オリーブ(英語表記)olive
Olea europaea L.

精選版 日本国語大辞典 「オリーブ」の意味・読み・例文・類語

オリーブ

〘名〙 (olive)⸨オリーヴ⸩
モクセイ科の常緑小高木。地中海沿岸地方あるいは小アジア原産といわれ、現在ではインドのパンジャブ地方から地中海沿岸を中心にカナリア諸島、北米、オーストラリア、南アフリカなどで栽培。日本には文久年間(一八六一‐六四)に渡来、瀬戸内海沿岸などで栽培されている。幹は高さ七~一〇メートルになり、長楕円形で表面が濃緑色、裏面が灰白色の葉を対生する。花は黄白色の四弁で、芳香がある。実は卵形か長楕円形で、オリーブ油をとったり、塩づけや酢づけにして食べたりする。材は細工物などに利用。葉は平和や実りのシンボルとして装飾に用いられ、また図案などに表わされる。橄欖(かんらん)とするのは誤称。オレーフホルトガル
▼オリーブの花《季・夏》
▼オリーブの実《季・秋》
※輿地誌略(1826)二「此に枸櫞、橙、柘榴、阿利襪(ヲリブ)等を多く産す」
※青春(1905‐06)〈小栗風葉〉夏「オリイブと海老茶で浮草か何かを合触(あしら)った腹合の帯」

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デジタル大辞泉 「オリーブ」の意味・読み・例文・類語

オリーブ(〈フランス〉olive)

モクセイ科の常緑高木。高さ7~18メートル。葉は細長く、表面が暗緑色、裏面が銀色で、対生する。5~7月ごろ、黄白色の香りのよい花を総状につける。黄緑色の実は熟すると黒紫色になり、油がとれる。地中海地方の原産で、日本では小豆しょうどなどで栽培。 花=夏 実=秋》
延髄錐体3の外側にある長卵円形のふくらみ。内部に下オリーブ核と呼ばれる神経核があり、中枢神経から受け取った情報を処理して小脳に伝える。
[補説]枝葉は平和の象徴とされ、国連旗のデザインなどに使われる。旧約聖書で、ノアの方舟から放たれたハトがオリーブの枝をくわえて戻り、洪水の水が引いた土地を知らせたことに由来する。

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改訂新版 世界大百科事典 「オリーブ」の意味・わかりやすい解説

オリーブ
olive
Olea europaea L.

栽培の歴史が古い地中海沿岸の重要果樹で,モクセイ科の常緑高木。諸説があるが,中近東一帯に野生し,前3000-前2000年ごろから栽培が始まったとみなされ,エルサレムには幹径7.5m,推定樹齢1000年をこえる大樹がある。地中海沿岸地方へ古くから伝わり,スペイン,イタリア,ギリシアなどでは今も重要な農産物となっている。アメリカへは白人の移住とともに伝わり,日本での最初の結実は1874年イタリアから輸入の苗による。香川県小豆島で長く栽培試験が続けられている。葉の表面は光沢のある濃緑色,裏面には細毛が密生して白色を呈し,モクセイに似た白色花をつける。高木性で10~15mになるものがあるが,根もとが多肉質で,強風により折れやすい。果実は品種固有の形状を示し,大きさも1gくらいから15gくらいまである。赤紫色をへて紫黒色に熟し,中の種子は紡錘状で堅い。おもな品種にはマンザニロ,ミッション,セビラノ,ルッカなどがある。ミカン類の育つような日照豊かな温暖地で,土壌には石灰分と通気性があることが栽培条件。乾燥にはかなり強いが湿潤をきらう。接木苗か挿木苗を植え,樹齢8年ごろから長年にわたり結果する。防風対策と,オリーブゾウムシ,コウモリガ,炭疽(たんそ)病などに注意する。収穫時期は加工用途によって異なり,緑果塩蔵(グリーンオリーブ)用には果実の緑色があせ,淡黄緑色になったころ,熟果塩蔵(ライプオリーブ)用には果実がわずかに紅紫色を帯びたころ,また搾油原料用には濃紫黒色に完熟したころにとる。オリーブ果実にはオリュロペインと呼ばれる苦味成分があるので,まず約2%の苛性ソーダ溶液につけて渋抜きをし,水洗し,塩水につけ,さらに本漬をして発酵させるのが塩蔵法で,食べられるまで少なくとも十数日を要する。果肉は15~30%の油分を含み,高級なオリーブ油がしぼられ,化粧用,食用,工業用など用途が広い。種子からもオリーブ核油がとれる。
オリーブ油
執筆者:

