ウォルコット(Derek Walcott)(読み)うぉるこっと(英語表記)Derek Walcott

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ウォルコット(Derek Walcott)
うぉるこっと
Derek Walcott
(1930―2017)

西インド諸島、セント・ルシア詩人劇作家、演出家。両親の父がそれぞれイギリス人とオランダ人で、母はいずれもアフリカ人という混血。父は水彩画家。1950年に、西インド大学に留学のためジャマイカへ渡り、1953年に卒業。のち教師、ジャーナリストとして働き、1957年から2年間ニューヨークで演劇を研修した。1959年にトリニダードに移住し、トリニダード演劇ワークショップを設立して西インド諸島演劇の発展に尽くした。1976年に同ワークショップ支配人を辞任(1993年に復帰)し、1979年にアメリカ文芸アカデミーの名誉会員となった。1980年代以降は客員教授としてコロンビア大学、ボストン大学、ハーバード大学で教え、1992年に「歴史的な鋭く深い洞察に裏打ちされた複合文化の結実といえる、きらめくような一連詩作」が評価されて、ノーベル文学賞を受賞した。初期の詩集『詩、二十五』(1948)、『緑の夜に』(1962)には、ジョン・ダン、アンドルー・マーベルら17世紀イギリス形而上(けいじじょう)詩人、シェークスピア、ディラン・トマスらの影響が色濃い。のち「奴隷の刻印」、貧困、人種問題などカリブ海域特有の風土と歴史を、根なし草的混血文化に由来する疎外感、孤独感を交えながら、トロピカル(熱帯ふう)なイメージで詩に歌い込み、同時に、この根なし草的な「無」の混沌(こんとん)状態と「白い痕跡(こんせき)」から脱皮し、独自の「新世界」の構築を詩のなかで目ざすようになる。そんな作品に、詩集『漂流者』(1965)、『入り江』(1969)、『もう一つの生』(1973)、『浜辺ぶどう』(1976)、『カイニット王国』(1979)、『幸福な旅人』(1982)、『真夏』(1984)、『オメロス(ホメロス)』(1990)、『祝儀(しゅうぎ)』(1997)がある。一方、劇作では詩劇『ヘンリ・クリストフ』(1950)、『ドーフィンの海』(1954)、『モンキー山での夢』(1970)、ドン・ファンの系譜を受け継ぐミュージカル劇『セビーリャの戯(ざ)れごと師』(1978)、『オメロス』を劇化した詩劇『オデュッセイア(オディセイ)』(1993)がある。

土屋 哲]

『徳永暢三訳『デレック・ウォルコット詩集』(1994・小沢書店)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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