クレー射撃競技(読み)くれーしゃげききょうぎ(英語表記)clay target shooting

日本大百科全書(ニッポニカ) 「クレー射撃競技」の意味・わかりやすい解説

クレー射撃競技
くれーしゃげききょうぎ
clay target shooting

散弾銃(ショットガン)による標的射撃競技。競技会では空中を飛翔(ひしょう)するクレー標的を、1ラウンドで25個射撃し、4~9ラウンド(大会により指定)で割れた合計数を競う。時速80~120キロメートルで飛ぶクレー(直径11センチメートル、厚さ25ミリメートルの素焼きの皿)を、音速の約1.2倍の弾速の散弾で撃破する、スピードとスリルに富んだ競技で、瞬間の判断力、集中力そして身体能力が高度に発揮されるスポーツである。

[小橋良夫・日本クレー射撃協会 2019年8月20日]

歴史

クレー射撃の起源は古く、1790年ごろにはイギリスのハイゲート地方でアオバトを放って射撃するゲームが行われていたが、1856年、ハンティングフィールド卿(きょう)Lord Huntingfieldが前方に置いた籠(かご)にアオバトを入れ、助手が遠方から紐(ひも)で扉を開いて放鳩(ほうきゅう)し、これを射撃する競技を考案した。この方法はアオバト射撃(ブルーピジョン・シューティング)とよばれ、イギリスをはじめモナコなど数か国の一部愛好家による豪奢(ごうしゃ)なゲームとして続けられていた。

 その後アオバトの不足と、競技の大衆化を図るため、標的にガラス玉を代用するようになったが、1880年にアメリカで今日のようなクレー・ピジョンが発明されて以降、大流行し、1900年の第2回オリンピック・パリ大会でクレー射撃(トラップ)が正式種目に採用されたのを機会に、ヨーロッパそしてアメリカでも盛んに行われるようになった。

 日本での散弾銃射撃は、横浜外国人居留地内でスズメの放鳥射撃が行われたのが動的射撃のおこりとされており、1878年(明治11)、横浜放鳥会が結成され、同年、鶴見村射撃場にて第1回放鳥射撃大会が開催されたという記録がある。やがてアメリカからクレー標的とハンド・トラップ(手投げ放出機)が輸入され、クレー射撃の愛好者も全国的に増えていった。各地に常設射撃場が設置され、1922年(大正11)には日本最初の全日本クレー射撃選手権大会が開催された。現在、同競技は一般社団法人日本クレー射撃協会Japan Clay Target Shooting Association(JCSA)が統轄し、各種公式大会の開催、国民体育大会への参加、国際競技・オリンピック大会への選手派遣、記録の公認などを行っている。なお日本がこの競技で初めてオリンピックに参加したのは、1956年(昭和31)の第16回メルボルン大会からである。1992年(平成4)の第25回バルセロナ大会では、トラップ種目で渡辺和三(わたなべかずみ)(1947―1996)が銀メダルを獲得し、日本クレー射撃界初のメダリストとなった。

[小橋良夫・日本クレー射撃協会 2019年8月20日]

競技種目

国際射撃連盟International Shooting Sport Federation(ISSF)主催のワールドカップや世界選手権大会、オリンピック、JCSA主催の国内公式大会など、クレー射撃の各種大会が開催されているが、競技種目として主要なものには、トラップtrapとスキートskeetの2種目がある。

[日本クレー射撃協会 2019年8月20日]

トラップ

6名1組の射団が編成され、選手は1番から5番までの射台を順次移動しながら射撃する。射台15メートル前方にあるトラップハウス内の放出機より放出されるクレー標的の放出角度は左右45度以内、放出機の前方10メートルの地点でおおむね1.5~3.5メートル以内の高さを通過し、速度・距離は標的が76メートル(±1メートル)の地点に落下するようセットされる。1個の標的に対して2発まで撃てるのがトラップ種目の特徴であり、1ラウンド25個の標的がコンピュータシステムによって左へ10個、右へ10個、中央へ5個、それぞれ公平に放出される。放出機は各射台前方に3基ずつ設置してあり、標的があらかじめどの方向へ放出されるか選手がわからないよう、その放出機の角度と高さを複雑にセットすることなどで競技の難度をあげている。

 オリンピック大会では、男子・女子種目ともに、予選5ラウンド(1ラウンドは25標的、計125標的)を撃ち、予選上位6名が決勝に進出する。

 決勝(計50個)は次の手順で進められる。

(1)6名が25個の標的を射撃
 →最下位が脱落(第6位決定)
(2)5名が5個の標的を射撃
 →累計最下位が脱落(第5位決定)
(3)4名が5個の標的を射撃
 →累計最下位が脱落(第4位決定)
(4)3名が5個の標的を射撃
 →累計最下位が脱落(第3位決定)
(5)2名が10個の標的を射撃
 →累計第1位・第2位が決定
 なおトラップは、1900年パリ大会よりオリンピック正式種目として実施されている。

