カサガイ(読み)かさがい(英語表記)limpet

翻訳|limpet

改訂新版 世界大百科事典 「カサガイ」の意味・わかりやすい解説

カサガイ (笠貝)

笠を伏せたような形の貝類。ユキノカサガイ科Patellidae,ツタノハガイ科Acmaeidae,カラマツガイ科Siphonariidaeに属する巻貝総称,またはその内の1種を指す。

 カサガイCellana mazatlandicaはツタノハガイ科に属し,殻は大型で円錐形,高さ5cm,長さ7cm,幅6cmになる。黄色の地に黒斑があり,表面に太い放射状の肋がある。内面は弱い真珠光沢がある。潮間帯の岩礁にすみ岩上の小さい藻類をなめ取って食べる。小笠原特産で天然記念物。この種は,初めメキシコ産とされたが,その後小笠原産であることが確認された。

 ツタノハガイ科にはツタノハガイ,ベッコウカサガイ,ヨメガカサガイマツバガイなどが,ユキノカサガイ科にはユキノカサガイ,ウノアシガイ,アオガイ,カモガイなどの種類があり,日本では多くは房総半島以南の潮間帯の岩礁にすむが,一部は北海道南部に及び,ユキノカサガイは北海道や東北地方に分布する。笠型の殻頂は軟体の頭と同じ方向になっている。ツタノハガイ科は殻の内面に真珠光沢があり,軟体はえらを欠くが,ユキノカサガイ科は内面に真珠光沢がなく,軟体の背上に一つのえらがある。

 岩上の小さい藻類を食べるので,かき取る歯の列は体長の数倍の長さがあり,歯が磨滅してもすぐ補える。ウノアシガイなどは一定の場所にすみ,潮がひくとはい出て餌をあさり,またもとの場所に帰る帰家習性があり,カモガイは暖かい夏は高所に,寒い冬は低所へ移動する。雌雄異体で卵は水中へ産み出される。

 カラマツガイ科にはキクノハナガイ,カラマツガイなどが属し,前2科と異なり,殻頂は軟体の頭の方向と異なり後側方を向き,えらを欠く。潮間帯岩礁にすみ,帰家習性がある。雌雄同体で岩上に指輪型の卵塊を産みつけ,幼生になってから海中に泳ぎ出る。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「カサガイ」の意味・わかりやすい解説

カサガイ
かさがい / 笠貝
limpet

軟体動物門腹足綱のうち、前鰓亜綱(ぜんさいあこう)のツタノハガイ科、ユキノカサガイ科、シロガサガイ科や、有肺亜綱のキクノハナガイ科などの諸種のように、笠形をした殻をもつ貝を総称する俗称

 ツタノハガイ科に属する標準和名カサガイCellana mazatlandicaは、小笠原(おがさわら)諸島のみにすむ大形種で、殻口長径70ミリメートル、殻高50ミリメートルに達し、殻表には、殻頂から縁に向かって走る強い放射肋(ろく)がありその上は顆粒(かりゅう)状で、さらにその上に黒斑(こくはん)がある。肋間の溝は深い。内面には銀色光沢がある。他の地方には分布しないので国の天然記念物に指定されている。学名のマサトランはメキシコ西部の地名で産地とあわないが、命名者が産地を取り違えたものと思われる。カサガイと俗称される主要なものに、ツタノハガイ科中にはヨメガカサガイ(別名ヨメノサラ)C. toreuma、マツバガイ(別名ウシノツメ)C. nigrolineata、ベッコウガサガイC. grataなどがあり、ユキノカサガイ科には、ユキノカサガイAcmaea pallida、アオガイNotoacmea schrenckii、ウノアシガイPatelloida saccharina、カモガイCollisella dorsuosaなどがある。また、キクノハナガイ科にはキクノハナガイSiphonaria sirius、カラマツガイS. japonicaなどがあり、他の科に属する笠形の貝も少数ある。

[奥谷喬司]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カサガイ」の意味・わかりやすい解説

カサガイ
Cellana mazatlandica; Bonin Island limpet

軟体動物門腹足綱ツタノハガイ科。普通は殻口長径 7cm,殻口短径 5cm,殻高 5cmほどであるが,大型のものでは長径 10cm以上になるものもある。殻は円錐形で,巻かない。殻表は灰黄色に黒色斑があり,殻頂から多くの太い肋が放射状に走る。内面は真珠光沢があり,中央の軟体のつく部分は褐色。小笠原諸島に固有で,潮間帯の岩礁に付着する。天然記念物に指定されており,採取は禁止されている。カサガイ limpetはまた,ツタノハガイ科,ユキノカサ科などの笠形の貝の総称としても用いられる。殻はいずれも円錐形で巻かず,殻頂は前方寄りにあって前を向く。内面の馬蹄形の筋肉の付着筋も前方に開いている。ヨメガカサ,マツバガイ Cellana nigrolineata,ツタノハガイ Patella flexuosa,アオガイ Notoacmea schrenckiiウノアシカモガイ,ユキノカサ Acmaea pallidaなどがこれに属する。同じ円錐形の殻でもカラマツガイ,スズメガイ Pilosabia pilosaなどは,それぞれ独自に笠形に進化したもので,たとえばカラマツガイは有肺類に属し,真のカサガイではない。

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世界大百科事典(旧版)内のカサガイの言及

【貝輪】より

…これらの貝は近海でとれるものではなく,交易によって手に入れた南海産のものであることが注目される。そしてゴホウラを縦に切ったものは男性用,イモガイを横に輪切りにしたものは女性用,オオツタノハ,カサガイの背に孔をあけたのは小児用というように,性別・年齢によって異なる貝輪を身につけた。縄文時代に,片腕に20個もの腕輪をはめた人物や,カキの殻に荒く孔をあけた痛そうな腕輪もあり,弥生時代にも両手にそれぞれ10個以上もはめている例などがあることから,単に身を飾るアクセサリーとは違い,腕輪の着装は,呪術者としての特殊な身分にある者に限られていたと思われる。…

※「カサガイ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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