精選版 日本国語大辞典 「カラス」の意味・読み・例文・類語
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スズメ目カラス科カラス属Corvusの鳥の総称。日本人が一般にカラスと呼んでいる鳥は,日本の各地で繁殖しているハシボソガラスCorvus coroneとハシブトガラスC.macrorhynchosである。ハシボソガラスは旧北区のほぼ全域に分布し,日本では九州以北で繁殖。全長約50cm。市街化があまり進んでいない都会地周辺から農耕地,牧草地,林などの混在している環境,山地,漁村などにふつうに生息している。しかし都会地化が進むと,この種は繁殖しなくなり,姿を消す。ハシブトガラスはアムール地方,サハリン,千島,日本からアジア南部にかけて繁殖分布する。日本では種子島および屋久島以北の各地に繁殖するハシブトガラスC.m.japonensis,奄美大島から宮古島の間の島々に繁殖するリュウキュウハシブトガラスC.m.connectens,八重山列島に繁殖するオサハシブトガラスC.m.osaiの3亜種が分布している。ハシブトガラスはこのうち最大で全長約60cm,オサハシブトガラスは小さく,全長約40cm。ハシボソガラスとは対照的に,ハシブトガラスは都会的な環境への対応性が強く,東京都心のような環境でも,高木の多い公園や住宅地にふつうに繁殖している。また,山地の観光地のように人出が多く,自然が荒廃した環境に見られるのもこの種である。生態が似ているハシブトガラスとハシボソガラスが共存している地域に見られる両者の生息状況の変遷の要因は,後者は比較的細いくちばしをもち,各種の小動物に依存して生活しているのに比べ,前者は太いくちばしをもち,都会地のごみ捨場のようなところで得られる食物でも生き残れるからである。ハシボソガラスが繁殖しなくなった環境は,自然状態がかなり破壊されていると判断してもまちがいはない。いずれも繁殖期にはつがいに分かれ,なわばり内の高い樹上に枯枝を組んで大きい巣をつくり,産座には枯葉や獣毛を敷く。1腹3~6個の卵を産む。巣立った若鳥はしだいに集まり群れをつくる。
日本にはこのほかにミヤマガラスC.frugilegusとコクマルガラスC.monedulaが冬鳥として九州に渡来し,ミヤマガラスは年によっては多数渡来越冬する。九州北部で〈千羽烏〉〈渡り烏〉といわれているのはこのミヤマガラスである。ワタリガラスC.coraxは北海道に冬鳥として少数が渡来する。これらの種はいずれもカラス属に属し,和名は〈カラス〉とつけられているが,英名ではcrowのほかに,ワタリガラスをraven,ミヤマガラスをrook,コクマルガラスをjackdawという。またカラス属に近縁で別属の鳥にホシガラスやベニバシガラスがあるが,英名はそれぞれnutcrackerとchoughである。
カラス科Corvidaeは26属106種からなり,南極圏の島々,ニュージーランド,大洋中の島々を除き,世界中に広く分布している。羽色と形態から便宜的に分けると,カケス・サンジャク・オナガ・カササギ類などを含む広義のカケス類,ベニハシガラス類,ホシガラス類,カラス類に大別できる。大部分は雌雄同色で,カササギ,ルリカケス,サンジャクなどのように美しい色彩の種が多い。カラス類は後頸(こうけい)部や胸腹部が白い種や全体に黒褐色の種もあるが,全体に青紫色の金属光沢のある黒色の鳥である。海岸から農耕地,林,山地の岩場まであらゆる環境に生息し,樹林の多くない都会地でも生息し続けている種もある。カラス類が,このようなさまざまな環境に進出している要因は,種によって生息環境も食性もかなり異なっているとはいえ,全体としてきわめて雑食性だからである。