アラム語(読み)アラムご(英語表記)Aramaic

翻訳|Aramaic

精選版 日本国語大辞典 「アラム語」の意味・読み・例文・類語

アラム‐ご【アラム語】

〘名〙 北西セム語族に属する言語。現代に至るまで約三千年の歴史をもつ。西南アジアからエジプトにかけて広範囲に資料があり、分類については諸説がある。イエス=キリストの母語は、この言語のガリラヤ方言とされる。

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デジタル大辞泉 「アラム語」の意味・読み・例文・類語

アラム‐ご【アラム語】

Aramaicセム語族に属する言語。古代西アジアの共通語として広く使用され、イエス=キリストの母語でもあった。現在でもトルコイランイラクシリアなどに話し手がいる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アラム語」の意味・わかりやすい解説

アラム語
あらむご
Aramaic

セム語族北西セム語派に属する言語。紀元前1000年ごろからシリア、メソポタミアに多くの小王国を建てたアラム人の言語で、現在に至る3000年の歴史をもつ。前10~前8世紀の古アラム語に続いて、前4世紀ごろまでのアッシリア、新バビロニア、ペルシア各帝国で用いられたアラム語を、帝国アラム語とよぶ。この時代、アラム人は政治的自立を失っていたが、逆にアラム語は中東一帯の共通語として、エジプト、エーゲ海カスピ海インダス川にわたる領域に広まった。ユダヤ人ヘブライ語もしだいにアラム語にとってかわられるようになり、『旧約聖書』の一部分のアラム語もこの時期に由来する。その後しばらくして、アラム語は東、西二つの方言に分かれる。西アラム語はナバタイ語、パルミュラ語などの北アラビア、パレスチナの方言である。東アラム語ではシリア語がもっとも重要で、ほかにメソポタミアの方言を含む。シリア語は1世紀以後の多くの資料をもつ言語で、豊富なキリスト教文献を生み出し、また翻訳を通じて、古代ギリシア文献を広く伝える重要な役割を果たした。アラム語域は、その後7世紀以降のイスラム興隆に伴うアラビア語の伸長などの理由により狭まり、現在ではシリア、イラン、トルコ、コーカサスカフカス)地方、イスラエルなどに東、西両方言の話し手が数十万人残るだけである。

[柘植洋一]

アラム文字

北セム系アルファベットの一種で、フェニキア文字と並ぶ重要な文字である。子音だけを表す22文字からなり、右から左へ書かれる。前10世紀の碑文の文字が最古のもので、以後帝国アラム語期を経て、アラム語の東、西方言への分裂に伴い、ナバタイ文字、パルミュラ文字、シリア文字などが生まれた。さらに東に伝わって、アラム語以外の言語の表記にも用いられ、ペフレビ(パフラビ)、ソグド、ウイグル、蒙古(もうこ)、満州などの各文字がつくられている。

[柘植洋一]

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改訂新版 世界大百科事典 「アラム語」の意味・わかりやすい解説

