カトリック教会の性的虐待問題(読み)かとりっくきょうかいのせいてきぎゃくたいもんだい

知恵蔵の解説

カトリック教会の性的虐待問題

カトリック教会の聖職者が信徒の児童などに行った性的虐待を巡る問題。特定の聖職者による個人的な犯罪にとどまらず、教会組織が事件の隠蔽(いんぺい)に関与していたことから大きな問題になった。長年にわたり年少の児童が被害を受けた事例が多数あることを2000年代に入ってマスコミが大きくとり上げ、世界各国で社会問題化した。この責任を巡って、ローマ教皇ベネディクト16世(当時)が被害者側から謝罪を求められたり、教皇の退位を求める抗議活動が行われたりし、13年に教皇辞任に至る要因の一つとなった。
宗教指導者による性的虐待は、これまで数多くの事例が指摘されてきた。宗教指導者と信徒の間には、宗教的な支配・従属に類する閉鎖的な関係が結ばれがちである。そのため、教団内で著しい人権侵害が行われていても、社会的に顕在化することは少ない。このことが、聖職者による性的虐待がはびこる温床になったと指摘されている。カトリック教会において、性的虐待と組織ぐるみの隠蔽が大きく明るみに出たのは、02年1月の地方紙「ボストン・グローブ」の報道が端緒とされる。米ボストンの教区司祭が、1976年に性的虐待で警察当局に拘留されたにもかかわらず、教会はこの事実を直視することなく司祭の行為を黙認した。教会は被害者側とひそかに示談に持ち込んだり、この司祭を他の教区に異動させたりなどして被害を広げた。この司祭は91年の虐待事件でようやく起訴されるが、聖職を剥奪(はくだつ)されたのは98年であり、それまで30年にわたり130人以上もの児童を性的に虐待してきた。マスコミもこれをほとんど取り上げることなく、政治家や弁護士、公権力までが及び腰で、結果として隠蔽に加担してきた。この報道に携わった「ボストン・グローブ」の記者たちの活動を描く映画「スポットライト 世紀のスクープ」は、2015年に公開され、アカデミー作品賞などを受賞したことから、世界各国でも大きな反響を呼んだ。
02年12月にはボストン大司教区の枢機卿が、この事件の他にも同様な事件を黙視していたことが明るみに出て辞任する事態となった。03年にはニューヨーク・タイムズ紙が、全米で4000人以上の聖職者が訴追され1000人以上が性的虐待で有罪を宣告されていることなどを報じた。オーストリア、フランス、アイルランドなど日本を含む世界各国で同様の問題が発覚し、08年に訪米した教皇ベネディクト16世は、被害者らと面会し教会の対応を厳しく批判したが、「社会の堕落にも責任の一端がある」とした。その後、教皇就任以前に、虐待見逃しに関わっていたなどの報道により、教皇の辞任を求めるデモなどが起きた。このような中、バチカン高官によるマネーロンダリングなどの不祥事も発覚し、13年には「心身ともに耐えられない」として、異例の存命中の教皇辞任に至った。次代の教皇フランシスコは、直々の命により諮問委員会「聖職者による青少年性的虐待対策委員会」を設置した。しかし、自らも性的虐待の被害者であった委員会のメンバーが、教皇に提出した政策提言がいつまでも実行されないことなどから辞任を表明するなど、同委員会が有効に機能しているとは言い難い。また、枢機卿などバチカン高官自身が虐待を行っていたケースなども次々と露見している。
なお、18年8月には、米ペンシルベニア州大陪審が同州のカトリック聖職者による未成年者性的虐待の調査レポートをまとめた。調査は、同州について過去70年間にわたり被害者は1000人以上に上り教会が組織的に隠蔽してきたと指摘している。教皇庁はこの発表を受け、「恐ろしい犯罪を恥じ、悲しんでいる」と声明した。

(金谷俊秀 ライター/2018年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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