各種の小動物,果実や種子,鳥の卵や雛,腐肉,水産加工場やごみ捨場で得られるもろもろの動物質など,実に多様な物を食べている。ホシガラス類には2種があり,高山や高緯度地帯の主として針葉樹林に生息し,小動物や針葉樹の種子を好む。ベニハシガラス類も2種で,くちばしは細く湾曲し,1種では鮮赤色,他の1種は黄色。体は中型で黒色。海岸や内陸の山地などの岩場状のところに生息し,主として昆虫類をとっている。前述の広義のカケス類は約60種,主として森林に生息し,小動物,漿果(しようか),堅果を好む。どの種も白色,緑色,青色,紫色などの羽毛をもち,尾の長い種や冠羽のある種もあり,一般に美しい鳥である。カラス科の中でもっとも小さいのはメキシコに分布する美しいヒメアオカケスCyanolyca nanaで全長約20cm,最大は中央アメリカに分布する尾の長いカンムリカケスCalocitta formosaで全長約70cm。繁殖期には多少とも集団になって営巣する種が多く,非繁殖期には一般に群れになって生活している。
執筆者:安部 直哉
全身黒色の羽毛や,不気味で大きな鳴声,鋭い眼光などの特徴が神秘的な印象を与えるためか,カラスは古くから神意を伝達する霊鳥と考えられた。記紀では八咫烏(やたがらす)を天照大神の使者としているが,現在でもカラスを山の神や祖霊の使わしめと考えたり,ミサキ,ミサキ神などと称して神使としたりする神社は多い。名古屋の熱田神宮,近江の多賀大社,安芸の厳島神社などもカラスと関係が深く,カラスに神饌(しんせん)を供して年占をする烏祭,御鳥喰神事(おとぐいしんじ)が行われる。ふだんの日にはカラスを害鳥として憎みきらう農家でも,正月の鍬入れ,鋤初めの日には,烏勧請(からすかんじよう)などといって積極的にこの鳥を招き,投げた餅を食べるか否かで収穫の豊凶を占ったり,田の3ヵ所に置いた食物のいずれをついばむかによって,その年に早・中・晩稲のどれをまくかを決めたりするなど,カラスに神意をうかがった。カラスとの関係ではとくに紀伊の熊野大社が有名であり,中世以降起請文の料紙として多く用いられた牛玉(ごおう)宝印には,多数のカラスが印刷されている。この牛玉で偽りの起請をすると熊野でカラスが3羽死ぬとか,牛玉のカラスを切り取って水に浮かべたものを偽証した者が飲むと吐血して死ぬとかいわれた。また農家では,牛玉を竹に挟んで田畑に立て,虫よけのまじないにした。本来,カラスの予兆は凶事に限らないが,カラス鳴きが悪いといって,これを人の死や不幸の前兆と考えて忌みきらうなど,現在カラスはもっぱら凶兆を告げる鳥のように思われている。これはカラスの外形,体色,鳴声,しかばねをもついばむ悪食,貪食(どんしよく)などから受ける悪印象のためであろう。このような霊力をもつカラスの鳴きまねはめったにするものではないとされ,口の両端がただれる病気をカラスノクチマネ,カラスノアクチなどと称し,この禁忌を犯した罰であるかのように考えた。なお,カラスは黒い羽毛が印象的で注目されたので,そこつ者のフクロウのために羽毛を真っ黒に染められてしまったという〈梟の紺屋〉の昔話が語られている。
執筆者:佐々木 清光
神話では,カラスは太陽にすむ火の精,3本足の鳥(三足烏)とされた。しかし1972年,長沙馬王堆(まおうたい)漢墓から発掘された帛画(はくが)では2本足であり,3本足とするのは,陰陽五行説の流行した後に,2が偶数で陰の数であることから,陽の奇数である3をもって表すようになったものと思われる。またカラスは人里近くにすんで,人間との接触も多かったことから,古来いろいろな俗信や風習が生まれた。一般には姿や鳴声から不吉不祥の鳥と考えられたが,逆に吉祥幸運の鳥,あるいは神の使者とされることも少なくなかった。例えば唐代には,この鳥が庭の木に止まった家は富裕になるという伝承があり(白居易・元微之〈大鳥〉),そこで大皿に肉を供えてこれを祭った(いわゆる烏勧請)。またカラスがある方向を指して一直線に飛ぶ習性のあることから,これを年占に用いたり,日本の八咫烏のように迷い人の道案内をしたという話も多い。長江(揚子江)沿岸,湖南省洞庭湖あたりでは,水神廟にすみついたカラスを航行の安全を守る神の使者と信じ,これを保護し餌を与えた。ほかに,カラスの眼をのむと亡霊の姿を見抜く力を得るという俗信もあった。
