日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
エルサレム(ラーゲルレーブの小説)
えるされむ
Jerusalem
スウェーデンの女流作家ラーゲルレーブの長編小説。二部作。1901~02年刊。アメリカから伝えられた宗教運動に影響され、ダーラナ地方の数家族が土地を売り払ってエルサレムに移住する、という実話をもとにした農民小説。作者自身もパレスチナ旅行のおり、この移住地を訪れている。第1部「ダーラナにて」は旧家イングマルソン一族の系譜を、第2部「聖地にて」は先祖伝来の土地への愛着と信仰の葛藤(かっとう)を扱い、超自然的なできごとや作者の神秘主義的傾向を盛り込む。技巧に走らず、サガ(古アイスランド語による散文の一形式)を思わせる簡潔で抑制のきいた文体で書かれたこの作品は、執筆中の作者の危惧(きぐ)にもかかわらず、ことに第1部は高く評価されている。
[田中三千夫]
『石賀修訳『エルサレム』全2冊(岩波文庫)』