カルパチ山脈(英語表記)Karpaty

改訂新版 世界大百科事典 「カルパチ山脈」の意味・わかりやすい解説

カルパチ[山脈]
Karpaty

アルプス・ヒマラヤ造山帯の一環をなし,スロバキアブラティスラバから,ユーゴスラビアのニシャバ・ティモーク渓谷まで続く山脈ルーマニア語ではCarpaţi.日本ではカルパティア山脈とも呼ぶ。全長1300kmに及び,弧状をなす。山脈の起源は古く中生代白亜紀の造山運動までさかのぼる。まず,結晶岩質の陸地が現れたが,この陸地は,まもなく海面下に没した。9000万年前,白亜紀末期に,再び造山運動がおこり,海退現象とも重なって,原カルパチが形成された。さらに6000万年前,新生代第三紀になって連続的な造山運動があり,山脈は急速に成長した。同時に,山脈の外側には低いスブカルパチ山脈が,内側にはヨーロッパ最長で活動的な火山脈が生まれ,カルパチ山脈が形成された。地形地質からみて,北西部カルパチ,中央部カルパチ,南東部カルパチの三つに区分される。

 北西部カルパチはドナウ川に臨むスロバキアのブラティスラバ,およびモラバ・オドラ渓谷から,ポーランド南部のビアワBiała渓谷まで続く。地質は複雑であるが,標高は1000~1400mで,まれに2000mを超える。中心の山脈は東西に走るタトリ(ビソケー・タトリ)山地と,地溝に挟まれた小タトリ山脈で,ともに結晶岩からなる。ゲルラホフカ山は2663mで,カルパチ山脈中の最高峰をなし,氷河地形が残る。これらの山脈の南には,メタリフェール山脈がある。これは新生代の火山活動でできた溶岩台地であるが,現在は浸食が進んでいる。ビソケー・タトリ山地の北側には,小カルパチ,白カルパチ,ベスキードなどの山脈が連なる。

 中央部カルパチはビアワ渓谷から,ウクライナのリカ・スビチャ渓谷まで続く。ラドゥ山脈が中心をなすが,山容はおだやかで標高は700~800mである。この山脈の南側には,火山脈のビホラート山脈がある。さらに南には,ハンガリーパンノニア(ハンガリー)平原が広がる。

 南東部カルパチはリカ・スビチャ渓谷からユーゴスラビアのニシャバ・ティモーク渓谷まで続くが,山脈自体は,おもにルーマニアに展開している。この区域のカルパチ山脈はその外側に丘陵状のスブカルパチ山脈を伴っている。そして北西~南東方向に走る東カルパチ山脈,大きく湾曲して東西に走る南カルパチ山脈(トランシルバニア・アルプス),その西端でほぼ南北に走る西カルパチ山脈の三つに分けられる。三つの山脈に囲まれて中央にトランシルバニア盆地がある。東カルパチ山脈には,三つの山脈が並走する。中央の山脈は結晶岩質で,標高は2000m級である。外側の山脈は堆積岩,内側の山脈は火山脈である。南カルパチ山脈は結晶岩質で,ブチェジ,ファガラシュ,パルング,レテザトの四つの山群に分かれ,いずれも2500m級で氷河地形が残る。西カルパチ山脈の中心はビホルBihor山地とアプセニApuseni山地である。石灰岩が広く分布し,カルスト地形が発達する。西カルパチ山脈南部のアルマジュル山脈とミロク山脈の間で,ドナウ川が横断し鉄門をつくる。カルパチ山脈には豊富な鉱物資源が知られ,山腹や渓谷は羊などの放牧に利用される。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

今日のキーワード

黄砂

中国のゴビ砂漠などの砂がジェット気流に乗って日本へ飛来したとみられる黄色の砂。西日本に多く,九州西岸では年間 10日ぐらい,東岸では2日ぐらい降る。大陸砂漠の砂嵐の盛んな春に多いが,まれに冬にも起る。...

黄砂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android