日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
カラス(Maria Callas)
からす
Maria Callas
(1923―1977)
ギリシアのソプラノ歌手。ギリシア系移民の子として、12月3日ニューヨークに生まれる。15歳のときギリシアに移り、アテネ音楽院で学び、1941年アテネ歌劇場でプッチーニの『トスカ』でデビュー。47年北イタリア、ベローナのオペラ祭で一躍有名となり、イタリア各地の歌劇場でベルディやワーグナーのオペラを歌うようになったが、指揮者セラフィンの勧めで、19世紀前半からベルディまでのイタリア・オペラを中心にするようになり、劇的に彫琢(ちょうたく)された演技、ベルカントの歌唱様式の理想、役に対する知的な解釈が一体となった演奏スタイルをつくりあげた。
とくに1950年代のカラスは、流麗さと多彩な声質を駆使し、人物の深い心理表現を探究するのに成功した。しかし、60年代には声に変調をきたすことが多くなり、しばしば公演をキャンセルした。65年ロンドンのコベント・ガーデン王立歌劇場で『トスカ』を歌ったのを最後にオペラの舞台から引退。70年にはパゾリーニ監督の映画『王女メディア』に出演。以後はときおり教育活動と演奏会を続け、73年(昭和48)にはディ・ステファノとのジョイント・リサイタルで来日した。77年9月16日パリで没。
[美山良夫]
『ピエール・ジャン・レミ著、矢野浩三郎訳『マリア・カラス――ひとりの女の生涯』(1984・みすず書房)』▽『G・B・メネギーニ著、南条年章訳『わが妻マリア・カラス』全2冊(1984・音楽之友社)』