クラウス(Karl Kraus)(読み)くらうす(英語表記)Karl Kraus

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

クラウス(Karl Kraus)
くらうす
Karl Kraus
(1874―1936)

オーストリアの批評家、詩人、劇作家ボヘミアの裕福なユダヤ人の家に生まれる。1899年創刊の個人誌『炬火(たいまつ)』(ファッケル)によりながら、以後、ナチス・ドイツのオーストリア併合以前までの36年間、痛烈な風刺と巧みな逆説を駆使しつつウィーンにおいて熾烈(しれつ)な著述活動を展開した。早くからことばの退廃という現象に着目し、己(おの)が鋭敏な言語感覚に基づいて、形骸(けいがい)化したことばがおのずから露呈する社会の腐敗と精神の驕慢(きょうまん)を糾弾したが、その特異な批評原理はアドルノベンヤミン、またウィットゲンシュタイン以後の言語哲学に多大の影響を与えた。作品は多岐にわたるが、戦争の根源をえぐって比類のない浩瀚(こうかん)なモンタージュ劇『人類最期の日々』(1964、発表は1921)およびナチズムに対する黙示録的予言の書『第三のワルプルギスの夜』(1952、発表は1921)を代表作とする。

[池内 紀]

『池内紀他訳『カール・クラウス著作集』(1971・法政大学出版局)』『佐藤康彦他訳『第三のワルプルギスの夜』(1976・法政大学出版局)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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