クーパー(Alice Cooper)(読み)くーぱー(英語表記)Alice Cooper

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

クーパー(Alice Cooper)
くーぱー
Alice Cooper
(1948― )

アメリカのロック・ボーカリストデトロイト生まれ。本名ビンセント・ファーニアVincent Furnier。奇抜なメイクやコスチューム、お化け屋敷まがいのおどろおどろしい舞台装置、芝居がかったステージングなどからショック・ロックと呼ばれ、1970年代初頭のアメリカで一世を風靡した。いわば社会良識を逆撫でする行為が「ロック」だった時代の覇者であり、後のキッスからマリリン・マンソンに至る、ギミック派ロック・スターのルーツにもあたる。

 1968年プロ・ミュージシャンを目指してロサンゼルスにやって来たファーニアは、ある晩、夢の中で「お前は17世紀の魔女『アリス・クーパー』の生まれ変わりだ」というお告げを聞き、バンド名ならびに自身の芸名をアリス・クーパーとする。翌69年、フランク・ザッパFrank Zappa(1940―93)が主催するストレート・レコーズから2枚のアルバムをリリースするも、前衛的な内容でチャート入りも果たせなかった。軌道修正をはかったクーパーは、後にキッスやピンク・フロイド等のプロデュースを手がけるボブ・エズリンBob Ezrinをプロデューサーに迎える。

 エズリンはバンドに「魔女『アリス・クーパー』の生まれ変わり」というコンセプトを徹底させ、性的倒錯や頽廃趣味、無軌道な暴力などのモチーフを楽曲に持ち込んでいった。ステージ上でのクーパーは、大蛇を身体に巻き、人形の首を切り落とし、電気椅子や絞首台、ギロチンなどを並べて疑似処刑を披露するなど、ホラー映画まがいのパフォーマンスを行い、評判になる。音楽的にも従来の前衛的要素を払拭(ふっしょく)し、代わりにハードでエンターテインメント色豊かなロックン・ロール・サウンドを導入。71年の『ラブ・イット・トゥ・デス』Love It to Deathから「アイム・エイティーン」がシングル・カットされ、70年代初頭のティーンエイジャーの英雄となる。同シングルは全米チャート21位を記録。以後、蛇のアップをジャケットにした『キラー』(1971)、学校机を模したジャケットを開けると、紙のパンティに包まれたレコードが出てくる『スクールズ・アウト』(1972)、蛇皮の財布をモチーフにした『ビリオン・ダラー・ベイビーズ』(1973)等々、彼らの全盛期を代表するアルバムが続々リリースされる。

 作曲に演奏に、クーパー以外のバンド・メンバーも多大な貢献を果たしていたが、エスカレートするパフォーマンスに疑問を抱くようになり、クーパーを残してほどなく全員脱退。75年の『ウェルカム・トゥ・マイ・ナイトメア』以降、クーパーはソロ・アーティストとして活動を再開する。だが独立後のプレッシャーからか、70年代後半には重度のアルコール中毒と精神衰弱に陥ってしまい、エズリンとも決別。80年代に入ってテクノポップやパンク風のシンプル・サウンドにイメージ・チェンジを図るが、いずれもヒットにはつながらず、またエズリンを再起用して全盛期のシアトリカル路線に戻るも、人気回復には至らず長い低迷期が続く。

 ところが80年代後半、おりしもハード・ロックやヘビー・メタルがジャンル的な成熟をみせ、同時にクーパーの音楽を聴いて育ってきたミュージシャンたちが一線に立つようになり、そんな時代の歩調と同調するかのように、奇跡のカムバックが実現する。古巣ワーナーからMCAに移籍した『コンストリクター』(1986)をはじめ、『トラッシュ』(1989)、『ヘイ・ステューピッド』(1991)と、全盛期に劣らぬヒット・アルバムを連発。音楽的にはモダン・メタルの体裁を取りつつ、若手人気ミュージシャンやプロデューサーを大胆に起用し、見事な復活劇を遂げたのであった。90年代以降、以前ほどの活発さは認められず、99年発売のボックス・セットで30年間に及ぶキャリアが総括され、一時は引退説までささやかれたクーパーだが、2000年に『Brutal Planet』、2001年に『Dragontown』とつづけてニュー・アルバムを発表。一時はクイズ番組の解答者か、ホラー映画のカメオ出演(クレジットされずに特別出演すること)といった「タレント業」しか活躍の場がなかったことを思えば、50歳を越えてもなお現役アーティストとして活躍している彼は、とても幸運かつ幸福な存在といえよう。

[木村重樹]

『「アリス・クーパー特集」(『BURRN!』1991年6月号・シンコー・ミュージック)』『「特集アリス・クーパー、ジミ・ヘンドリックス、ジョン・ノーラム」(『炎』1997年9月号・シンコー・ミュージック)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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