グリーンオリーブは塩味と渋みがやや強く,ライプオリーブはおだやかな風味をもつ。いずれもオードブル,カナッペ,あるいはサラダの飾りなどにする。スタッフドオリーブはグリーンオリーブの種を除き,赤いピーマンやアーモンドを詰めたもの。輪切りにすると彩りがよくカクテルにも用いる。
執筆者:

オリーブ園は地中海に固有の景観であるが,ここに展開したギリシア・ローマ文化圏において,その栽培上の特殊性は,次のようなさまざまな注目すべき社会現象を生んだ。(1)オリーブの苗木は植樹してから10~15年後に初めて大収穫が可能となるもので,それまでの期間,投下された資本は利益を生まない。そのため,他人の土地を借りてオリーブ栽培を行おうとする場合,特別の契約が生まれた。それは,栽培者に収穫が開始されるまできわめて低額な地代納入をみとめ,場合によってはそれさえ免除するという優遇措置をとるとともに,いったん収穫がはじまった後には地主から土地の返還をもとめられないよう,所有権にちかい権利を保証する反面,栽培を中途で放棄しないという義務を課するものであった。その結果オリーブ栽培をてことして,たとえば,国土王有のプトレマイオス朝エジプトに私有地が生まれ,また大土地所有が展開したローマ帝政期のシリア北部の石灰岩山地でローマ人の大土地所有が解体し,オリーブ生産者村落にとって代えられるという現象が起こった。(2)いったん実を毎年つけはじめたオリーブ園の労働は,地中海性気候の石灰岩地質地帯では,冬季に枝を刈り込み,春に土をかえすだけで足り,施肥も灌漑も必要でない反面,10月以降の収穫期には,短期間にオリーブの実を採集,搾油する必要から,労働力を集約的につぎこむ必要がある。そこから,上記の古代シリアのオリーブ栽培地帯には,収穫期に多数の季節労働者が一度に流入する一方,それ以外の時期にはオリーブ栽培者はあげて石工となり,槌とのみで岩場をきりひらいて,オリーブ園のテラスや,搾油用水の溜池をつくり,そのほか建築工事にたずさわるという現象が生まれた。古代末期この地方に出現した家屋,集会所,キリスト教会などは,こうした建設活動の結果であった。

 オリーブ油が食用油,灯火,医薬,化粧品,そして祭祀など多面的目的に利用されたのは,歴史的にみて,いうまでもなく古代ギリシア・ローマ文化圏であり,オリーブ油は同文化圏の生活様式にとって第一級の生活必需品となった。エジプトのように地質上オリーブ栽培に適さず,ゴマ,ヒマのような植物油を伝統的に用いていた地域では,プトレマイオス朝時代ギリシア人が多数渡来するにおよんで,オリーブ栽培がはじまった。シリア北部内陸地帯にオリーブ栽培が大規模に展開したのもローマ帝国編入後であり,ここで生産された大量のオリーブ油は,メソポタミアには向かわず,あげて地中海地方に搬出された。反対に,7世紀前半ササン朝ペルシア人,つづいてアラブ・イスラム教徒がこの地方に進出して地中海への販路をとざすと,オリーブ栽培村落は急速に廃村化してしまった。他方,みずからはオリーブを栽培しないが,古来オリーブ油の使用になれてきたガリア地方は,イスラム教徒のこの地中海進出でその補給を断たれ,そこのキリスト教会はオリーブ油にかえて,ろうそくを灯明に用いることを余儀なくされた。
執筆者:

オリーブは地中海沿岸地域や中近東に成立展開した文化において重要な意味をもち,さまざまの象徴的意味を担って美術のモティーフとして用いられた。その果実や果実からとる油が食糧であり,当然豊饒(ほうじよう)や力の象徴となるが,果実の形はあまり目だつものではないので,むしろ枝葉が象徴として用いられることが多く,それが勝利や平和の意味をももった。古代ギリシアではオリーブは女神アテナの木であり,古代ローマではユピテルミネルウァの木であった。旧約聖書では,ノアの洪水のあと,ハトがオリーブの枝をくわえてきたのは,平和の象徴の意味である。オリーブ油は灯火に用いられるところから,光の象徴として見ることもある。イスラム教ではコーランにこれを明言する文章が見られる(24:35)。さらにまた,オリーブを聖樹,とくに世界の中軸をなす木(アクシス・ムンディ)とする見方がイスラムにある。
執筆者:


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日本大百科全書(ニッポニカ) 「オリーブ」の意味・わかりやすい解説

オリーブ
おりーぶ
olive
[学] Olea europaea L.

