アメーバ性肝膿瘍

内科学 第10版 「アメーバ性肝膿瘍」の解説

アメーバ性肝膿瘍(肝膿瘍)

(2)アメーバ性肝膿瘍(amebic liver abscess)
概念
 経口的に侵入した赤痢アメーバEntamoeba histolytica)が大腸より経門脈的に吸収されて肝に到達し膿瘍を形成したものをいう【⇨4-5-2】.
疫学・頻度
 「赤痢アメーバ症」全体のなかでアメーバ肝膿瘍の占める割合は約30~40%である.発症年齢は20代と40代にピークがあり化膿性のものに比し若年に多い傾向がある.男女比では男が84~92%を占め圧倒的に男性に多い.
病態生理・成因・病理
 赤痢アメーバ原虫が経門脈性に吸収され肝臓へと到達し類洞周辺でアメーバ塞栓をつくり,蛋白融解酵素で肝細胞を壊死融解することにより膿瘍が形成される.95%が単発性で膿瘍の局在は右葉に多い(90%).
臨床症状・経過
 発熱(100%),肝腫大(80~90%),右上腹部痛(70~80%)の3主徴を呈する.腸管症状を欠いたまま肝膿瘍を形成することもあり,腸管症状は必ずしも合併するとは限らない.不明熱のみで発症することもある.
検査成績
 白血球増加,赤沈亢進,CRP陽性などの急性炎症所見を示す.ALP,γ-GTPの上昇を認めることもあるが特異的でない.超音波ガイド下の穿刺によって得られる膿瘍内膿汁はチョコレートミルクないしはアンチョビソース様で粘稠な赤褐色無臭の液体であるが二次感染を起こすと黄白色膿汁となる.膿汁中のアメーバの検出率は一般的には低く,むしろ膿瘍壁からの検出率が高いことが知られている.免疫血清学的検査には,①ゲル内沈降反応(80~100%),②ラテックス凝集反応(96%),③特異的補体反応(84~100%),④赤血球凝集反応(88~100%),⑤蛍光抗体法などがある. アメーバ性肝膿瘍の超音波像は細菌性に比較し,壁形成が弱い傾向がある.したがって,超音波像としては壁エコーは薄いが境界明瞭である,比較的内部エコーが均一で液体が充満している,などが特徴とされるが,発症早期では実質腫瘤様にみえたり高輝度の内容物が描出されることもある.CTでは超音波と同様,辺縁不整で内部均一な低吸収域として描出される.
診断
 赤痢アメーバ性肝膿瘍の確定診断は採取した膿汁あるいは肝膿瘍壁からアメーバを証明するか,血清学的診断によりなされる.
治療
 薬物治療の開始が遅れると,いかなる治療も奏効せず予後不良で重篤な合併症をきたすため,確定診断が得られなくとも疑われる症例に対しては診断的治療を兼ねて抗アメーバ薬投与を開始すべきである.
 肝膿瘍が疑われれば,まず超音波ガイド下穿刺およびドレナージを開始する.膿汁の特徴よりアメーバ性が疑われれば直ちにメトロニダゾールの投与を開始し,血清反応も並行して行う.炎症所見,自覚症状などから治療効果をみるが,数日ごとに超音波検査を行いサイズのチェックも行う.炎症所見,自覚症状の消失,膿瘍の消失ないしは縮小をもって治療終了の目安とし,ドレナージチューブを抜去する.治療効果がみられない場合はエメチンクロロキンの使用も考慮する.汎発性腹膜炎症状を認めれば開腹術の絶対適応であるが,それ以外は外科的ドレナージを考慮すべきでない.[工藤正俊]
■文献
Kuntz E, Kuntz HD: Hepatology: Principles and Practice, Springer, Berlin, 2002.
Nakaoka R, Das K, et al: Percutaneous aspiration and ethanolamine oleate sclerotherapy for sustained resolution of symptomatic polycystic liver disease: an initial experience. AJR Am J Roentgenol, 193: 1540-1545, 2009.
Okuda K: Hepatobiliary Diseases: Pathophysiology and Imaging, Blackwell Science, London, 2001.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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