大きくなり,いちばん外側には開花した花が配列され,花序の先端が水平になるのが普通である(このような花序をとくに散房花序という)。種子には胚乳がなく,油を蓄えた2枚の肥厚した子葉があるが,幼根が子葉の縁にそって曲がっているものと,子葉の背面に曲がっているものとがあり,この特徴はそれぞれグループによって定まっている。アブラナ科のほとんどの種類は特殊なミロシン細胞をもち,これをもっているのは,わずかの例外をのぞいてアブラナ科とフウチョウソウ科に限られている。ミロシンmyrosinというのは,からし油mustard oilの形成に関与する酵素である。アブラナ科は科としてはよくまとまった自然群で,フウチョウソウ科と類縁があり,ともにフウチョウソウ目としてまとめられる。

 アブラナ科には有毒植物がほとんどなく,ダイコン,ハクサイ,キャベツ,アブラナなど重要な野菜の大部分がこの科に含まれる。アブラナ,セイヨウアブラナなどは種子からナタネ油を採り,カラシナ,ワサビ,ワサビダイコンなどは香辛料植物として栽培され,さらにストック,アブラナ,ハボタンなど,花や美しく着色した葉を観賞する園芸植物も多い。マメ科,イネ科などとともに人間の生活に大変かかわりの深い科である。
執筆者:

アブラナ科植物は陽地性草本で,一年草,あるいは地中海気候域では冬緑型の二年草の方向に著しい分化を行った植物群である。そのため都市的あるいは農耕地的環境にうまく適応した種を多く含み,多くの雑草種を含んでいる。日本には主として,地中海沿岸地域原産のいくつかの種が帰化植物として侵入している。それらはまた,好窒素植物でもあることが多い。主要な種には,次のようなものがある。

(1)セイヨウカラシナBrassica juncea (L.) Czern. ヨーロッパ原産。最近,関西地方の河川敷を中心に大繁殖をしている二年草で,栽培されるカラシナの基となった野生種である。アブラナとクロガラシの雑種四倍体で,クロガラシの種子は黒褐色であるが,カラシナは褐色である。草丈は大型のものは150cmに達し,大群落の一面の開花はみごとである。若葉や花序はカラシナ特有の辛みがあり,漬物にするとおいしい。

(2)オランダガラシNasturtium officinale R.Br. ヨーロッパ原産。栽培品はクレソンの名でサラダや,肉料理の添えものに広く利用されている。明治のはじめに外国人の野菜として導入され,現在では日本全国の河川に広く帰化し,野生化している。茎の基部は横にはい,よく分枝して大きな群落をつくる。初夏に咲く花は直径5mmほどの白色で,かわいらしい。

(3)カラクサガラシ(一名カラクサナズナ)Coronopus didymus (L.) Smith ヨーロッパ原産の一年草で,日本の温暖地の路傍や庭などに帰化している。茎は多く分枝し広がり,葉は羽状に分裂し,無毛か毛を散生する。全体に一種の臭気がある。花は小さく目だたない。

(4)マメグンバイナズナLepidium virginicum L.北アメリカ原産の二年草で,路傍,空地などのやや乾いた場所に多く帰化している。冬はきれいな円形に広がったロゼットをつくり,春,花茎が立ち,微細な白色の花を多数つける。花期には地表のロゼット葉は枯死してしまう。果実は名前のもとになったように,小さくはあるが軍配形をしている。同属のコシミノナズナL.perfoliatum L.は東ヨーロッパから西アジア原産の一~二年草で,根生葉はこまかく羽状に裂けているが,茎につく葉は円心形で,まったく違う形をしていて異様である。日本各地に点々と帰化しているが,個体数は多くない。

(5)グンバイナズナThlaspi arvense L.ヨーロッパ原産の二年草。マメグンバイナズナに似るが,果実は大きくなる。

(6)クジラグサDescurainia sophia (L.) Webb exPrantlユーラシア大陸原産の高さ数十cmから1mに達する一~二年草。茎は直立し,少数の枝を出す。葉は2~3回羽状にこまかく裂け,茎葉ともにこまかな毛を有する。花は黄白色,春~夏に開花する。路傍などに単発的に生えるが,安定的な生育地にはならないことが多い。

(7)カキネガラシSisymbrium officinale (L.) Scop.前種と同様に直立した茎を有する一~二年草で,ヨーロッパ原産。葉は深く羽状に裂ける。果実が短く,花茎に密着する。花は黄色で,晩春~夏に咲く。全国の路傍雑草になっている。同属でやはり直立した高い茎を有する種にハタザオガラシS.altissimum L.やイヌカキネガラシS.orientale L.がある。どちらもヨーロッパ原産で,日本各地の路傍雑草になっているが,発生は散発的である。

(8)ツノミナズナChorispora tenella (Pallas) DC.地中海東部から中央アジア原産の一~二年草。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アブラナ」の意味・わかりやすい解説

