ウィルソン(Charles Thomson Rees Wilson)(読み)うぃるそん(英語表記)Charles Thomson Rees Wilson

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ウィルソン(Charles Thomson Rees Wilson)
うぃるそん
Charles Thomson Rees Wilson
(1869―1959)

イギリスの物理学者。2月14日、スコットランドのグレンコース郡に生まれる。父ジョン・ウィルソンJohn Wilsonは牧羊業で知られた人で、母アニー・クラーク・ハーパーAnnie Clerk Harperはグラスゴー製糸業を営む家族の出である。4歳のとき父が死に、母は彼を連れてマンチェスターに移った。その地で教育を受け、1888年に奨学生としてケンブリッジ大学に入り、物理学者になる決心をした。1892年ケンブリッジを卒業したウィルソンが、自分の生涯の研究テーマとなるものに出会った瞬間を後年、次のように述べている。「1894年9月に私は、スコットランド丘陵でいちばん高いベン・ネビスの頂上に当時あった天文台で数週間を過ごした。小山の上にかかっている雲に太陽の光が当たったときに生ずるすばらしい光学現象、とくに太陽の周りや、山頂や人が霧や雲に落とす影の周りにできる環状の虹(にじ)の美しさに心を打たれ、同じ現象を実験室で再現したいものだと思った」。

 膨張装置をつくり、湿った空気を膨張させて霧をつくる実験から研究を始めてまもなく、霧の核となるほこり粒子の入っていない湿った空気でも膨張率が1.25を超えたとき放射線の入射などにより霧が発生することを発見した。その後、発見されたばかりのX線ウランの放射線などを使用して凝縮核の研究に進み、その結果、凝縮核が、X線や放射線の電離作用でつくられたイオンであることを証明した。

 放射能の研究が、放射線の本性解明から原子構造の解明へと進んだ20世紀の初頭に、ウィルソンの膨張装置つまり霧箱(きりばこ)は重要な役割を演じることになる。それまでの検出装置である電気的計測装置や硫化亜鉛感光板などでは、α(アルファ)粒子やβ(ベータ)粒子の散乱過程で実際に何がおこったのか決定できなかった。その過程を目に見えるようにする装置が望まれていた。

 1911年ウィルソンは自ら発明した霧箱を改良して、電離作用するイオンの飛跡を写真に撮ることに初めて成功した。「蒸気を凝縮し荷電粒子の飛跡を可視化する方法の研究」により、1927年のノーベル物理学賞を受けた。受賞講演で、写真を撮るための瞬間的な照明方法の考案に苦労したことを述べると同時に、それまで確証なしに正しいと考えられてきた情報に対し写真によって必要な確証を与えられたと述べている。90歳の天寿を全うした。

[日野川静枝]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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