ウミヘビ(英語表記)sea snake

翻訳|sea snake

改訂新版 世界大百科事典 「ウミヘビ」の意味・わかりやすい解説

ウミヘビ (海蛇)
sea snake

一生を海で過ごす毒ヘビ類の総称魚類のウミヘビと混同されることがよくあるが,爬虫類のヘビの仲間である。ウミヘビ類は〈海のコブラ〉と呼ばれるように,形質がコブラ類と類似した点が多く,陸生のコブラ類から進化したものと考えられており,コブラ科のウミヘビ亜科Hydrophiinaeとエラブウミヘビ亜科Laticaudinaeに分けられている。ウミヘビ類は15属53種がペルシア湾インド洋から西太平洋オセアニアの暖かい海域に分布し,一部が中央アメリカの太平洋沿岸に達している。日本では南西諸島沿岸にクロガシラウミヘビHydrophis melanocephalus(全長1.2m),イイジマウミヘビEmydocephalus annulatus iijimae(全長0.8m)など9種・亜種が記録されている。ボンボンウミヘビH.semperi(全長1.2m,クロガシラウミヘビの陸封型とも考えられている)1種がルソン島のタール湖の淡水に生息するほかは,すべて海にすむ。

 ウミヘビ亜科には,ウミヘビ類の大部分の48種が含まれる。海洋生活に適応した形態で,頭部は小さく,胴は後方ほど側扁して尾はひれ状となる。鼻孔は頭頂部に開口し,腹板は退化して幅狭く,セグロウミヘビPelamis platurus(全長1m)のようにほとんど他の体鱗と大きさが変わらない種類もある。セグロウミヘビは海洋生活にもっとも適応した1種で,遊泳力が優れ,東アフリカ沿岸からメキシコ太平洋岸まで広範囲に分布している。本種は外洋性の回遊魚類と同様に背面は青みがかった黒色,腹面は黄白色に色分けされ,海面近くを遊泳している。そして頭と尾をわずかに下げて浮遊物のように浮かび,下側に集まってくる小魚類をとらえる。日本近海にも回遊し,出雲地方では11月中旬ごろに季節風に乗って海岸に漂着するセグロウミヘビをホンダワラを敷いた三方に乗せ,竜神として神社に奉納する習わしがある。

 ウミヘビ類はすべて毒性が強く,毒は神経毒を主成分としている。オーストラリアや東南アジアには攻撃性の強い危険な種類が分布するが,大半は性質が温和。生涯上陸することなく沿岸近くの岩礁にすむが,遠く沖合に出るものや魚群の多い河口近くに集まるものもあり,海面で日光浴するものもある。繁殖期には大群が海面下に長い列をつくったり,コイル状に絡み合う。大半が卵胎生で2~6匹ほどの子ヘビを生む。

 エラブウミヘビ亜科はエラブウミヘビLaticauda semifasciata(全長1.2m)など5種類だけが含まれる。真のウミヘビ類より起源が新しく,系統の異なる東南アジア産のシマサンゴヘビ類Maticoraが祖先型と考えられている。陸ヘビのなごりが多分にあって,鼻孔は頭側に開口し,腹板の幅も広い。また卵生で陸に上がって産卵する。サンゴ礁近くに多く,昼夜ともに魚をとらえるが,昼間は岩礁に隠れることが多い。索餌(さくじ)はおもに嗅覚(きゆうかく)によるものでそのため海中でも舌を出し入れさせる。沖縄地方ではウミヘビは食用にされるほか,薫製にして民間薬用に用いられる。
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ウミヘビ (海蛇)
snake eel
serpent eel

ウナギ目ウミヘビ科Ophichthidaeに属する海産魚の総称。関東以南に広く分布し,日本近海には約30種が知られている。体は円柱状で細長く,その名のようにヘビに似ているが,皮膚にうろこがなく,この点でも爬虫類のウミヘビとはおおいに異なる。腹びれはなく,ミミズアナゴ,ヒモウミヘビなどのように胸びれもないものがある。尾びれも退化し,まったくないものが多い。潮間帯の潮だまりや砂れき底,岩礁,やや深い砂泥底などにすみ,日中は物陰や海底に潜み,夜間活動する。どの種類もほとんど食用とされず,利用価値はない。

 ダイナンウミヘビOphisurus macrorhynchusは本州中部以南で,機船底引網によりしばしば漁獲される。体は長く,ウミヘビ類の中でももっとも大きく,全長160cmに及ぶものもある。頭部も長く,吻(ふん)は細く突出する。口は深く裂けている。背びれは胸びれの先端より後方から始まる。体は灰褐色で,斑紋はないが,多数の小隆起線が縦または斜めに走っている。スソウミヘビOphichthus urolophusは南日本に分布し,熊野灘の水深150m前後の海底から多量に漁獲される。吻は短い。全長50cmに達する。背びれの起始部と胸びれとの相対的位置はウミヘビ類の主要な分類形質の一つであるが,本種では個体変異が著しい。モンガラドオシMicrodonophis eraboは外房から沖縄にわたって分布。胸びれが小さい。体は黄褐色で,まるい大きな暗褐色斑紋が縦に2列に並び,ときにはそれらの間に同色の小斑紋が不規則に散在する。頭部の斑紋は小さくて密に散在する。全長70cmを超える。

 ボウウミヘビXyrias revulsusは相模湾以南に分布。熊野灘では機船底引網でかなり漁獲される。体は淡褐色で,腹側は淡色。背面から体側にかけ,ときには腹面にも不規則な褐色斑点が密に分布している。斑点の大きさ,配置には個体変異が著しい。全長1mに達する。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ウミヘビ」の意味・わかりやすい解説

ウミヘビ
sea snake

海中生活に適応して進化を遂げたヘビの一群。コブラ科ウミヘビ亜科およびエラウミヘビ亜科に属するヘビの総称。尾が著しく側扁して鰭状をなし,鼻孔が吻の背側にあるなど,水中生活に適応した形態的変化がみられる。毒をもつ。大きさはほとんどが 0.8~1.3mである。大多数の種は,卵胎生で,インド洋西部から西太平洋にかけての熱帯地方の浅い海域に分布し,セグロウミヘビだけが外洋性である。化石種は知られておらず,分類の難しいグループである。

ウミヘビ

ウミヘビ科」のページをご覧ください。

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ダイビング用語集 「ウミヘビ」の解説

ウミヘビ

ウミヘビは太平洋、南アメリカ、インド洋の熱帯域で見られ、その毒は陸上の毒ヘビ、コブラを上回るほどの猛毒とも言われる。しかしウミヘビの口は小さく、毒牙も発達していないので、ダイバーが危害を受けることは少ない。しかし猛毒を持っていることは確かなので、 ダイバーはウミヘビに対してむやみに攻撃的な行動をとるべきではなく、万一かまれたときは、至急医師の手当を受ける必要がある。

出典 ダイビング情報ポータルサイト『ダイブネット』ダイビング用語集について 情報

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