日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ウェブスター(John Webster)
うぇぶすたー
John Webster
(1580ころ―1634以前)
イギリスの劇作家。後期エリザベス朝演劇を代表する悲劇作家だが、正確な生没年代をも含めて、その伝記的事実はきわめてわずかしか知られてはいない。作品から判断する限り、学識もかなりなものだが、学歴もまったく不明。劇作家としての出発は、興行師ヘンズローPhilip Henslowe(1550―1616)の依頼による合作者としてらしく、1602年に他の3人とともに合作した記録が残っているが、これが信頼に足る最初の資料である。その後の一時期、少年劇団のためにも執筆したが、最盛期は1610年ごろであり、このころ彼の名を不朽にした『白魔』(1611/1612)、『モルフィ公爵夫人』(1613/1614)の二大傑作悲劇を、アン女王一座、国王一座という成人劇団のために書いている。これらはともに残忍な復讐(ふくしゅう)悲劇だが、毒殺、絞殺、狂人の舞踏などはでな道具立てと、その間に瞥見(べっけん)する鋭い人間観察を示すアフォリズムにより、当時の退廃気分に過不足なき演劇的表現を与えたところにその特色がある。また従来の復讐悲劇とは異なり、復讐者より被害者に重点が置かれているのも注目に価する。ほかに、悲喜劇『悪魔の訴訟』(1617)などがある。
[玉泉八州男]
『関本まや子訳『モルフィ公爵夫人』(『エリザベス朝演劇集』所収・1974・筑摩書房)』▽『I・スコット・キルヴァート著、尾崎寄春訳『ウェブスター』(1971・研究社出版)』