日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ウルフ(Thomas Clayton Wolfe)
うるふ
Thomas Clayton Wolfe
(1900―1938)
アメリカの小説家。ノース・カロライナ州アッシュビルに生まれる。石材店主の父と旅館業者の母から強い影響を受ける。ノース・カロライナ大学とハーバード大学大学院で劇作法を修めたのち、しばらくニューヨーク大学で教職につく。恋人、母、師、パトロンともいうべきアリーヌ・バーンスタインAline Bernstein(1880―1955)の励ましを受けて『天使よ故郷を見よ』(1929)を執筆し、『スクリブナーズ』誌の編集者マクスウェル・パーキンズMaxwell Perkins(1884―1947)に認められ、文壇に登場する。しかし、のちには2人と決別した。「真摯(しんし)なる小説はかならずや自伝的である」とウルフは書いているが、まさに彼の4小説『天使よ故郷を見よ』、『時間と河』(1935)、『蜘蛛(くも)の巣と岩』(1939)、『帰れぬ故郷』(1940)は、アメリカとヨーロッパを舞台とする総計3000ページに及ぶ自伝的超大河小説である。身長1メートル95センチ、体重100キログラムのウルフは、青春の激情がほとばしる文体で、ちょうどホイットマンのように、自己を通してアメリカを表現し続けたが、37歳で夭折(ようせつ)した。作品にはほかに、短編小説集『死より朝へ』(1935)、随筆『ある小説の物語』(1936)などがある。
[古平 隆]
『大沢衛編『トマス・ウルフ』(1966・研究社)』