キノボリカンガルー(読み)きのぼりかんがるー(英語表記)tree-kangaroo

日本大百科全書(ニッポニカ) 「キノボリカンガルー」の意味・わかりやすい解説

キノボリカンガルー
きのぼりかんがるー
tree-kangaroo

哺乳(ほにゅう)綱有袋目カンガルー科キノボリカンガルー属に含まれる動物総称。この属Dendrolagusの仲間はオーストラリアクイーンズランド州ニューギニア島分布する。ニューギニア島北西部のクロキノボリカンガルーD. ursinus、北東部のアカキノボリカンガルーD. matschieiなど9種に分類される。大きさは種により異なり、頭胴長52~75センチメートル、尾長52~89センチメートル。尾は長くて太く毛が密生し、よく曲がるが物に巻き付けることはできない。前足後ろ足はほとんど同じ大きさで、前足は5本指であるが、後ろ足は第1指を欠き、第2、第3指が結合している。おのおのの指に曲がった強大なつめがある。また、後ろ足は幅広く、足裏には蹠球(しょきゅう)というざらざらしたクッションのような肉球がある。頸(くび)と背の毛は、肩から頭頂に向かい逆立って生える。

 多雨林地帯に生息し、おもに樹上で生活するが、地上でも行動できる。樹上での行動はすばやく、ときには下方の枝に9メートルも飛ぶことがある。昼間は樹上で休息し、日没後に活動して、木の葉や芽、果実などを食べる。雌の下腹部には育児嚢(のう)があり、前方に開口する。妊娠期間は32日で、普通は1頭の子を産む。生まれた子は無毛で、目は閉じている。子は育児嚢内で育てられる。寿命は10年から15年と思われるが20年間飼育された記録がある。

[中里竜二]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「キノボリカンガルー」の意味・わかりやすい解説

キノボリカンガルー
tree kangaroo

有袋目カンガルー科キノボリカンガルー属Dendrolagus哺乳類の総称。樹上生活適応したカンガルー類。ニューギニアに5種,オーストラリア北東部に2種が分布する。体長52~81cm,尾長42~94cm。尾には他の多くのカンガルー類と異なり毛が密生し,根もとから先まであまり太さの変化がない。前肢が比較的よく発達し,かぎづめをもち,枝を握ることができるなど樹上生活への適応を示している。姿に似合わず樹上での動きは敏しょうで,18m以上の高さから地上に飛びおりることもできる。ただし,木の幹をおりるときには後じさりするなど,必ずしも樹上生活に適応しきれていないと思われるところもある。地上にもしばしばおり,木に登るのは,木の上で木の葉や果実などの食物を得るためと敵から逃れるためらしい。地上では,他のカンガルー類と同様,ジャンプして移動する。アカキノボリカンガルーなどは,背が赤みの強い褐色,腹部や四肢が黄色と,有袋類としてはもっとも鮮やかな体色をもっている。肉が美味なため食用として捕獲される。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「キノボリカンガルー」の意味・わかりやすい解説

キノボリカンガルー
Dendrolagus; tree kangaroo

有袋目カンガルー科キノボリカンガルー属の動物の総称。9種ほどから成る。前後肢はほぼ等長。尾は長く,長い毛でおおわれる。四肢の爪は他のカンガルー類のようにまっすぐではなく,曲っている。樹上生活に適応し,樹上での行動は敏捷で,木から木へ飛移ることもある。代表種にクロキノボリカンガルー D. ursinusや,体のやや大きいアカキノボリカンガルー D. matschieiなどがある。ニューギニアに分布し,熱帯雨林に生息する。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「キノボリカンガルー」の意味・わかりやすい解説

キノボリカンガルー

有袋目カンガルー科の哺乳(ほにゅう)類。体長52〜89cm,尾43〜85cm。他のカンガルー類と違って前・後肢の大きさはあまり変わらない。背面は一様な黒色で,胸・腹部は淡褐色。ニューギニアとオーストラリアに分布。雨林地帯にすみ,主として樹上に生活。木登りが巧みで,樹葉,木の実,果実などを食べる。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典(旧版)内のキノボリカンガルーの言及

【絶滅生物】より

…オーストラリアのウォンバットはウシによる生息地の破壊により,タズナツメオワラビーはイヌとキツネに捕食されてともに激減した。ニューギニアのナガハシハリモグラ,キノボリカンガルーなどは狩猟により,南アメリカのメガネグマはトウモロコシの,タテガミオオカミはニワトリの害獣として駆除されて激減し,ライオンタマリンはペット,動物園の展示,医学用実験動物などに1960年ころから年間200~300頭も輸出され,1981年には生息数が100頭以下と推定される危険な状態になった。日本で絶滅寸前にあるのはイリオモテヤマネコ,ニホンカワウソ,トキ,メグロ,カラスバトなどである。…

※「キノボリカンガルー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android