日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
エクマン(Vagn Walfrid Ekman)
えくまん
Vagn Walfrid Ekman
(1874―1954)
スウェーデンの海洋物理学者。海洋学者グスタフの子としてストックホルムに生まれる。1902年ウプサラ大学を卒業し、クリスティアニア(現、オスロ)の海洋学研究所に入る。フラム号による北氷洋の漂流から帰ったナンセンは、その科学的成果、とくに吹走流(海流)が風に対し20~40度右偏する観測事実の物理的解明を流体力学の大家V・ビャークネスに依頼した。ビャークネスは即座にこの問題をエクマンに与え、彼は一晩で数理的に解いたといわれる。これは、それまでの海流理論に地球自転の転向力と海水の渦粘性による影響を導入したもので、ナンセンの観測事実を解明し、近代的な海流理論の発足を促した。この論文は1902年スウェーデン語で発表、1905年整理完成されたものが英文で刊行され、「エクマン・スパイラル(螺旋(らせん))」や「エクマン輸送(トランスポート)」の概念とともに近代海洋物理学の重要な古典となっている。
このほか、ナンセンにより注目された「死水(しにみず)」(内部波)現象の理論的解明、海水圧縮率の研究など多彩な研究活動を行い、後者は海流の力学計算法として発展した。理論のみならず海洋測器の開発にも努力、エクマン採水器、エクマン‐メルツ流速計をつくり、長く海洋観測の標準的測器として使用された。1910年から1939年までスウェーデンのルント大学の力学、数理物理学教授を務め、20世紀前半における海洋学の指導的研究者であった。
[半澤正男]