モクセイ科(APG分類:モクセイ科)の常緑高木。高さ10メートル。葉は対生し、細長い楕円(だえん)形で質が硬く、全縁。表面は暗緑色、裏面は短毛が密生して銀白色。初夏に葉腋(ようえき)から分枝した花軸を出し、花は小さな鐘状で黄白色、花冠の先端が4裂するので一見4弁にみえる。雄しべは2本。果実は広楕円(こうだえん)形で長径2~3センチメートル。秋ごろまでは緑黄色、冬に紫黒色に熟す。中に1個の種子がある。原産は小アジアとされるが、リビアとサハラ砂漠が太古の原産地で、エジプト、クレタ島を経てギリシアに移り、小アジアに入ったとする説もある。日本へは文久(ぶんきゅう)年間(1861~1864)に渡来し、明治末期から小豆島(しょうどしま)での栽培に成功した。世界的にはギリシア、イタリア、スペイン、フランス、トルコなど地中海沿岸諸国が主産地である。

 オリーブには多くの品種があり、品種によって味や油の含量が違い、塩蔵用、採油用など用途が決まっている。繁殖は普通は接木(つぎき)か挿木による。台木は実生(みしょう)台を用い、4月上旬から中旬に切り接ぎ、あるいは春秋二季に芽接ぎを行う。挿木は、長さ30センチメートルほどの枝を3月に露地挿しする。年内に新梢(しんしょう)が伸び、翌年発根する。また、春にひこばえに土寄せして発根させ、翌年に移植するほか、ミスト挿しもできる。日本ではオリーブに橄欖(かんらん)の字をあてていたがこれは誤りで、橄欖はカンラン科の常緑高木のカンラン(一名ウオノホネヌキ)のことである。

[星川清親 2021年7月16日]

利用

果実は加工用と採油用とに大別する。セビラノ、マンザニヨはピクルス用、ルッカ、ネバジョブランコは採油用、ミッションは兼用品種である。加工製品には緑果塩蔵、種子を抜いてピメンタなどを詰めた充填(じゅうてん)塩蔵、熟果塩蔵、ギリシア風オリーブ、干しオリーブそのほかがある。果実には苦味配糖体オリュロペインがあり、渋い。この除去には、カ性ソーダの1.5~2.0%水溶液に、6~10時間の浸漬(しんし)処理がよい。処理後は十分水洗いし、カ性ソーダを除く。油は、熟果の果肉からオリーブ油、核果からはオリーブ核油がとれ、サラダ油、薬用、紡毛、潤滑油、せっけんなどに用いる。材は緻密(ちみつ)で彫刻などに用いられる。

[飯塚宗夫 2021年7月16日]

文化史

オリーブは有史以前から栽培され、古代エジプト王朝のミイラの棺からはその枝や葉が出土している。代表的な聖書植物で、古代ヘブライ人の重要な植物の一つであったことが知られるが、食用のほかに、いけにえを捧(ささ)げる儀式の灯油や、清めの油などに使われた。『旧約聖書』の「ノアの箱舟」(創世記第8章)では、放ったハトがオリーブの枝をくわえて戻ったことから、ノアは、神の怒りである洪水が引いてふたたび大地が姿を現したことを知る。以来オリーブをくわえたハトは平和の象徴とされ、国際連合の旗のデザインにはオリーブの枝があしらわれている。またオリーブはギリシアの国樹とされるが、クレタ文明の壁画にも描かれ、神話では女神アテネによって生み出される。アテネの政治家ソロンは、自由、希望、慈悲、純潔、秩序の象徴としてオリーブの植林を立法し、市民の庭にはオリーブが多く植えられた。実は塩漬けにして食用として保存されるほか、油は髪や肌に塗り、その香りは体臭を消すなど健康維持のためにも使われた。とくに油は貿易商品として重要で、アテネ経済を潤したと推察される。古代ローマには紀元前7世紀ごろに伝わり、女神ミネルバ(アテネと同一視される)のシンボルとされた。また中国ではすでに唐代にその存在が知られ、当時は斉暾樹(さいとんじゅ)とよばれたが、現在の中国名は油橄欖(ゆかんらん)という。

