イトウ(読み)いとう

改訂新版 世界大百科事典 「イトウ」の意味・わかりやすい解説

イトウ (伊富)
hucho trout
Hucho perryi

サケ目サケ科の中では他の3属(サケ,ニジマス,イワナ)に比べて原始的であるイトウ属の魚。イトウ属はユーラシア大陸に広く5種が分布するが,イトウは北海道とサハリンだけに分布する。以前には青森県の小河原沼からも採捕の報告がある。体は赤紫色を呈し,背はやや暗青色で腹部灰白色,背びれ,体には小黒斑点が無数に散在する。日本以外に分布するイトウ属の魚は上流域にのみ生息し海に下らないといわれるが,イトウだけは一部が春先に海に下るといわれている。比較的下流域に生息し,海岸近くの潟湖などに一年中姿を見ることができる。産卵期は4~5月,春の融雪期に際し川の上流域へ遡上(そじよう)して産卵する。孵化(ふか)した稚魚は潟湖に下り成育する。貪食(どんしよく)で小魚をねらって捕食する。大型で全長1.5mを超すものもある。10年たたないと産卵しないといわれ生息数が少なく釣人たちからは幻の魚と呼ばれ,大物釣りの魚として好対象になっている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「イトウ」の意味・わかりやすい解説

イトウ
いとう / 伊富
[学] Hucho perryi

硬骨魚綱サケ目サケ科に属する魚。北海道、樺太(からふと)(サハリン)に分布する。青森県小川原(おがわら)湖では1940年(昭和15)4月に採捕記録があるが、現在は姿がみられない。大きい河川の上中流域に生息し、根釧(こんせん)地方の湿原の流れの深みは好適なすみかである。体の背面は帯青緑褐色、腹面は銀白色をなし、背部体側に黒点が多い。一見ニジマスに似ている。成魚体長はしばしば1メートルを超す。幼魚にはサケ・マス類特有のパーマークがあるが、成長のよいものは2、3年目の春に体色が銀白化した降海幼魚となる。北海道東部ではアメマスと同様に降海して春から夏に沿岸域を回遊する。成熟年齢は7、8年で、10年以上のものも珍しくないため繁殖率は低い。4月ごろ上流の平瀬で産卵する。婚姻色はピンク色。アイヌ語はチライ、またオビラメの地方名もある。近縁種シベリアからヨーロッパ北部に分布するタイメン、朝鮮半島のコウライイトウ、揚子江(ようすこう)の虎魚(フーユイ)がある。釣りでは幻の怪魚とされるが、肉はほかのサケ・マス類ほど美味ではない。

[久保達郎]

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百科事典マイペディア 「イトウ」の意味・わかりやすい解説

イトウ

サケ科の魚。北海道とサハリンにのみ分布。体は赤紫色で,黒い小斑点が無数に散在する。背はやや暗青色,腹部は灰白色。比較的下流域にすみ,一部は春先に海に下るともいわれている。大型で全長1.5mを超すものもあり,大物釣りの対象魚として人気が高い。しかし,10年たたないと産卵しないといわれ生息数が少なく,幻の魚と呼ばれている。絶滅危惧IB類(環境省第4次レッドリスト)。他にイトウ属の魚は,ユーラシア大陸に4種分布する。中国には全長11mを超す種もいるといわれる。

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知恵蔵mini 「イトウ」の解説

イトウ

北海道、南千島、サハリン、沿海州に生息するサケ科イトウ属の淡水魚。日本国内では最大の淡水魚で、体長は150センチ前後になる。流れのゆるやかな中・下流、汽水域に生息し、小さな個体は昆虫を食べ、大きくなるにしたがい魚を補食する。かつては岩手県・青森県の一部で確認されていたが、同水系では絶滅したとされ、希少性が高く「幻の魚」と言われている。2014年7月14日、青森件深浦町の十二湖養魚場の展示用水槽から淡水魚イトウ22匹が盗まれたと発表した。

(2014-7-18)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イトウ」の意味・わかりやすい解説

イトウ
Hucho perryi

サケ目サケ科。全長 2mになる。日本産のサケマス類中の最大種。体形はイワナ(→ニッコウイワナ)に似て細長い。口は大きい。流れのゆるやかな河川の中・下流域や湖沼にすむ。北海道の東岸では降海するものもある。産卵期は春。北海道,ユーラシア大陸の寒帯域に広く分布する。重要水産魚ではないが,動物地理学的に貴重。近年,棲息数が著しく減少し「幻の魚」といわれている。大物釣りの対象魚。肉は美味。

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