ウォー(Evelyn Arthur St. John Waugh)(読み)うぉー(英語表記)Evelyn Arthur St. John Waugh

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ウォー(Evelyn Arthur St. John Waugh)
うぉー
Evelyn Arthur St. John Waugh
(1903―1966)

イギリスの小説家。グレアム・グリーンと並ぶ、しかしまったく対照的なカトリック作家。10月28日ロンドンの出版社主の家に生まれる。オックスフォード大学で近代史を学ぶが中退、ヒーザリー美術学校に転じたが、これも中退する。文壇へのデビューは長編『衰亡記』(1928)。とばっちりで大学を放校になった青年が出会う事件を、徹底的に滑稽(こっけい)かつグロテスクに描き、次作『いやしい肉体』(1930)とともに第一次世界大戦後の虚脱した社会の痛烈な戯画をつくりあげた。さらに『黒いいたずら』(1932)、『一握(いちあく)の塵(ちり)』(1934)では、文明と未開とを対比しながら、現代に生きる無力なインテリがさんざんな目にあわされるような場を設定して、大いにふざけながら、しかし、その底にある深淵(しんえん)をのぞかせる。これは彼が抱いている美への信奉秩序の感覚の裏返しの表現といえる。1930年カトリックに改宗するが、その影響がより直截(ちょくせつ)にはっきり現れたのが『ブライズヘッドふたたび』(1945。1960改訂)である。さらに意欲的な戦争三部作『名誉の剣』(1965)〔『戦士たち』(1952)、『士官たちと紳士たち』(1955)、『無条件降伏』(1961)をまとめたもの〕では信義、名誉、英雄主義喪失を哀惜するガイ・クラウチバックという主人公を得て円熟境地に達した。ほか伝記『エドマンド・キャンピオン』(1935)、『ロナルド・ノックス』(1959)がある。66年4月10日没。

[出淵 博]

『吉田健一編『イーヴリン・ウォー』(1969・研究社出版)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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