[湯浅浩史 2021年7月16日]


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百科事典マイペディア 「オリーブ」の意味・わかりやすい解説

オリーブ

古くから地中海沿岸地方で栽培されているモクセイ科の有用作物。高さ6〜10mの常緑高木で,原産地はシリア〜トルコのあたりといわれる。葉は長楕円形でかたく,裏面は銀白色で短毛を密生する。初夏,芳香のあるモクセイに似た黄白色の花が多数房状につく。果実は熟すにつれ緑〜紫黒色に変化し,大きさは品種によって幅がある。食用には,緑のうちに収穫し(グリーンオリーブ),また熟果(ライプオリーブ)を塩漬にする。完熟果は15〜30%の油を含み,オリーブ油を採る。地中海沿岸地方のほかカリフォルニアが主産地で,日本では小豆島が有名。
→関連項目ホルトノキ

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色名がわかる辞典 「オリーブ」の解説

オリーブ【olive】

色名の一つ。JISの色彩規格では「暗いみの」としている。一般に、モクセイ科オリーブの果実のような暗い黄褐色のこと。オリーブは地中海原産で、西洋諸国にとって欠くことのできない植物。オリーブオイルは古くから生活の必需品であった。オリーブの色も系統色名の一つとして重要な位置をしめている。色名は衣料品、スニーカー、皮革製品、日用雑貨、光学機器などに幅広く用いられている。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「オリーブ」の意味・わかりやすい解説

オリーブ
Olea europaea; olive

モクセイ科の常緑小高木。地中海沿岸原産で,世界各地の暖かく乾燥した地方に栽培されている。高さ7~10m,緑白色で小型の長楕円形の葉は互生する。夏秋の頃,モクセイに似た黄白色で芳香のある小花をつける。果実は楕円体状,長さ2~3cmの液果で,紫黒色に熟する。未熟の果実を塩漬にして食べ,また熟した果実からオリーブ油をとり,サラダ油など食用にあて,また化粧用の香油や石鹸原料,薬用に使う。材は木目が美しく細工物に使われる。創世記の記述から平和のシンボルとされている。

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栄養・生化学辞典 「オリーブ」の解説

オリーブ

 ゴマノハグサ目モクセイ科オリーブ属の[Olea europaea]という常緑樹の果実.未熟な緑色のものも,熟した黒色のものも収穫する.通常塩水に浸して用いる.また果実からオリーブ油を搾油して,広く食用にする.オレイン酸に富む(重量で75%).

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世界大百科事典(旧版)内のオリーブの言及

【油】より

…その他,日本では下剤として知られるヒマシ油の原料であるヒマや,キク科のニガーシードNiger seedなどもアフリカで改良された油料植物である。 地中海地方ではオリーブが重要である。古代エジプト人は多くの油を使用したが,オリーブ油はヒマシ油と同様に下層民の水浴後の身体塗装用の油であった。…

【カンラン(橄欖)】より

…果肉も生食,塩漬,砂糖漬,薬酒として利用する。モクセイ科のオリーブに橄欖の字をあてることがあるが,これは誤用。 カンラン属Canariumは約75種の樹木からなり,大部分が東南アジア~太平洋地域に分布する。…

【生命の樹】より

…これらのモティーフは仏国土を表現する宝樹にも使われている。なお,ヨーロッパのキリスト教美術でも〈生命の樹〉としてのブドウがしばしば描かれ,今も行われる枝の主日のオリーブやナツメヤシの祝福,またクリスマス・ツリーも聖樹崇拝の名ごりといえる。【長田 玲子】。…

【トロフィー】より

…今日トロフィーに見られる柱状の形式は,そのころのなごりと思われる。 また,トロフィーにはオリーブや月桂樹の枝葉がデザインされていることが多いが,これも古代ギリシアの故事に基づいている。第7回の古代オリンピック大会(前752)の優勝者に,神域に茂った野生のオリーブの小枝の冠が与えられたと伝えられている。…

【ハト(鳩)】より

…またその旺盛な繁殖力や生命力から豊饒の象徴と考えられた。さらにオリーブの枝をくわえた鳩は平和の象徴に用いられる。これはノアの洪水がおさまったとき,陸地がふたたび現れたかどうかを調べるために箱舟から放たれた鳩がオリーブの小枝をもち帰ったという《創世記》(8章8~11節)の記事に由来する。…

※「オリーブ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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