インゲンマメ(読み)いんげんまめ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「インゲンマメ」の意味・わかりやすい解説

インゲンマメ
いんげんまめ / 隠元豆
[学] Phaseolus vulgaris L.

マメ科(APG分類:マメ科)の一年草。つる性で支柱に巻きついて1.5~3メートルとなる系統と、ツルナシインゲンとよばれる矮性(わいせい)で高さ30センチメートルほどの系統とがある。初生葉は単葉で対生、本葉は菱(ひし)形で長さ10センチメートルほどの小葉3枚からなる複葉で互生する。夏に、葉腋(ようえき)から花茎が伸び、2個から数個の5弁の蝶形花(ちょうけいか)を開く。花色は白、紅、紫色などがある。おもに自家受精をし、結莢(けっきょう)率は低く、暖地でも全開花数の10~40%といわれる。莢(さや)は長さ10~30センチメートル、幅1~2センチメートルで、黄褐色に熟す。種子(豆)は腎臓(じんぞう)形や長球形で、長さ1~2センチメートルで色彩の変化に富む。原産地はメキシコ中央部からグアテマラ、ホンジュラス一帯とされ、メキシコでは紀元前5000年ころに栽培されていた。16世紀にスペインに伝わり、17世紀末にはヨーロッパ全域に広まった。日本へは17世紀ころ、中国を経て渡来した。隠元禅師が伝えた豆との意味の名があるが、実際に禅師がもたらしたのはフジマメであるとされる。関西地方では、フジマメのことをインゲンマメとよび、一般にいうインゲンマメは、ゴガツササゲまたはサンドマメと呼び習わしている。

 多くの品種があるが、完熟した豆を食べる硬莢品種と、若莢を蔬菜(そさい)として利用する中・軟莢品種とに分けられる。豆用とするおもな品種名とその用途は、豆の色が紅または濃赤色の金時(きんとき)、昭和金時などは煮豆や甘納豆用、シロインゲンの大手芒(おおてぼう)、大福などは白餡(しろあん)や煮豆、白甘納豆用、縞斑(しまふ)模様のトラマメ、ウズラマメなどは煮豆用である。若莢用はサヤインゲンとよばれ、つる性のケンタッキーワンダードジョウインゲンや成倉(なりくら)の名で親しまれている。ツルナシインゲンではマスターピースなどがある。日本では豆用は90%以上が北海道で生産され、若莢用は日本各地でつくられる。

星川清親 2019年10月18日]

食品

乾燥したインゲンマメ100グラムでは、熱量は333キロカロリーであり、水分16.5グラム、タンパク質19.9グラム、脂質2.2グラム、炭水化物57.8グラムである。わが国の需要量の4分の3までが白餡用である。また、甘く煮つけたものは、日本料理の箸(はし)休めとして欠かせない。柔らかく煮るには、鍋(なべ)に多めの水を入れ、火加減に注意し、ゆでこぼすときも静かに扱うのがこつとされる。洋風のクリーム煮や、肉や野菜との煮込みなどにもよくあう。豚肉とトマト味で煮込んだアメリカのポークビーンズは有名。ほかに甘納豆などの和菓子の材料とする。

 若莢は、タンパク質、ビタミンA、B1、B2、Cを多く含み、栄養価の高い野菜である。筋(すじ)をとって湯がいてから、おひたしとするほか、種々の日本料理に利用する。また、油にもよくあい、バター炒(いた)めやスープなどに使うほか、肉料理に添える。缶詰や乾燥野菜とし、最近では冷凍ものの消費も伸びている。

[星川清親 2019年10月18日]


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改訂新版 世界大百科事典 「インゲンマメ」の意味・わかりやすい解説

インゲンマメ (隠元豆)
kidney bean
Phaseolus vulgaris L.

マメ科の一年草。サイトウ(菜豆),ゴガツササゲまたはサンドマメともいう。関西地方ではフジマメをインゲンマメと呼ぶことが多い。インゲンマメは隠元が中国から日本にもたらした豆の意味でついた名前であるが,実際に隠元が伝えたのはフジマメであるといわれる。メキシコ中央部からグアテマラ,ホンジュラス一帯が原産地とされる。前5000年ころにはメキシコで栽培され,徐々に中央アメリカや南アメリカに広がった。16世紀にスペインに伝わり,17世紀末までにヨーロッパ全域に普及した。日本には17世紀ころ中国を経て渡来した。