アラム語 (アラムご)
Aramaic

ヘブライ語等を含むカナン語群と並んで北西セム語派に属する大言語群。その歴史は,アラム人が前2千年紀に上部メソポタミア地方で小国家群を形成したころに始まると推定され,最古の資料は同地方から出た前9~前7世紀の碑文で,古アラム語と呼ばれる。母国がアッシリアに滅ぼされた後も,アラム語は勢力を拡大し,前7世紀ころからアッシリア王国,ついで新バビロニア王国で,前6世紀中葉以後はペルシア帝国公用語として用いられ,北はカスピ海沿岸から南はエジプトのナイル上流地点(エレファンティネ)まで,東はインド(前3世紀のアショーカ王碑文)から西は小アジアのエーゲ海岸に至る各地から,パピルス,陶片,粘土板,墓碑,壁文など多数の資料を出しており,帝国アラム語と称される。ヘレニズム期の聖書アラム語(《創世記》31:47の2語,《エレミヤ書》10:11,《ダニエル書》2:4~7:28,《エズラ記》4:8~6:8,7:12~26)もここに分類されよう。前1世紀以後の後期アラム語は方言差が拡大し,帝国アラム語の特徴を比較的よく保つ西アラム語群と,メソポタミア方言の継続と見られる東アラム語群とに大別される。前者は,パレスティナのユダヤ人による聖書の翻訳,注解,研究等の言語で,イエスの日常語でもあったとされるパレスティナ-ユダヤ人-アラム語,独自の〈モーセ五書〉翻訳で知られるサマリア-アラム語,5~8世紀のパレスティナ-キリスト教徒-アラム語,前1~後3世紀シリア砂漠に栄えたアラビア人の残した碑文によって知られるパルミュラ語,ナバテア語を含む。東アラム語群に属するのは,3~13世紀の豊富なキリスト教文献で有名なシリア語,バビロニア・タルムード(5世紀)のバビロニア-アラム語,4世紀ころからメソポタミア下流地域に定住したマンダ教徒のマンダ語等である。アラム語は日常用語としては8世紀以後アラビア語に放逐され,現在ではシリアのアンチ・レバノン山脈の山村などで話される(現代アラム語)だけである。
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百科事典マイペディア 「アラム語」の意味・わかりやすい解説

アラム語【アラムご】

カナン語とともに北西セム語に属する言語群。Aramaic。最古の碑文は前9世紀のもの。前7世紀から前4世紀にペルシア帝国,メソポタミア,パレスティナ,エジプトに及ぶ共通文化語になった。旧約聖書の《エズラ記》や《ダニエル書》にあるアラム語は〈聖書アラム語〉と呼ばれる。西方アラム語にはナバテア語,パルミラ語,パレスティナ・アラム語,サマリア語があり,東方アラム語にはシリア語,バビロニア・アラム語,マンデ語等がある。→セム語族
→関連項目アッシリア語バビロニア語ヘブライ語

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アラム語」の意味・わかりやすい解説

アラム語
アラムご
Aramaic language

セム語族に属する言語の一つ。アラマイ語ともいう。カナーン語,ウガリト語などとともに北西セム語をなす。前7世紀頃からメソポタミアでアッカド語を駆逐して次第に近東の共通語となり,ペルシア帝国の公用語にもなった。紀元後東アラム語と西アラム語に分れたが,西アラム語には,キリスト時代のパレスチナの民衆の言語パレスチナ・アラム語,旧約聖書の翻訳『タルグム』により知られるユダヤ人のアラム語,同じく翻訳でみられるサマリア語,さらにパルミラ語,ナバテア語などがある。東アラム語は,北部メソポタミアのシリア語が代表。この言語はエデッサを中心とするアラム文化のにない手であり,ギリシア文化をヨーロッパに伝える役も果した。その他マンデ語,バビロニア・タルムード『ゲマラ』の言語など。アラム語の最盛期は7世紀で終り,以後アラビア語に取って代られたが,今日でもレバノン山脈の東やイラン北西のリザーイエにアラム語の後裔,現代アラム語が数千人によって話されている。なお,文字はアラム文字と呼ばれ,北セム文字の一つ。

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世界の主要言語がわかる事典 「アラム語」の解説

アラムご【アラム語】

セム語族の北西セム語派に属する言語。もとはシリアとメソポタミアで紀元前1000年以前からいくつもの小国家を築いたアラム人の言語で、前7~前4世紀にはアッシリア王国、新バビロニア王国、ペルシア帝国の公用語として広大な地域で用いられた。パレスチナのユダヤ人のヘブライ語も次第にアラム語にとってかわられ、旧約聖書にもごく一部だがアラム語の箇所がある。イエス・キリストもアラム語で教えを説いたとされる。紀元後では、聖書やギリシア哲学の翻訳、豊富なキリスト教文献などで大きな影響を与えたシリア語が方言の一つとして知られる。アラム語の地域は8世紀以降アラビア語に圧倒され、現在はシリア、トルコ、イランなどのごく一部に残るにすぎない。◇英語でAramaic。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「アラム語」の解説

