クイントゥス(読み)くいんとぅす(英語表記)Quintus

改訂新版 世界大百科事典 「クイントゥス」の意味・わかりやすい解説

クイントゥス(スミルナの)
Quintus Smyrnaeus

4世紀のギリシア詩人。《ホメロスの続編》と題する14巻の英雄叙事詩の作者。生涯については不詳。ホメロスの《イーリアス》と《オデュッセイア》の間を補う目的で書かれたこの詩は,ヘクトル埋葬からトロイア落城後ギリシアの軍勢故国へ出発するまでの事件を取り扱う。アマゾンの女王ペンテシレイアの奮戦アキレウス戦死アイアスの発狂,木馬計略など,トロイア陥落にまつわるさまざまな物語が詳述され,トロイア戦争に関する失われた叙事詩群の内容を伝える貴重な資料となっている。ホメロスの言語文体で書かれているが,語り口は単調である。豊富に使われている直喩(シミリ)はひじょうに魅力的である。全体的構成にやや統一性を欠くが,個々のエピソードには興味尽きないものがある。神話上名高い英雄たちが次々に戦死してゆくので,全編に哀感が漂い,時には不気味な感じさえする。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「クイントゥス」の意味・わかりやすい解説

クイントゥス
くいんとぅす
Quintus

生没年不詳。4世紀ごろの古代ギリシアの詩人。スミルナに生まれたのでスミルナのクイントゥスとよばれる。叙事詩『ホメロス後日譚(たん)』14巻が現存している。これはアキレスの戦死、トロイアの陥落、ギリシア軍帰航など、ホメロスの『イリアス』の後に起こる事件を語っており、『イリアス』と『オデュッセイア』の間をつなぐねらいがうかがえる。言語や文体はホメロスを模倣しているが、哀感に満ちた印象的な場面がみられる。

[岡 道男]

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