エキュメニズム(読み)えきゅめにずむ(英語表記)ecumenism

翻訳|ecumenism

日本大百科全書(ニッポニカ) 「エキュメニズム」の意味・わかりやすい解説

エキュメニズム
えきゅめにずむ
ecumenism

分裂した全キリスト教会をふたたび一致させようという精神。この実現を目ざす運動ecumenical movementを「教会一致運動」(カトリック)あるいは「世界教会運動」(プロテスタント)とよぶ。歴史的には、1054年のローマ・カトリック教会東方正教会との分離以来、リヨン(1274)、フィレンツェ(1439)の公会議を通じて統一への試みがなされたが、それらはきわめて一時的な効果しかなかった。17世紀後半には、ライプニッツを代表とするドイツ・プロテスタントからの教会合同のよびかけがあったが、これはまったく実らなかった。その後特筆すべき運動もなく、19世紀に入ってようやく統一への理念が検討されるようになるが、これが運動として本格化するのは20世紀に入ってからである。カトリックと英国国教会(イングランド教会)との間では、マリーヌメヘレン)会談(1921~1925)がメルシェ枢機卿(すうききょう)Désiré Joseph Mercier(1851―1926)とハリファックス卿Lord E. Wood Halifax(1881―1959)とを指導者として開催され、一方、英国国教会は、東方正教会との連盟(ユニオン)(1906)の実現を図り、また第5回ランベス会議(1908)などでこれに接近を試みた。カトリック教会でも教皇レオ13世が、1894年に回勅「全世界の君主と国民に」によって信仰一致の必要を説いたが、真に現代的な教会一致運動は、海外宣教上の諸問題の解決と福音(ふくいん)伝道上の効果とを目ざすプロテスタント教会のなかから生まれたといえる。1910年エジンバラで世界宣教会議が開催され、「信仰と職制」運動を通じて神学的教会的次元における一致への第一歩を踏み出すことが決定され、さらに1925年には「生活と実践」運動が発足し、社会的、経済的生活上の実践面における一致への要請がなされた。1937年オックスフォードおよびエジンバラで開かれた会議は、この二大運動を合体させた世界教会協議会World Council of Churches(略してWCC)の設立を決定した。この決定は、第二次世界大戦のため実現が延期され、1948年のアムステルダム会議によって正式の発足をみるに至った。これは、現在なお世界教会運動の最高機関として活動している。

 一方、カトリック教会においても、20世紀に入ると、教会一致への具体的な努力がみられる。英国国教会のポール・ワトソン師が1908年に始めた信仰一致祈祷(きとう)週間は、翌年彼の回宗とともにカトリックでも実施され、1925年にはボーデュアン師Bouduin Lambert(1873―1960)がベルギーのアメー(のちにシュブトーニュ)の小修道院を創設し、翌年より『イレニコン』誌の刊行を行い、コンガール師Yves. M. J. Congar(1904―1995)は教会一致の追求を目標とした『唯一の聖なる(ウナム・サンクトゥス)』叢書(そうしょ)を創刊した。クテュリエ師Paul I. Couturier(1881―1953)は「神が望む方法によって神が望む一致」を願う8日間の「万人の祈祷週間」を実現した。さらに1952年には、世界教会会議の研究部門との接触機関として「教会一致問題カトリック会議」が発足した。こうした状況下にあって、真にカトリック教会をエキュメニズム運動に導いたのは、第二バチカン公会議(1962~1965)であり、その招集者たる教皇ヨハネス23世であった。「独語」から「対話」へを標榜(ひょうぼう)する彼は、コンスタンティノープル総大主教アテナゴラス1世との間に関係を復活し、公会議に非カトリック・キリスト教教会からのオブザーバー派遣を要請し、1960年には教皇庁内にキリスト教徒一致推進事務局を設け、翌年開かれたニュー・デリーにおける第3回WCCに公式代表を送った。ヨハネス23世の教会一致に関する教書「ウニターティス・レディンテグラーティオ」は、1964年公会議において採択され、公布された。ここに教会一致を「ローマ教会への復帰」を条件に実現させようとする姿勢を、カトリック教会は完全に放棄したのである。次の教皇パウルス6世は、ローマにおいて英国国教会のラムゼー博士Arthur Michael Ramsey(1904―1988)と会談し(1966)、さらにトルコにアテナゴラス総大主教を訪問し、一致運動をさらに発展させた。とくに注目すべきことは、1965年12月7日、1054年にローマとコンスタンティノープルとの間で行われた相互破門の解除が宣言されたことである。さらに、パウルス6世は1969年、ジュネーブのWCC本部を公式訪問し、エキュメニズム運動におけるプロテスタント教会との協力の意志を表明した。アメリカでは、1968年にミネソタ州カレッジビルのセント・ジョンズ大学にエキュメニズム文化研究所が設けられている。

