改訂新版 世界大百科事典 「ケチル」の意味・わかりやすい解説
ケチル
ketyl
カルボニル化合物の一電子還元で得られる陰イオンラジカルをいう。カルボニル化合物のアルカリ金属,アルカリ土類金属あるいは電気分解などによる還元で生成する。
代表的な例はベンゾフェノンケチルで,たとえば,ベンゾフェノンC6H5-CO-C6H5をテトラヒドロフランのようなエーテル系の非水溶媒に溶かして金属ナトリウムと接触させると生成し,濃い青色を呈する。ラジカルであることは,電子スピン共鳴吸収(ESR吸収)がみられることからわかる。溶液中ではその二量体との間に平衡が存在しており,酢酸などのような薄い酸で処理するとピナコールになる。
その平衡は溶媒,対をなす金属イオンなどにより変化する。非常に反応性が高く,たとえばベンゾフェノンケチルは,酸素と反応してベンゾフェノンに,水と反応してベンゾフェノンとベンズヒドロールC6H5-CH(OH)-C6H5になる。さらに還元すればジアニオンとなる。エステルからアシロイン(一般式R-CO-CH(OH)-Rで表される化合物)を得るアシロイン縮合も,ケチル類似の陰イオンラジカルを中間体とする反応と考えられる。
執筆者:岡崎 廉治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報