日本大百科全書(ニッポニカ) 「グレゴリウス(叙事詩)」の意味・わかりやすい解説
グレゴリウス(叙事詩)
ぐれごりうす
Gregorius
ドイツ中世の詩人ハルトマン・フォン・アウエの叙事詩。1190年ごろの作。王家の兄妹の間に生まれたグレゴリウスは、生後ただちに海に流され、僧院に拾われて聖職者としての教育を受ける。ある日自らの素性を知った彼は僧院を去り騎士として旅に出る。たどり着いた国が母の統(す)べる国とも知らず、その危難を救い、生みの母である女王と結婚する。やがて二重の近親相姦の罪が明らかになったとき、彼は世を捨て、海中の孤岩で17年間贖罪(しょくざい)を続ける。神はこの行いをよみし給い、グレゴリウスはローマ教皇に選ばれる。近親相姦説話をもとに、聖者譚(たん)と騎士物語双方の魅力を備えた秀作である。トーマス・マンの『選ばれし人』はこの作品を素材としている。
[中島悠爾]
『中島悠爾訳『グレゴーリウス』(『ハルトマン作品集』所収・1982・郁文堂)』