日本大百科全書(ニッポニカ) 「クマムシ」の意味・わかりやすい解説
クマムシ
くまむし / 熊虫
water-bear
緩歩(かんぽ)動物門の動物の総称。体長1ミリメートル以下の微小動物ではあるが、体形や歩くようすがクマを思わせるのでこの名がある。陸上の湿ったコケ類や森林の落葉土中などに多いが、湖沼や海中にすむ種も知られている。熱帯地域では種数、個体数とも少なく、反対に高緯度地域ほど多い。そのうえ世界共通種が多い。
多細胞動物としては最小の部類に属し、体は透明で、円筒形。体表はクチクラで覆われ、外見上体節が不明瞭(ふめいりょう)な真緩歩目と、はっきりしている異緩歩目に分けられる。いずれも4対の歩脚をもち、それらの先端にはつめをもつ。口には石灰質の2本の歯針がある。ほとんどの種は草食性であり、歯針で植物に穴をあけ、吸引力の強い咽頭(いんとう)で細胞液を吸い込む。陸上のクマムシ類は乾燥すると体を縮めてボール状になり、いわゆる乾眠をする。数年間このような仮死状態にあっても、湿気に出会うと蘇生(そせい)する。乾眠個体の生命力の強さは各種の実験で証明されている。たとえば、100℃の塩水中で6時間、92℃の水で1時間、零下252.8℃の液体水素中でも26時間死なないという報告がある。また、紫外線の1時間照射や、細菌には致死量の放射線をも、クマムシは耐えることができる。水中のクマムシ類は、酸素不足や炭酸ガスの増加によって、初めはボール状に、やがて伸長して仮死状態になる。これは1日か、長くても5日ほどしか蘇生力がないが、被嚢(ひのう)を形成した場合は数か月も蘇生力をもつことがある。
雌雄異体で、寿命は3か月ないし2年半くらいである。一生の間に4回ないし12回脱皮し、体細胞の拡大によって成長する。真緩歩目に属するチョウメイムシMacrobiotus intermediusやナガチョウメイムシM. hufelandiiはコケ類などの中に、マミズクマムシHypsibius augustiは池沼の藻類中にごく普通にみられ、世界中に分布する。異緩歩目のトゲクマムシEchiniscus spinigerはコケの中に、イソトゲクマムシEchiniscoides sigismundiは世界各地の磯(いそ)のアオノリの間にすんでいる。
[武田正倫]