[日本クレー射撃協会 2019年8月20日]

トラップ・ミックス

トラップ・ミックスtrap mixedは、トラップ射面を使用して実施される男女ペアのチーム戦である。オリンピックでは、2020年東京大会(2021年開催)より採用された新種目であり、同国の選手2名(男子1名、女子1名)によって編成され、ナショナルカラーを使用した同じユニフォームと身分証明書(ID)を着用しなければならない。

 オリンピック大会の予選では、個人競技(トラップ男子種目・トラップ女子種目)で使用したビブナンバーbib number(ゼッケン)をつけなければならず、予選順位が確定した後、決勝で使用する新しいビブナンバーが発行される。各チームの選手は、男子選手を先発、女子選手を後発として、並んで射撃しなければならない。各選手は、25個の標的を1~5番までの各射台で合計3ラウンド(チームでは総合6ラウンド、計150標的)射撃する。チームの順位は、予選の総合点(選手2名の合計点)により決定され、上位6チームが決勝へ進出する。

 予選時は1個の標的に対して2発までの発射が許されるが、決勝では、それぞれの標的に1発ずつしか撃てない。当該チームコーチにより、先に標的を撃つ選手が決められる(男子選手、または女子選手)。先発の選手は各射台へ、ビブナンバーの順に従って位置する。また、後発の選手とチームコーチは射面の左右に設けられた指定席にて待機する。

 先発の選手は、通常の標的を5個撃つ。6人目の選手が5個目の標的を撃ち終わった後に、各チームとも同じ射面を使用する後発の選手と入れ替わるために一時的な停止が行われる。続いて、後発の選手が通常の標的を5個撃つ。一時的な停止が行われる間、アナウンサーによる成績の途中経過と順位の実況が入る。

 先発と後発の選手は、それぞれ5個の標的ごとに射台を交代して25個の標的を撃つ(ラウンドが終わった時点で先発の選手が15個、後発の選手が10個)。それぞれの射台で2個の左、2個の右、1個のストレート標的により構成されたものを撃ったことになる。

 決勝は次の手順で進められる。

(1)6チームが25個(先発選手15個・後発選手10個)の標的を射撃
 →最下位が脱落(第6位決定)
(2)5チームの後発選手が5個の標的を射撃
 →累計最下位が脱落(第5位決定)
(3)4チームの先発選手が5個の標的を射撃
 →累計最下位が脱落(第4位決定)
(4)3チームの後発選手が5個の標的を射撃
 →累計最下位が脱落(第3位決定)
(5)2チームが10個(先発選手5個・後発選手5個)の標的を射撃
 →累計第1位・第2位が確定
[日本クレー射撃協会 2022年2月18日]

ダブル・トラップ

このほか、トラップ射面を使用して実施される種目として、ダブル・トラップDouble Trapがある。一つの射台から同時に放出される2個の標的を2発で撃つ競技で、以前はオリンピックでも行われていたが、男子は2016年リオ・デ・ジャネイロ大会、女子は2004年アテネ大会以降、正式種目から除外されている。

[日本クレー射撃協会 2019年8月20日]

スキート

トラップ種目同様、6名1組の射団が編成され、選手は1番から8番までの射台を順次移動しながら射撃する。スキート射面は、半径19.2メートルの円弧およびその円弧の中心(センター・ポールとよばれる目印がある)から5.5メートルのところに引かれた長さ36.8メートルの基線上の両端に配置された二つのハウス(ハイハウス、ローハウス)と八つの射台からなる。円弧の中心の、地上から4.6メートルの高さに標的交差点があり、円弧からこの標的交差点に向かって基線の左端に1番射台、右端に7番射台が配置されている。2~6番射台は円弧上に8.13メートル間隔で配置、8番射台は基線の中央に配置されている。

 標的は、標的交差点に向かって、ハイハウス、ローハウスの左右放出機より放出され、速度・距離はハイハウス、ローハウスともに65~67メートルの地点に落下するようセットされる。

 1~8番までの各射台における射撃は、標的が1個の場合(シングル)と2個同時の場合(ダブル)があり、トラップ種目と違って、1個の標的に対して1発しか撃てないのがスキート種目の特徴である。各射台では、あらかじめ射撃する標的数や順序が決められており、トラップ種目同様、1ラウンド25個の標的を射撃する。