執筆者:稲畑 耕一郎
カラスは不気味な鳴声,黒い姿から不吉な鳥とされ,死と関係づける俗信が多い。家のまわりをカラスが飛ぶのは死の前兆とされ,カラスの群れがけたたましく空中を飛びかうのは戦争を予言するのだという。また民話では悪魔や魔女,のろわれた人,とくに首をつって死んだ人の魂がカラスの姿をとるとすることが多い。
しかし,その一方で日本の八咫烏や北欧神話の主神オーディンに仕える2羽のカラス(フギンとムニン)のように,神の使いの霊鳥とする信仰も古くからある。古代ローマではカラスの飛び方や鳴声からいくつもの意味をくみとったし,北欧では戦士がカラスに出会うのは縁起がよいとされた。〈カラス石〉という,それを使うと小鳥のことばが理解でき,姿を消せ,またどんな錠でも開けることのできる石を,カラスは海の中からとってくるといわれる。これもその霊力に対する信仰の反映であろう。カラスの心臓を食べると予言の能力をもてるとも信じられていた。
執筆者:谷口 幸男
ギリシア系のソプラノ歌手。正式のデビューは1941年にアテネでおこなわれた。声は軽快な表現も可能なドラマティック・ソプラノで,19世紀前半のイタリア・オペラのヒロイン〈ノルマ〉や〈ルチア〉を得意とした。ケルビーニ,ロッシーニ,ドニゼッティ,ベリーニ等のオペラの再興に貢献した。演技力にも秀で,女優として映画にも出演した。第2次大戦後の最大のオペラ歌手とされている。65年に引退し,後進の指導にあたるかたわら,オペラの演出もした。73年に初来日。
執筆者:黒田 恭一
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…ところで,古くからオペラの作曲家は,ある特定の歌手の演奏能力を念頭においてオペラを作曲することが珍しくなかったが,そのことは,あるタイプのすぐれた歌手が存在しない場合,過去の名作が再演不能に陥る可能性をはらんでいる,と言えよう。現に,最近ではM.カラスという卓越したソプラノ・ドラマティコを得て,ベリーニの《ノルマ》をはじめとする諸作品が本来の姿で舞台によみがえった事実が想起される。R.シュトラウスの《エレクトラ》は,初演時に,エレクトラに予定された女性歌手が,その役がらの困難さのために出演を放棄するというスキャンダルを生んだ。…
…長いうみへび座の背に乗り,四辺形をつくる小星座。ギリシア神話では太陽神アポロンの使いのカラスで,銀色の翼をし,人間の言葉を話す賢い動物であった。アポロンはテッサリアの王女コロニスを妻としていたが,このカラスは自分の道草のいいわけに,コロニスの不貞をいいたて,アポロンは矢で貞節な妻を殺した。…
…しかし,鬼や動物の姿で示されることもある。役行者(えんのぎようじや)が使役したという前鬼(ぜんき)・後鬼(ごき)は鬼の類であり,羽黒山の護法は,烏飛びの神事に示されるようにカラスである。民俗社会で活動した山伏が使役したイズナやイナリ,犬神なども護法の一種と考えることができる。…
※「カラス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...
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