ウォレス(英語表記)Wallace, Alfred Russel

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ウォレス」の意味・わかりやすい解説

ウォレス
Wallace, Alfred Russel

[生]1823.1.8. モンマスシャーアスク
[没]1913.11.7. ドーセット,ブロードストン
イギリスの博物学者。初め土地測量,建築業などにたずさわる。 1848年,教員をしていて知合った昆虫学者の H.ベーツとともにアマゾンへ採集旅行に出発。帰国してまもなくマレー諸島に渡り,54~62年の間,島々を旅してそこに成育する動植物の比較研究を行なった。その結果,これらの島は動物相に関して2分されることを発見。これは動物地理学における画期的な発見であり,その境界線は今日ウォレス線と呼ばれている。 55年新種形成に関して,既存の種が変化することにより,別の新しい種が出現すると唱えた。こうした考えに基づき,ウォレスは自然選択の働きによる種の形成の概念を着想,58年に進化に関する彼の考えの要旨をダーウィンに郵送した。これは,種の起原に関するダーウィンの未発表の構想と内容が一致していたため,2人の理論は一つの論文にまとめられ,58年7月のリンネ学会で発表された。動物個体数増加率は餌の増加を上回り,しかも生存可能な個体の数は餌の量によって制限されるために生存競争が起り,適者だけに生延びる機会が与えられる。このような自然選択によって新しい種が出現する,とウォレスは説明した。なお,雌雄の差異やヒトの起源に関するダーウィンの説明に対して,ウォレスは異論を唱えている。その他土地の国有化を主張し,種痘の危険性を警告するなど,社会的発言も活発に行なった。

ウォレス
Wallace, Sir William

[生]1270頃. ペーズリー付近?レンフルー
[没]1305.8.23. ロンドン
スコットランドの国民的英雄。イングランドの支配からの解放闘争の初期に,スコットランドの抵抗勢力を指揮した。1296年,イングランド王エドワード1世がスコットランド王ジョン・ベイリオルを退位させて投獄し,みずからをスコットランドの支配者と宣言した。これに対してウォレスは 1297年に平民や小規模地主からなる軍を組織し,フォース川とテイ川の間に位置するイングランドの守備隊駐屯地を襲撃した。さらにスターリング城を攻略し,一時的にスコットランドから占領軍をほぼ一掃した。同 1297年10月にはイングランド北部に侵攻,12月初めにスコットランドに戻るとナイトに叙せられ,ベイリオルの名において統治するスコットランド王国の守護者と宣せられた。しかし 1298年7月3日,エドワード1世がスコットランドに攻め込み,7月22日ウォレス率いる槍兵はフォールカークの戦いでエドワードの弓兵,騎兵に敗れた。ウォレスは 12月に守護者の地位を退いた。1305年8月5日,ウォレスはグラスゴー近郊で捕えられた。ロンドンに移送されたウォレスは国王への反逆者として大逆罪を宣告され,絞首刑ののち内臓をえぐり出され,斬首され,四つ裂きにされた。

ウォレス
Wallace, DeWitt

[生]1889.11.12. ミネソタセントポール
[没]1981.3.30. ニューヨーク,マウントキスコ
アメリカの雑誌『リーダース・ダイジェスト』の創刊者。カリフォルニア大学バークリー校に在籍中,政府刊行物を要約した小冊子を売る仕事を始めた。第1次世界大戦に従軍して重傷を負い,療養中に一般向けのダイジェスト誌をつくることを思いついた。 1920年に見本を多数の出版社に送ったが,すべて断られ,結局,翌年結婚したリラ夫人と独力で出版することになった。 1922年に創刊した当時は 1500部であったのが,1929年には 20万部,1990年代半ばには 19ヵ国語で合計 2700万部発行されるようになった。ウォレスは創刊号から 1965年まで編集長を務め,1973年まで会長を務めた。当初は他誌記事の要約や抜粋のみであったが,やがてオリジナル記事や話題になった本の要約も載せるようになった。内容が大衆的かつ保守的すぎるという批判もあった。雑誌の大成功で巨万の富を手にした夫妻は,エジプトアブシンベル神殿の保存など,さまざまな文化事業に惜しみない寄付をした。 1972年にはアメリカ大統領より自由勲章を受章した。

