日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
キッド(Thomas Kyd)
きっど
Thomas Kyd
(1557?―95?)
イギリスの劇作家。エリザベス朝時代、「復讐(ふくしゅう)悲劇」流行の端緒となった『スペイン悲劇』(1592初演)の作者として知られる。1580年スペインの対ポルトガル戦勝利を背景に、息子ホレイシオをその恋敵(こいがたき)に殺された将軍ハイエロニモの半狂乱の悲嘆と、劇の演出に見せかけて行われる復讐と彼の死とを骨子に展開するこのドラマは、筋立て、性格描写ともに優れ、好評を博した。この作品にはシェークスピアの『ハムレット』のモチーフに似通ったところがある。キッドには、現存しないが、ハムレットを扱った戯曲(普通「原作ハムレット」とよばれる)があって、シェークスピアはそれをヒントに『ハムレット』をものしたとする説もある。ほかにR・ガルニエからの翻訳劇『コルネリア』(1594初演)などがある。
[冨原芳彰]