 オリンピック大会のスキート種目の各射台の標的数や射撃順序は以下のとおりである。

【1番射台(標的数3)】
(1)シングル(ハイ)
(2)ダブル(ハイ→ロー)
【2番射台(標的数3)】
(1)シングル(ハイ)
(2)ダブル(ハイ→ロー)
【3番射台(標的数3)】
(1)シングル(ハイ)
(2)ダブル(ハイ→ロー)
【4番射台(標的数2)】
(1)シングル(ハイ)
(2)シングル(ロー)
【5番射台(標的数3)】
(1)シングル(ロー)
(2)ダブル(ロー→ハイ)
【6番射台(標的数3)】
(1)シングル(ロー)
(2)ダブル(ロー→ハイ)
【7番射台(標的数2)】
(1)ダブル(ロー→ハイ)
【4番射台(標的数4)】
(1)ダブル(ハイ→ロー)
(2)ダブル(ロー→ハイ)
【8番射台(標的数2)】
(1)シングル(ハイ)
(2)シングル(ロー)
 標的が飛行する軌跡はつねに一定ではあるが、2~6番射台までは標的を横から見て射撃するのに対し、1番・8番射台では選手自身の斜め頭上を通過する標的を射撃しなければならない。また、トラップ種目と違い、最初から散弾銃を頬付(ほおづ)けした射撃姿勢がとれず、腰骨の最先端に銃床尾を接した待機姿勢から、銃床尾を持ち上げ肩付けをして射撃しなければならず、かつ、選手がコール(放出の合図)をしてから0~3秒のランダムな時間に標的が放出されるタイマー制がとられていることなどで、競技の難度をあげている。トラップ種目同様、男子・女子種目ともに、予選5ラウンド(1ラウンドは25標的、計125標的)を撃ち、予選上位6名が決勝に進出する。

 決勝(計60個)は次の手順で進められる(3・4・5番射台のみ使用)。

(1)6名が20個の標的を射撃
 →最下位が脱落(第6位決定)
(2)5名が10個の標的を射撃
 →累計最下位が脱落(第5位決定)
(3)4名が10個の標的を射撃
 →累計最下位が脱落(第4位決定)
(4)3名が10個の標的を射撃
 →累計最下位が脱落(第3位決定)
(5)2名が10個の標的を射撃
 →累計第1位・第2位が決定
 なおスキートは、1968年メキシコ大会よりオリンピック正式種目として実施されている。

[日本クレー射撃協会 2019年8月20日]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クレー射撃競技」の意味・わかりやすい解説

クレー射撃競技
クレーしゃげききょうぎ
clay pigeon shooting

散弾銃射撃競技のなかで最も普遍的な競技。放出機から放たれたクレーピジョン (直径 11cmの皿状の標的) をねらい撃ち,命中数を争う。トラップとスキートの2種目がある。トラップ種目は,射手が5ヵ所の射台を移動しながら,正面 15m先に設けられた3台の放出機から遠方に向けて発射される計 25個のクレーを撃つ。クレー1個につき2発撃てるが,クレーがどの放出機から,どの角度,どの方向に放たれるのか,射手にはわからない。3台の放出機から同時に放出される2個のクレーを撃つダブルトラップ種目も,1996年のアトランタ・オリンピック競技大会からオリンピック種目に採用された。日本では銃器の所持が規制され,経費もかさむため,競技人口は少ない。 (→スキート射撃競技 )

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改訂新版 世界大百科事典 「クレー射撃競技」の意味・わかりやすい解説

クレー射撃競技 (クレーしゃげききょうぎ)

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世界大百科事典(旧版)内のクレー射撃競技の言及

【射撃競技】より

…36年には大日本射撃協会が設立されて,国際射撃連合に加盟し,国際的スポーツ競技として発展した。その後53年に大日本射撃協会が改組され,クレー射撃競技,ランニングターゲット競技を統轄する社団法人日本クレー射撃協会,ライフル射撃競技,ピストル射撃競技を統轄する社団法人日本ライフル射撃協会に分かれ,今日に至っている。 オリンピックには第1回大会から正式種目となっており(クレー射撃は第2回から),第2回大会のクレー射撃競技では,標的として実際に鳩を使っていた。…

【的】より

…運動的には空中射撃用,地上射撃用,海上射撃用などがあり,空中射撃の的には放鳥とクレー・ピジョン(粘土の鳩)が用いられる。生鳥とクレーとでは価格がひじょうにちがうので,今日のクレー射撃競技ではクレーを使うが,これは濠(ごう)の中にすえつけたトラップで放出したり,別に高塔を設けてその塔上から放出する。地上射撃には,機械装置によって地上を左右に運動する的があり,多くは野獣の形が用いられる。…

※「クレー射撃競技」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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