ウォレス
Wallace, Sir Richard, Baronet

[生]1818.6.21. イギリス,ロンドン
[没]1890.7.20. フランス,パリ
イギリスの美術収集家。ロンドンのハーフォード・ハウスにある国立美術館ウォレス・コレクションの収集家として名高い。フランスのパリで教育を受け,実父ハーフォード侯爵の秘書として父の美術品収集を助ける。1871年准男爵となり,1878年のパリ万国博覧会代表,ナショナル・ギャラリーの評議員,アイルランドのナショナル・ギャラリー総裁などを務め,晩年パリに隠退。ウォレス・コレクションの一部はハーフォード卿の収集で,17~18世紀のフランスの家具,工芸品,各時代にわたるフランス絵画を含み,ウォレスはこれに武具,ルネサンスや中世の工芸品の収集をつけ加えた。ウォレスと妻の死後その一部が国家に遺贈され,1900年国立美術館として公開された。

ウォレス
Wallace, Henry Agard

[生]1888.10.7. アイオワ,アデール
[没]1965.11.18. コネティカット,ダンベリー
アメリカの政治家。 1910年アイオワ州立大学卒業。農業専門誌の編集のかたわら,トウモロコシ品種改良に従事していたところを F.ルーズベルト大統領に見出され,33~40年農務長官として農業関係の面でニューディール政策の代表的役割を果し,41~45年副大統領。 45年 H.トルーマン政権のもとで商務長官となるが 46年9月対ソ政策でトルーマンと対立し辞任。その後進歩党を結成し,48年の大統領選挙に出馬したが,落選した。ニューディール左派で対ソ協力政策や軍縮を唱え,朝鮮戦争後,進歩党を脱党する。引退後は農業の研究に専念,思想的にはむしろ保守色を強めた。

ウォレス
Wallace, George Corley

[生]1919.8.25. アラバマ,クライオ
[没]1998.9.13. アラバマ,モントゴメリー
アメリカの政治家,人種差別主義者。アラバマ大学卒業。 1963~66年アラバマ州知事,70年,74年にも再選。 63年6月アラバマ大学への黒人入学を拒否,州兵を動員して阻止をはかったが,J.ケネディ大統領が州兵を連邦軍に編入したため失敗。 66年の知事選挙で3選を禁じられているため夫人を身代りに立て,当選。 68年の大統領選挙にはアメリカ独立党から出馬,保守派の白人票を集めて二大政党制に挑戦したが落選。 72,76年民主党大統領予備選挙に出馬したがいずれも敗退。 87年体調を理由に政界から引退。

ウォレス
Wallace, Sir Donald Mackenzie

[生]1841.11.11. ダンバートン
[没]1919.1.10. レミントン
イギリスの著述家でジャーナリスト。ヨーロッパ各地の大学で勉学ののち,28歳でロシア訪問。6年間の滞在後に出した『ロシア』 Russia (1877) で一躍文名をはせた。その後『ロンドン・タイムズ』の特派員などを経て,1891~99年には同紙の外報部長。 99年には,『ブリタニカ百科事典』第 10版の編集責任者をつとめた。

ウォレス
Wallace, William

[生]1843
[没]1897
イギリスの哲学者。オックスフォード大学教授で道徳哲学を講じた。ヘーゲル哲学の解説者として知られる。主著"The Logic of Hegel" (1873) ,"Kant" (82) ,"Ethics and Sociology" (83) ,"Hegel's Philosophy of Mind" (93) 。

ウォレス
Wallace, (Richard Horatio) Edgar

[生]1875.4.1. ロンドン
[没]1932.2.10. ハリウッド
イギリスの大衆小説作家。作品は『四人の正義漢』 The Four Just Men (1905) ,『緑の射手』 The Green Archer (23) など多数。ほかに戯曲も書き,映画『キング・コング』の脚本やジャーナリストとしての仕事も残している。

ウォレス
Wallace, William Vincent

[生]1812.3.11. ウォーターフォード
[没]1865.10.12. ビューゾ
アイルランドの作曲家。生れながらの楽才を示し,1831年ダブリン王立劇場の副指揮者となる。のちオーストラリア,南米,ヨーロッパ,アメリカをめぐる。オペラ『マリターナ』 (1845) が有名。

ウォレス
Wallace, Lewis

[生]1827.4.10. インディアナ,ブルックビル
[没]1905.2.15. インディアナ,クロフォーズビル
アメリカの軍人,外交官,大衆小説作家。キリストの生涯を扱った『ベン・ハー』 Ben-Hur (1880) ほか作品多数。

ウォレス
Wallace, Nellie

[生]1882
[没]1948
イギリスのミュージック・ホールの女性コメディアン,歌手。数少ない女性パントマイム役者。ヒット曲に『トラファルガー広場でジョージにはぐれて』がある。

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