アラム語(アラムご)
Aramaic

北西セム語派に属し,アラム人の商業活動によって,前9世紀頃国際商業語となり,アッシリアアケメネス朝では公用語として採用され,パレスチナではヘブライ語を駆逐した。イエスの語ったのはアラム語である。

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旺文社世界史事典 三訂版 「アラム語」の解説

アラム語
アラムご
Aramaic

古代西アジアでアラム人が使った言語
前1000年紀前半,アラム文字とともにシリアからメソポタミアに広まり,前5世紀にはアケメネス朝の公用語となり,全オリエントに拡大した。『旧約聖書』時代のイスラエル人・ユダヤ人もアラム語を使い,イエスとその弟子たちや多くの東方キリスト教徒の母国語であった。

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世界大百科事典(旧版)内のアラム語の言及

【アラビア文字】より

…本来はアラビア語を表記するための文字であるが,コーランと共にイスラム世界に広がり,現在ペルシア語,ウルドゥー語,ベルベル諸語等の表記にも用いられ,かつてはマレー語,ソマリ語,ハウサ語,スワヒリ語,および1928年の文字改革以前のトルコ語もこれで書かれていた。 前1世紀以後ナバテア王国のアラビア人が公用語たるアラム語を書くのに用いていた北西セム文字(ラテン文字の祖型であるいわゆる〈フェニキア文字〉)から変化したアラム文字を,アラビア語にも適用し,その際,1語の中では字母どうしを続けて書くようになった。それに伴い,同形になった字母(例えばb,n,y)を区別し,さらにはアラム語にないアラビア語の子音,例えばḍ,ẓ,ḫ(本事典におけるラテン文字転写kh),ġ(同,gh)を表す必要上,おそらくシリア文字の例にならって字母の上または下に点を付けて識別するようになり,現在のアラビア文字ではこの識別符号も字母の一部と見なされる。…

【シリア】より

…これは西方では欧米の文字,西アジアではアラム文字やアラビア文字の起源となった。第2はアラム人による市民,商人など一般人の言語としてのアラム語の普及である。これとともに,西アジア世界の隊商組織,隊商都市の制度(商人貴族,関税など)が確立した。…

【ヘブライ語】より


[歴史]
 前14~前12世紀にイスラエル民族がカナン(後のパレスティナ)に侵入した当時,そこに見いだした原住民の言語たるカナン語は,既に原ヘブライ的ともいうべき特徴を備えていたことが,エジプトやアッカドの音節文字で書かれた記録――とくにアモリ語の人名やアマルナ文書――からうかがわれる。一方,侵入者自身は古アラム語の方言を話していたと推定される(《申命記》26:5)から,ヘブライ語はアラム語とカナン語との混合言語として成立したと考えられる。古代ヘブライ語Old Hebrew(または聖書ヘブライ語Biblical Hebrew)の記録としては,〈ゲゼル農事暦〉(前10世紀ころ),サマリアの陶片(前8世紀ころ),シロアム刻文(前700ころ)などの考古学的発掘物もあるが,最も重要なのは〈旧約聖書〉(アラム語で書かれた《創世記》31:47の2語,《エレミヤ書》10:11,《ダニエル書》2:4~7:28,《エズラ書》4:8~6:8,7:12~26を除く,全体の98%強)である。…

【ペルシア帝国】より

…行政事務を処理するために,王宮や地方のサトラップの役所に多くの書記が配属されていた。王の碑文には楔形文字の古代ペルシア語,エラム語,バビロニア語,ヒエログリフのエジプト語が使用されたが,官庁の公用文書には当時の国際共通語であったアラム語(帝国アラム語)とアラム文字が採用された。王の命令は宮廷書記によってアラム語に翻訳され,羊皮紙に記されて各州に送付された。…

【メソポタミア】より

…しかしこの頃,セム系アラム人が北部メソポタミアで有力となり,アッシリアは一時衰退した。のちアラム人の諸小国家はアッシリアの勢力回復とともに征服され,前8世紀末には政治的実体を失うが,アラム文字,アラム語は,メソポタミア全域に浸透した。とりわけペルシア帝国治下の西アジア全域でアラム語は最も重要な国際語として用いられた。…

※「アラム語」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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