グラッシ(Ernesto Grassi)(読み)ぐらっし(英語表記)Ernesto Grassi

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

グラッシ(Ernesto Grassi)
ぐらっし
Ernesto Grassi
(1902―1991)

イタリアのカトリック哲学者。ミラノ大学で哲学博士の学位を取得したのち、ハイデッガー知己を得てドイツのフライブルクで研究を続け、イタリアにハイデッガー哲学を紹介した。しかしハイデッガーがナチスに関与するに至って二人の関係は断絶し、1938年にはグラッシベルリンに移り、さらに1948年以来ミュンヘン大学の教授を務めた。またドイツの代表的な叢書(そうしょ)ロボールトの編集者でもあった。彼は古代哲学やイタリア人文主義の研究を通じて、人間精神の根源を近代的な合理性にではなく、むしろ人間が世界に対してもつビジョン、イメージにあるとする。世界のイメージを形成する人間のもっとも基礎的な行為は「隠喩(いんゆ)的行為」とよばれ、言語もまた、どれほど抽象化された科学的言語であっても、その本質は隠喩的である。こうして人間精神の活動は、そのつど新たな歴史状況のなかで、これに適合した新たなイメージを発見するところに本質がある。したがって、その本質は論理的思考にではなく、むしろレトリックにある。哲学者とは、なによりも修辞学者であり文献学者である。人文主義の根もまさにこの点にある。この立場からマルキシズム批判も行ってきた。著書には『古代の美論』(1962)、『イメージの力』(1970)などがある。

[西村清和]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android