ゲノム編集食品(読み)ゲノムヘンシュウショクヒン

デジタル大辞泉 「ゲノム編集食品」の意味・読み・例文・類語

ゲノムへんしゅう‐しょくひん〔‐ヘンシフ‐〕【ゲノム編集食品】

ゲノム編集技術を用いて品種改良された農作物や家畜・魚などから得られる食品。オレイン酸の含有量を高めたダイズを搾った食用油など。収穫量の多いイネ、アレルギー成分が少ないコムギや鶏卵、筋肉量を増やしたマダイ、おとなしく養殖しやすいクロマグロなどの開発が進められている。
[補説]ゲノム編集技術には、標的とする塩基配列酵素切断後、DNAが自然に修復する過程で塩基置換・挿入・欠失を起こさせるもの(SDN-1)と、切断部に1~数塩基のDNA断片を導入して期待する変異を誘発させるもの(SND-2)、数百~数千塩基対の有用遺伝子を導入するもの(SDN-3)がある。環境省ではSDN-1、厚生労働省ではSDN-1とSDN-2によるものを、カルタヘナ法で規制される遺伝子組換え生物(外来遺伝子を導入した生物)の対象外としている。EUニュージーランドでは、SDN-1も規制の対象となる。

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知恵蔵 「ゲノム編集食品」の解説

ゲノム編集食品

遺伝子を効率的に改変するゲノム編集技術を農作物等の育種(品種改良)に応用した食品のこと。正式名称は「ゲノム編集技術応用食品」。ゲノム編集を応用した生物を利用して製造された添加物(ゲノム編集技術応用添加物)も含めた総称も、ゲノム編集食品と呼ばれる。2019年3月、ゲノム編集技術を応用して得られた食品と添加物について、食品衛生上の取り扱いに関する報告が専門家による調査部会でまとめられた。この報告は、18年6月に閣議決定された「統合イノベーション戦略」により、18年度内をめどに行うとされていたもの。ゲノム編集技術応用食品に関する開発者等からの届け出やその公開等について議論し、食品衛生法上の取り扱いに関してまとめており、厚生労働省は今後、この報告を踏まえて詳細を決め、早ければ同年夏にも都道府県へ通達し、ゲノム編集食品が流通し始める見通しとなった。
ゲノム編集技術は、DNAを任意に切断する酵素を用い、ゲノムの特定部位を意図的に改変できる技術である。これまでのところゲノム編集技術により、主として既存の遺伝子機能を喪失させることで目的とする性質への改変を狙う研究開発が進められている。従来からある食品衛生法上の「組換えDNA技術」も同様に、酵素等を用いてDNAを切断・再結合することで、外部から新規の遺伝子を挿入したり既存の遺伝子機能を喪失させたりする技術だが、DNAの切断部位を限定できず外来遺伝子の挿入確率も低いため、狙いどおりの改変を行うことが難しく、また外部から加えた遺伝子が残ることから、突然変異を利用する従来の育種技術とは異なるとされてきた。
調査部会では、ゲノム編集技術応用食品の中には、DNAの塩基配列の状況から、従来の育種技術でも起こりうるリスクにとどまるものと、組換えDNA技術応用食品と同様のリスク管理が必要であるものがあるとして、二つに区分した。ゲノム編集技術応用食品のうち、外部からの遺伝子やその一部が残っていないことに加えて、自然界で起こり得る変化の範囲の改変である場合、従来の育種技術でも起こり得ると考えられることから、遺伝子組み換えに当たらないとする。新技術に関する情報集積等の社会的な重要性や、消費者等の不安への配慮の観点から、開発者等に対して必要な情報の届け出を求めることが適当としながらも、安全性審査の法的な義務化の対象としない。従来の育種と区別ができないことから、届け出の義務化・実効性には課題が残る。開発者等には、組み換えDNA技術には該当しないこと、及び意図しない変異(オフターゲット)により新規のアレルゲンがつくられたり毒性が増強されたりしていないかの確認を求める。
他方、ゲノム編集技術応用食品の中で、外来遺伝子やその一部が除去されていないものは、組換えDNA技術に該当し、安全性審査の手続きや表示において同等に扱うべきとした。
ゲノム編集技術応用添加物については、食品添加物としての成分規格にのっとる前提に立ち、食品と同等か緩和した取り扱いにすることが適当であるとした。
今後は流通に関するルールの詳細、食品の表示について検討される。国内では、筑波大学が血圧を下げる効果があるとされるアミノ酸「GABA」を通常の約15倍も含むトマトを、農業・食品産業技術総合研究機構は収量の多いゲノム編集イネを、近畿大学と京都大学は筋肉量が通常の約1.2倍あるマダイを開発している。これらの販売が年内中に可能となる見通しだが、安全性や表示等に関する市民、消費者団体等の懸念の声もある。

(葛西奈津子 フリーランスライター/2019年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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