カプサ文化(読み)カプサぶんか

改訂新版 世界大百科事典 「カプサ文化」の意味・わかりやすい解説

カプサ文化 (カプサぶんか)

北アフリカチュニジアアルジェリアの内陸高原地帯に栄えた中石器文化。更新世の終りごろ,それまで北アフリカに広く分布していた後期旧石器時代アテール文化につづいておこり,ヨーロッパの中石器文化とは別の発展をした。チュニジア南部の町ガフサGafsaの近くにあるエル・メクタ遺跡が代表とされ,ガフサがローマ時代にカプサCapsaと呼ばれたのにちなんで名づけられた。遺跡は岩陰や洞穴にもあるが,野外に発見されることが多く,貝塚,キャンプ遺跡,石組み炉跡遺跡が特徴的である。食料源は貝塚から多量に発見されるカタツムリや淡水産の貝類のほか,馬,ガゼル,牛,バイソンなどの大動物,両生類爬虫類齧歯類などの小動物であった。カプサ文化は異説もあるが前期と後期に分けられ,両時期を通じて細石器のほか大型石器がある。大型石器はナイフ形石器と彫器が主体であり,細石器には幾何学形細石器の典型である細彫器,台形石器,三角形石器をはじめ,半月形石器,小型ナイフ形石器などがある。後期には大型石器はしだいに姿を消し,幾何学形細石器が発達の極に達する。石器のほかには,単純な形の骨器が用いられ,ダチョウの卵殻が垂飾や絵具のパレットとして利用された。また,カプサ文化には平行線,菱形,十字形などの図形を描いた絵画や,動物を写実的に表現した芸術作品がみられる。炭素14法の結果では,エル・メクタ遺跡の前期カプサ文化に対し前6650±400年という年代が得られている。リビアにはカプサ文化に類似するリビコ・カプサ文化がある。東アフリカの東部地溝帯には,ナイフ形石器,彫器,搔器・削器,細石器を特色とする文化があり,ケニア・カプサ文化の名で知られているが,石器の形態的類似のほかには,北アフリカのカプサ文化との関係は明らかではない。なお,マグレブではカプサ文化のあとを受けて,その伝統を引く石器に,磨製石器,石鏃,直剪鏃や土器を加え,農耕・牧畜を始めたカプサ新石器文化がつづく。
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百科事典マイペディア 「カプサ文化」の意味・わかりやすい解説

カプサ文化【カプサぶんか】

北アフリカのマグリブ地方(チュニジア,アルジェリア)を中心とし,イベリア半島,地中海沿岸に分布する中石器時代の文化Capsa。ヨーロッパの中石器文化と時期的にほぼ並行するが,独自の相をもつこの文化は,開地や岩陰にカタツムリを堆積した貝塚遺跡を多く残している。ナイフブレード,掻(そう)器,彫器,三角形・三日月形・台形の細石器が初めて現れ,石刃から細石器への移行が認められる。
→関連項目アフリカ

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「カプサ文化」の意味・わかりやすい解説

カプサ文化
かぷさぶんか
Capsien

北アフリカ、チュニジアのガフサGafsa(古名カプサ)近くにあるエルメクタ遺跡を標準遺跡とする北アフリカの晩期旧石器時代文化。石器、貝殻、骨が混在した貝塚からなる遺跡が多い。とくにカタツムリの貝殻が目をひく場合が多い。しかし、大形獣の骨は少なく、狩猟はなされなかったようである。日常生活において礫(れき)を焼いて熱を利用したことを示す焼礫を多数出土する。後期旧石器時代と同じ大型の石器とともに多くの細石器が知られる。小さな厚い錐(きり)はダチョウの卵殻を装身具に加工する工具であった。

 典型的カプサ文化は紀元前九千年紀をさかのぼらず、細石器が多くなると後期カプサ文化とよばれ(前六千~前五千年紀)、その分布は広がる。しかし、海岸部にはカプサ文化は至らず、海岸部には、併行してイベリアマウル文化があった。前四千年紀には土器が認められ、カプサ文化系新石器時代文化とよばれる。ケニアにも類似した石器が出土するが、つねに土器を伴い、別の文化として区別される。

[山中一郎]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カプサ文化」の意味・わかりやすい解説

カプサ文化
カプサぶんか
Capsian culture

アフリカの中石器文化。カプサ文化と呼ばれる文化はアフリカには2つある。いずれも石刃を原材として,ナイフ形石器,刻器,幾何学形細石器を主体とする文化である。一つは北アフリカのチュニジアを中心として分布しているもので,この文化の幾何学形細石器は最も美しいものとされている。この文化はかたつむりによる貝塚をもっている。ほぼ同時期にマグレブの地中海沿岸地帯にはオラン文化 (イベロ・マウル文化) が分布している。オラン文化は基本的性格はカプサ文化と同一であるが,幾何学形細石器がみられるのが大きな特色である。もう一つは東アフリカのケニアを中心に分布しているもので,ケニア=カプサ文化と呼ばれている。この文化は大型のナイフ形石器が主体となり,細石器も伴っている。この両者は現状ではまったく関係がないと考えられている。アフリカ大陸では,石刃を原材とする文化は伝統がなく,両文化の起源はいろいろの説が出されているが,定説はまだない。時期については中石器時代に属するとされている。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「カプサ文化」の解説

カプサ文化(カプサぶんか)
Capsa

地中海沿岸に広く分布する旧石器時代後期から中石器時代にわたる先史文化。南チュニジアのガフサ市近郊エル・メクタの遺跡にちなみ,1909年,ド・モルガンの命名した文化である(ガフサ〈Gafsa〉のラテン語名がカプサ)。ヨーロッパのオーリニャック文化マドレーヌ文化の石器に併行したフリント製の石刃(せきじん)系石器から,小型の幾何的形態の細石器(カプサ末期)まで出土する。ことに東スペインの岩陰遺跡(ピレタ,コグール,アルペラ,シェラ,モレナなど)は,狩猟や祭儀の光景を描いて有名である。

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旺文社世界史事典 三訂版 「カプサ文化」の解説

カプサ文化
カプサぶんか
Capsa

旧石器時代後期に,北アフリカや地中海沿岸で栄えた文化
石刃系の石器が見られ,後期には細石器を出土する。狩猟生活や呪術 (じゆじゆつ) に関連した洞窟 (どうくつ) 絵画も見られる。チュニジア南部の町ガフサの遺跡名に由来する。

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世界大百科事典(旧版)内のカプサ文化の言及

【サハラ砂漠】より

…ゾウやキリンの絵,カモシカなどを弓矢で追う狩人,仮面をかぶって踊る人,ウマやウシに引かせた二輪車に乗る人,大きな角のウシを追う牧人等々が描かれている。 石器の上からは,不明な点の多い旧石器時代のあと,石鏃を中心とする細石器が著しいカプサ文化(いまのチュニジアのあたりが中心),握りのついた磨製石斧に特徴のあるテネレ文化(エジプト西部が中心),骨や象牙を使った銛や装身具も含むスーダン文化(ナイル中流あたりが中心)などの新石器文化が認められる。
[住民]
 (1)アラブの侵入以前のベルベルと総称される住民,(2)西アジア起源のアラブ,(3)ムーア人(モール人)と総称される著しくアラブ化された住民,(4)サハラ以南起源の黒人,の四つに大別できる。…

※「カプサ文化」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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