日本大百科全書(ニッポニカ) 「ケラ(昆虫)」の意味・わかりやすい解説
ケラ(昆虫)
けら / 螻蛄
African mole cricket
[学] Gryllotalpa africana
昆虫綱直翅(ちょくし)目ケラ科に属する昆虫。ケラ類を総称していう場合もある。農作物の害虫で、俗にオケラともいう。
[山崎柄根]
形態
体長3センチメートル内外、全体茶褐色で、前脚脛節(けいせつ)は赤褐色。頭部は卵形で小さく、触角は糸状で短い。頭部は丸みを帯び前方に強く細まり、樽(たる)形をした前胸背板に半分ほど隠される。前胸背板には金色微小突起を密生している。前翅は短く楕円(だえん)形で、腹部の根元部分を覆うのみ。前翅は雌雄ともに相似た翅脈をもつが、雄では肘脈(ちゅうみゃく)が枝分れして長三角室をつくり、雌ではこれを欠く。また前翅は雌雄ともに発音器を備えている。後翅は前翅より長く、先端は腹端を越える。前脚はモグラの手のように鋭いつめを備え幅広く、土を掘るのに適した開掘脚(かいくつきゃく)になっている。中脚と後ろ脚は両方とも短く、相似ているが、後ろ脚の腿節(たいせつ)は腹部に沿って湾曲する。腹部は円筒状で長く、尾角は普通のコオロギ類のように長い。産卵管は退化していて、腹端部は雌雄よく似ている。
[山崎柄根]
生態
成虫、幼虫とも地表に近い地下にトンネルをつくり、その中で生活する。産卵は5、6月に行われ、幼虫態でほぼ1年過ごし、翌年の秋までには成虫となる。成熟した雌はトンネルをとっくり状に広げ、そこに草などを詰めて4、5粒の卵を産み付ける。成虫は春秋にトンネル内で低い調子のジージーという声で鳴く。越冬直前になると、それまでの湿った場所を捨て、乾いた土地へ移動する。このとき、灯火に飛んできたりするが、やがて地表深くへ潜って越冬する。食性は雑食性で、植物の根などを食べる。野菜畑や苗代などでは重要な害虫となる。アカオビトガリバチなどLarra属のハチは、特異的にケラを狩る、ケラの天敵である。
日本全土に分布し、アジア、アフリカ、オーストラリアなどに広く分布する。コオロギ類にもっとも類縁が近いが、その生活上の特異性とともに独特の位置を保っている。
[山崎柄根]
民俗
つかまえたケラが足を広げるのを見て、「おまえのお椀(わん)どのくらい」などと大きさを問いかけ、足の開き方で大小を判断する遊びが広く行われている。沖縄県八重山(やえやま)列島石垣島などでは、ケラをニーラ・コンチェンマ(地底の世界の姉さんの意)とよぶ。砂浜で、両手で顔を覆った子が砂の上に伏せ、ほかの子が砂をかけて埋め、ケラになぞらえて、地下の世界のようすを尋ねて答えさせるという子供の遊びも、ニーラ・コンチェンマといい、一種の神意を問う儀式の遊戯化のようである。ケラに問いかけて大小を判断する遊びも、本来はまじめな占いの作法であったと思われる。
[小島瓔]