アブラナ
あぶらな / 油菜

アブラナ科(APG分類:アブラナ科)の越年草。一般にアブラナまたナタネ(菜種)とよばれるものは植物学的には在来ナタネBrassica rapa L. var. oleifera DC.(B. campestris L.)とセイヨウアブラナ(洋種ナタネ)B. napus L.の2種を含んでいる。しかし、一般にはチリメンハクサイに改良を加えてつくられた切り花用の「ナノハナ菜の花)」なども含めて、アブラナ、ナタネ、ナノハナなどの名が混乱して用いられていることが多い。

 在来ナタネは地中海沿岸から中央アジアの高原の原産で、日本へは古く中国より伝来した。葉は薄く、淡緑で軟らかい。春に高さ1.5メートルほどの茎の先に黄色の十字花をつける。花弁、萼(がく)はそれぞれ4枚、雌しべは1本、雄しべは6本で、うち2本が短く、他の4本が長い。花期後、円筒形で先に長い嘴(くちばし)のある莢(さや)ができる。内部は2室に分かれ、種子は直径2ミリメートルで赤褐色、このため赤種(あかだね)の呼び名もある。普通は秋に種子を播(ま)き、幼植物で越冬させ、翌春開花し、6月に成熟する。莢(さや)が裂開しないうちに刈り取り、乾燥後たたいて種子を収穫する。なお、日本では、明治時代以前は全国的に本種が栽培されていたが、その後セイヨウアブラナが導入され、現在ではそれに置きかえられて、ほとんど栽培がない。

 セイヨウアブラナ、別名蕓苔(うんだい)は、アブラナ(在来ナタネ)とキャベツの類との自然交雑から生じたもので、起源地は北ヨーロッパから中央アジア高原地域。葉は濃緑色で在来ナタネよりやや厚く、表面にろう質をかぶる点も在来ナタネと異なる。秋に種子を播き、翌春、在来ナタネより約半月遅く、十字花をつける。花の色は在来ナタネよりやや緑色を帯びる。種子は直径1.5~2ミリメートルで黒褐色。このため黒種(くろだね)の呼称もある。導入されて以降、在来ナタネにとってかわったセイヨウアブラナは第二次世界大戦後しばらくまでは、全国各地に約25万ヘクタール栽培され、そのなかばは水田の裏作作物とされてきた。その後は安価な輸入品に太刀(たち)打ちできず、国内栽培は年々減って500ヘクタールほどになっていた。しかし2010年ごろからは作付面積は増加傾向にあり、2018年で1930ヘクタールとなっている。生産量も1999年には783トンまで減っていたが、作付面積が増加したため、2018年では3130トンとなっている。地域別では北海道が77%、青森県が14%と多い。最近はバイオマスエネルギーや家畜の飼料用としての栽培もある。

[星川清親 2020年11月13日]

利用

種子には38~45%の油を含むので、これを圧搾法で絞り、菜種油をとる。絞った油は黄褐色で独特のカラシ臭がある。これを酸性白土で精製したものが菜種白絞油で、リノール酸24%、オレイン酸14~32%、エルシン酸50%を含む半乾性油である。食用油として優れており、大豆油に次いで消費が多い。油を絞ったかすは、いわゆる油かすで、家畜の飼料および園芸用の肥料となる。

 日本へは蔬菜(そさい)として渡来したアブラナは、戦国時代以降、油料作物として利用されるようになり、灯用、機械油、食用などに用いられてきたが、本格的に利用されるようになったのはセイヨウアブラナが導入された明治時代からで、おもに食用としてである。現在、世界的には栽培がしだいに増えており、主産国はカナダ、ヨーロッパ諸国、ブラジルなどである。カナダでは心臓障害などを引き起こすエルシン酸を含まず、グルコシアネート(甲状腺(せん)肥大物質)の含量も低いセイヨウアブラナ「キャノーラ」Canolaが育成されて、世界に広まった。

[星川清親 2020年11月13日]


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栄養・生化学辞典 「アブラナ」の解説

アブラナ

 [Brassica rapa].フウチョウソウ目アブラナ科アブラナ属.いわゆる菜の花を咲かせる植物で,ナタネ油をとる.キャノーラ(カノーラ)は,カナダで開発された品種で,油にエルカ酸やゴイトリンが少ない品種.

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百科事典マイペディア 「アブラナ」の意味・わかりやすい解説

アブラナ

ナタネ

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世界大百科事典(旧版)内のアブラナの言及

【油】より

…オリーブ油が食用として用いられるようになったのはヨーロッパに伝えられてからである。また,この地方で改良されたものには,アマとアブラナ類がある。特に後者はインド,東アジアに伝えられて重要な油料植物となる。…

【漬菜】より

…主として漬物に利用される葉菜類をいう。種子を利用するアブラナ(ナタネ)が中国で品種改良され,さらに日本に導入され,それらから各地方に特有な多数のアブラナ起源の葉菜類が発達した。漬菜は,それらから特徴的な群になった,カブとハクサイ類を除く一・二年生の栽培アブラナ葉菜類である。…

【ナタネ(菜種)】より

…日本で,種子からナタネ油をとるために栽培され,ナタネと総称されるものには,アブラナ科の,植物学的に異なった2種の作物がある。その一つアブラナBrassica campestris L.(英名Chinese colza。…

※「アブラナ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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