 葉は長さ10cmほどのひし形の小葉3枚からなる複葉で,長い柄をもつ。つる性のものは支柱に巻きついて1.5~3mに伸びるが,ツルナシインゲンは高さ30cm内外の矮性(わいせい)である。両者の中間的な品種もある。夏に葉の付け根から花茎が伸び,数個の蝶形花が咲く。花の色は白色,紅色,紫色などがある。花後,さやが伸び10~30cmとなる。豆は腎臓形で長さ1~2cmである。若さやを食べる品種と熟した豆を食べる品種とがある。若さや用はサヤインゲンと呼ばれ,代表品種につる性のケンタッキーワンダーがある。これはドジョウインゲンや成倉(なりくら)の日本名で親しまれている。ツルナシサヤインゲンにはマスターピースなどがある。豆は約60%の炭水化物を含む。中南米,アフリカ,インドなどでは主食に多く利用され,豆の形,色などに多数の変異がある。豆用の品種としては紅または濃赤褐色の金時,昭和金時などが煮豆や甘納豆に使われ,シロインゲンの大手芒(おおてぼう),大福などは白あんや煮豆,甘納豆,きんとんなどに,豆にまだら模様のある虎豆,うずら豆などは煮豆用に使われる。日本での主産地は,豆用が北海道,若さや用は千葉,福島,奈良県などである。

 春,霜がなくなったら種子をまく。北海道で5月中旬,関東地方では4月中旬~5月上旬である。つる性の品種は高さが15cmほどになったら土寄せをして支柱を立てる。茎葉が枯れ始めさやの80%が黄変したころに収穫する。連作障害はさほど強くないが輪作にするとよい。
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食の医学館 「インゲンマメ」の解説

インゲンマメ

《栄養と働き》


 豆の形も色もさまざまな種類があるインゲンマメは中南米原産で、17世紀なかばに隠元禅師(いんげんぜんじ)が中国から伝えたといわれ、その名がつきました。乾燥したものと、未成熟のものをさやごと食べるサヤインゲンがありますが、品種は異なります。
 インゲンマメには大きくわけて5種類があります。赤紫色であんや甘納豆(あまなっとう)に使われる金時(きんとき)類、白あんによく使われる白金時類、小粒で白い手芒(てぼう)類、独特の模様がついた虎豆類、中粒のうずら類です。
 地方によってサンドマメ、ニドササゲと呼んでいるところもあります。関西では、別種のフジマメをインゲンマメと呼び、本来のインゲンマメをサンドマメと呼ぶ人が多いようです。一方、関東ではインゲンマメをゴガツササゲ、トウササゲと呼び、本来のササゲと区別しています。ササゲは見た目も利用法もインゲンマメに似ていることもあり混同されがちですが、ササゲは別種の豆です。
〈種皮に含まれる食物繊維は、豆類のなかでもトップ〉
○栄養成分としての働き
 インゲンマメの主成分は炭水化物とたんぱく質で、種皮には大量の食物繊維を含んでいます。
 食物繊維は、腸内の有害物質を吸着して体外へ排出する働きやコレステロールの吸収を阻害する働きをするので、便秘(べんぴ)解消や大腸がん予防、動脈硬化を予防するといった効果が期待できます。
 また、ビタミンB1、B2も多く含まれており、疲労回復に効果的。カルシウム、鉄、カリウムなどミネラル類も豊富なので、高血圧症予防や貧血、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)予防にも役立ちます。

《調理のポイント》


 調理する際は、水から煮てゆでこぼします。煮ると種皮がやわらかくなるので、煮豆やポークビーンズ、チリコンカンなどの煮込みに最適な食材です。
 ドレッシングにみじん切りの玉ネギやセロリ、パセリを加えてゆでた豆をマリネにすると、洋風の常備菜になります。
 食物繊維の不足が気になる人におすすめします。

出典 小学館食の医学館について 情報

栄養・生化学辞典 「インゲンマメ」の解説

インゲンマメ

 [Phaseolus vulgaris].マメ目マメ科インゲンマメ属のマメ.広く世界的に食用にされるマメの一種.若いものはさやを食用にする.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のインゲンマメの言及

【フリホル】より

…インゲンマメ,ベニバナインゲンなど新大陸起源のインゲンマメのスペイン語による総称。フレホルfrejolともいう。…

【豆】より

…(2)熱帯・亜熱帯起源の草本性豆類 熱帯系の栽培豆類は,乾燥地域原産のものが多い。南アメリカ原産のインゲンマメはアフリカやインドでも主食的に利用される重要な豆類であるし,ボリビア原産のラッカセイは,その高い脂肪含有量のため広く食用にされ,どちらも世界の各地で栽培されている。その他にも〈もやし〉に多用されるインド原産のリョクトウ,若い豆果が野菜とされるアフリカ原産のササゲ類(ササゲ,ヤッコササゲ,ジュウロクササゲなど)や,熱帯アジア原産のナタマメやシカクマメPsophocarpus tetragonolobus(英名fourangled bean),それに加えて中央アメリカや南アメリカ原産のライマメPhaseolus lunatus(英名lima bean),ベニバナインゲン,インド原産のヒヨコマメフジマメ,アフリカ原産のキマメなど,多数の種が栽植され,利用されている。…

※「インゲンマメ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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