 現在、各教会は、「キリストの体は一つでなければならない」という基本的理念においては一致している。だが歴史的経緯やそれぞれの教会の事情により、完全な世界教会の成立は遠いといわざるをえない。しかし、エキュメニズムの精神が、確実に現実的な運動として定着化しつつあることは事実である。その一方で、この運動が公的に制度化し、官僚機構的な体質を帯びることを危惧して「エキュメズムの危機」を訴える声も少なからず聞かれた。

 しかし、WCCや教皇庁を機関とする教会一致運動は、諸教派、諸教会を強制的に合体させようとするものではなく、また目前の緊急事態に処するために便宜的な共同戦線を張るような教会連盟をつくるものでもない。それは、異なった歴史的な背景と条件のもとにある各教会が、それぞれ尊敬と愛に基づく相互理解を深め、その存在を認めあったうえで、世界教会の一員であることを自覚し、キリストのうちに一致することである。具体的には教義、典礼面で共通性のあるカトリックと英国国教会の接近に始まり、全プロテスタント教会を加えた運動に進展している。なお、直接この運動に関係しないが、公会議のなかで取り上げられた「他宗教との対話」がさらにその範囲を広げているとみることもできよう(日本でも社会的問題がおこったとき、たとえば東日本大震災に対し、全キリスト教会と仏教、神道の信者が合同で慰霊、救済の会を催している)。この運動は全教会がともに現代世界が抱えるあらゆる問題と対決し、その償いのために福音を宣揚し、人類愛を説いて神への信仰に基づく世界平和に寄与することを唯一また究極の目的とするのである。

[磯見辰典]

『ハヤールほか著、上智大学中世思想研究所編訳・監修『キリスト教史11』(1991・講談社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「エキュメニズム」の意味・わかりやすい解説

エキュメニズム
Ecumenism

教会一致運動。一般にエキュメニカル・ムーブメントと同義に用いられ,教会合同運動,世界教会運動とも訳される。「分裂しているすべての教会を一つにする運動」であると同時に,それを支える「思想」をも意味する。最近ではキリスト教以外の宗教や無神論,マルキシズムとの対話,協力といった運動までをも含む概念となっている。今日のエキュメニズムは,18~19世紀の海外宣教地での現地協力の実績などを背景にした 1910年のエディンバラ会議など一連の世界宣教会議,あるいは 48年の世界教会協議会 WCCの結成などにみられるように,プロテスタント諸教派の協力,再一致運動が主流を占め,60年代に入りようやくカトリック教会やギリシア正教会がこれに呼応した。ことにカトリック教会が第2バチカン公会議 (1962~65) 以後,分裂はすべての当事者の責任であり等しく相協力すべきであるとして柔軟な姿勢をとりだしたため,エキュメニズムは大きく進展した。また神学的対話,共通典礼,共同訳,新共同訳聖書,社会福祉,人権擁護など広範囲の活動分野においても,諸教会間の一致協力が実を結びつつある。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

山川 世界史小辞典 改訂新版 「エキュメニズム」の解説

エキュメニズム
oecumenism

キリスト教における世界運動。20世紀初め,プロテスタントの運動として始まる。理念的に現存のキリスト教諸派を統一した世界教会を構想。1948年にオランダで世界教会会議が結成された。カトリックは参加していないが,交流は行われている。語源のオイクメネーは,ギリシア語で「世界」を意味する。

出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報

百科事典マイペディア 「エキュメニズム」の意味・わかりやすい解説

エキュメニズム

教会合同

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典(旧版)内のエキュメニズムの言及

【教会合同】より

…唯一の聖なる教会を目ざすキリスト教の統一運動。とくに20世紀になってプロテスタント諸教会によって始められ,その後,カトリック教会,東方正教会などの参画を得て進められている現代の統一運動はエキュメニズムecumenism(世界教会運動)と呼ばれる。 世界の大宗教のうちキリスト教ほど異端と分派が多数生まれ,それが政治的,社会的な抗争につながった宗教はないといってよい。…

※「エキュメニズム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

青天の霹靂

《陸游「九月四日鶏未鳴起作」から。晴れ渡った空に突然起こる雷の意》急に起きる変動・大事件。また、突然うけた衝撃。[補説]「晴天の霹靂」と書くのは誤り。[類語]突発的・発作的・反射的・突然・ひょっこり・...

青天の霹靂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android