カダヤシ(読み)かだやし(英語表記)common gambusia

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カダヤシ」の意味・わかりやすい解説

カダヤシ
かだやし / 蚊絶
common gambusia
[学] Gambusia affinis

硬骨魚綱トウゴロイワシ目グッピー科に属する淡水魚。汽水域にも生息が可能である。タップミノーとよばれたこともあるが、現在ではこの英名はほかのグループの魚に用いられている。ニュー・ジャージーからメキシコにかけての北アメリカ大西洋側が原産地であるが、現在までに世界の50か国以上に移入され定着している。日本への移入は1916年(大正5)以来で、分布域を確実に拡大しており、最近までに福島県・富山県以南の本州と四国、九州、琉球(りゅうきゅう)諸島各地で記録されている。

 川の下流域や浅い池に多く生息する。結氷から約40℃までの水温に耐えることが可能なうえに、水面生活者であるため水中の酸素欠乏に強い。卵胎生で、3~10月の繁殖期にはほぼ1か月置きに数十尾から200尾の仔魚(しぎょ)を産む。雄の臀(しり)びれは棒状交尾器に変形している。珪藻(けいそう)やミジンコをはじめあらゆる小形の動植物を食うが、とくにカの幼虫ボウフラ)と蛹(さなぎ)(オニボウフラ)および魚卵小魚を好む傾向がある。

 名のカダヤシは「蚊絶やし」を意味しており、この特性を買われて、世界各地とくにマラリアの多発地帯に移入された。しかし、魚卵と仔魚を食害するため、移入先の土着種に大被害を与えて絶滅させた例もある。日本では生態の類似しているメダカの被害が著しい。たとえば、東京都内とその近郊池沼では、カダヤシに駆逐されてメダカはほとんどみられなくなった。

[水野信彦]

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改訂新版 世界大百科事典 「カダヤシ」の意味・わかりやすい解説

カダヤシ
Gambusia affinis

メダカ目カダヤシ科の淡水魚。体型,体色とも野生のメダカによく似るが,しりびれの付け根がメダカよりはるかに短い。卵胎生で,体内受精を行う。このため雄のしりびれ前部が変形して棒状の交尾器となっている。全長は雄で3cm,雌で5cmに達する。和名の“蚊絶やし”は英名のmosquito fish(カを食べる魚)に由来する。北アメリカ南東部の大西洋岸からメキシコ湾岸を原産地とする。カのボウフラを食べるので,マラリヤ撲滅の目的で世界の各地へ移植された。日本へは初め台湾を経て入った。当初タップミノーtopminnowと呼ばれたが,この名は元来卵生種も含まれるこの仲間全体の通称なので,カダヤシに改められた。現在では,江戸川河口付近や琉球列島で野生化している。塩分や汚水に強く繁殖力も大きい。東京近辺での繁殖期は5~10月に及ぶ。アメリカでは移植先の在来種を絶滅させた例もある。他方,本種のボウフラ捕食能力はグッピーに劣るといわれる。
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百科事典マイペディア 「カダヤシ」の意味・わかりやすい解説

カダヤシ

カダヤシ科の淡水魚。体型,体色ともメダカによく似るが,しりびれの付け根がメダカよりもはるかに短い。北米南東部の原産。カのボウフラを食べるので,マラリア撲滅のため世界各地へ移植された。和名〈蚊絶やし〉もこれに由来。日本では,江戸川の河口付近や琉球諸島で野生化している。ただし,同じ科に属するグッピーの方が,ボウフラをよく食べるともいわれる。全長は,雄3cm,雌5cm。卵胎生で体内受精を行う。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カダヤシ」の意味・わかりやすい解説

カダヤシ
Gambusia affinis; mosquitofish

カダヤシ目カダヤシ科の魚。一見メダカに似ているが,尻鰭が小さく腹鰭に近い位置にあり,雄は尻鰭が変形して交尾器となっている点で容易に区別される。体長は雄約 4cm,雌約 6cm。体色は通常明るい灰色だが,黒いまだら模様もある。胎生。(蚊)の幼虫であるぼうふらを好んで捕食するので,その名がある。北アメリカ南東部の淡水に生息し,カの防除の目的で各国へ輸出され,日本には台湾を経て入ってきた。比較的よく汚水に耐え,今日では各地に定着,繁殖し,特定外来生物(→外来生物)に指定されている。

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世界大百科事典(旧版)内のカダヤシの言及

【帰化生物】より

… 帰化動物には,人間が意識して有用な動物を移入し,帰化を図った場合と,人間がそのような意識なしに動物を移入し,偶然の機会に帰化した場合とがある。人間が意識的に帰化を図って成功したものとしては,日本には,沖縄県が毒ヘビ,とくにハブの駆除を目的として,1910年にインドから移入し渡名喜島などに放したマングース,農林省が狩猟鳥を増やす目的で,19‐20年に中国南部から移入し,東京と神奈川に放したコジュケイ,同じく30年ころから数次にわたって朝鮮から移入し,北海道日高に放鳥したコウライキジ,カの駆除を目的に台湾から移入し,東京,千葉などで野生化している北アメリカ原産のカダヤシ(タップミノー),食用に中国から移入し,利根川水系で野生化しているソウギョなどがある。 偶然に帰化したものとしては,飼育していたものが逃げ出して定着したものに,1918年ころから食用に北アメリカから移入し,各地で養殖していたが,その一部が逃げ出して各地に野生化したウシガエル,そのウシガエルの餌として30年ころ神奈川に移入して養殖していたところ,大雨による出水で逃げ出して,付近の水田などに野生化し,しだいに各地に分布を広げたといわれる北アメリカ産のアメリカザリガニ,35年ころ食用に台湾から移入したものが,小笠原,奄美,沖縄などに野生化した,アフリカ原産のアフリカマイマイなどがある。…

【交尾】より

… 硬骨魚類は一般に卵生で体外受精であるが,卵胎生で体内受精をするものも少なくない。トウゴロウイワシ類のカダヤシなどでは雄のしりびれの鰭条が精子を導く槍状の器官(gonopodium)になっている。同じ仲間にはこれが中空の管になっているものや,のどの下に複雑な交尾器官(priapium)をもっている種類もある。…

【生物群集】より

…例えばアブラムシ(アリマキ)のいる木の枝をトビイロシワアリとトビイロケアリが集団で争い,昼間はケアリが,夜はシワアリが占拠するのは有名である。もう少し広い範囲で起こっている例でいえば,北アメリカ原産の淡水魚カダヤシが1916年に台湾から侵入してきて,60年代末には広く全国に広がり,各地で,とくに関東平野,大阪平野,沖縄島などでは,今やメダカをほとんど駆逐してしまったのである。さらに沖縄島南部では,熱帯アメリカからきたグッピーが増え,70年代末にはカダヤシにも取って代わってしまった。…

【熱帯魚】より

…水槽での飼育繁殖はむずかしい。(4)カダヤシ科(胎生メダカ類)Poeciliidae 北アメリカから南アメリカにかけて分布する。雄のしりびれは交尾器に変形している。…

※「カダヤシ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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