エンマコオロギ(読み)えんまこおろぎ(英語表記)emma field cricket

日本大百科全書(ニッポニカ) 「エンマコオロギ」の意味・わかりやすい解説

エンマコオロギ
えんまこおろぎ / 閻魔蟋蟀
emma field cricket
[学] Teleogryllus emma

昆虫綱直翅(ちょくし)目コオロギ科に属する昆虫。日本にすむコオロギ類中でもっとも普通種。顔面の感じが閻魔(えんま)大王の顔を連想させるところから名がつけられた。日本各地に分布する。体長26~32ミリメートルで、体色は黒褐色でつやがある。頭部は丸く、複眼の上部に茶褐色の眉(び)状紋があり、口器付近もほぼ茶褐色を帯びる。雄の前ばねの背面部にあたる部分が発音器で、左右の前ばねを擦り合わせて音を出す。後肢(こうし)は頑丈な跳躍肢となり、雌雄とも尾端から長めの尾角を出す。雌の産卵管は槍(やり)状で、長さ20ミリメートル内外である。

 1年に1回発生し、成虫は夏から秋にかけて出現し、河原、草原畑地に多く、草の根際に近い地面に浅いくぼみをつくってそこに潜む。雑食性で野菜も食べるので、しばしば畑地の害虫となる。成長は、昼が短いと成長が早くなる短日型で、卵越冬(らんえっとう)し、8~10回の脱皮後、晩夏から秋にかけて羽化する。雄の発音には四つほどの鳴き分けが知られている。「コロコロコロリリリ」という調子は縄張り(テリトリー)の主張で、これが「コロコロコロリー」と変わると雌を呼ぶ声である。交尾をしている際や、雄どうしのけんかの際には別の声に変わる。

 本州以南の暖地には、タイワンエンマコオロギT. taiwanemma北海道と本州北部にはエゾエンマコオロギT. yezoemmaが分布する。両種とも体長がほぼ同じぐらいでエンマコオロギによく似ているが、タイワンエンマコオロギは体が茶褐色がかるものが多く、産卵管は体長に比較して短く(エンマコオロギは長い)、1年に2回発生して幼虫越冬する。エゾエンマコオロギは産卵管がエンマコオロギよりやや長く、卵越冬し、エンマコオロギとはしばしば混生する。

[山崎柄根]


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改訂新版 世界大百科事典 「エンマコオロギ」の意味・わかりやすい解説

エンマコオロギ
emma field cricket
Teleogryllus emma

日本でもっともふつうに見られる代表的なコオロギ。直翅目コオロギ科の昆虫。その顔面が閻魔(えんま)大王に似ているのでこの名があると思われるが,翅が重なるという古語〈重羽(えんば)〉に由来するという説もある。大型で体長は30mm内外。体はつやのある黒褐色で,まるい頭部の複眼上方に沿って褐色の眉状紋(びじようもん)がある。全体にがっしりした体つきで,太い後脚腿節が目だつ。雌は約20mmの槍状の産卵管が腹端から突き出ている。日本全国に見られ,成虫は夏から秋に出現し,河原,草原,畑地などに多い。石下などの地面に浅いくぼみを掘って,日中はここに潜み,夜間は外に出て活動する。雑食性で,なんでもよく食べる。年1化性で,成長の型は短日型。卵で越冬し,春に孵化(ふか)後,8~10回脱皮して成虫となる。雄はコロコロコロリーとよい声で鳴く。なわばりを示すときの声と求愛のときの声とは区別される。また威嚇するときのキリッ,キリッといった調子の声もある。近似種に,北海道や本州北部にいるエゾエンマコオロギT.yezoemmaと,本州以南の暖地や台湾にいて,年2化性のタイワンエンマコオロギがある。エンマコオロギ類は,畑地の作物を食い荒らすことがあるので害虫とされることがある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「エンマコオロギ」の意味・わかりやすい解説

エンマコオロギ
Teleogryllus emma

直翅目コオロギ科。体長 25~30mmで,日本産コオロギのなかの大型種。草原に最も普通の種の1つ。体は黒褐色で強壮。頭部は丸く,複眼上縁に沿って黄白色の眉状斑があり,口器付近も黄褐色のものが多い。前翅は腹部より短いが,後翅は腹端を越えて長く後方に突出する。雌の産卵管は約 20mm。雄は「ころころりー」と鳴く。北海道中部以南,本州,四国,九州に産する。 (→直翅類 )

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百科事典マイペディア 「エンマコオロギ」の意味・わかりやすい解説

エンマコオロギ

直翅(ちょくし)目コオロギ科の昆虫の1種。体長25mm内外,黒褐色。日本全土の草原や畑に生息する。雄はコロコロリーと鳴く。卵で越冬し,成虫は8〜10月に現れる。北海道と本州中北部の海岸や川原にはリー,リーと鳴くエゾエンマコオロギ,暖地の海岸から琉球には幼虫で越冬するタイワンエンマコオロギがいる。
→関連項目コオロギ

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世界大百科事典(旧版)内のエンマコオロギの言及

【適応】より

… 環境との結びつきは,同種内の変異にも見られる。エンマコオロギは日本列島では北海道から種子島・屋久島までの広い範囲に分布していて,秋に成虫になって鳴く大型のコオロギである。いろいろな土地のものを同じ温度で飼うと,北のものほど成虫になるのが早く,幼虫期の長さと原産地の緯度との間には反比例的な関係がある。…

※「エンマコオロギ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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