コイネー(英語表記)koinē(dialektos)

デジタル大辞泉 「コイネー」の意味・読み・例文・類語

コイネー(〈ギリシャ〉koinē)

《共通の、の意》紀元前4世紀後半、アッティカ方言イオニア方言の要素が加わって形成された古代ギリシャ語アレクサンドロスの遠征を契機東方世界に広がり、広大な地域で話された。1世紀後半に記された新約聖書に用いられ、現代ギリシャ語の祖となる。→ギリシャ語

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精選版 日本国語大辞典 「コイネー」の意味・読み・例文・類語

コイネー

〘名〙 (Koinē) 紀元前四世紀後半、ギリシア語アッティカ方言などに基づいてできたギリシア共通語マケドニア帝国の公用語として広く話された。新約聖書の言語で、現代ギリシア語の母体

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改訂新版 世界大百科事典 「コイネー」の意味・わかりやすい解説

コイネー
koinē(dialektos)

〈共通語common dialect〉の意。古代ギリシアでは前5世紀にアテナイが政治・文化の中心になるとともに,その言語であるアッティカ方言Atticが,他の方言を抑えてギリシア語を代表する位置を占めるにいたった。そしてこれにイオニア方言Ionicを加え,アッティカに固有の形を除いて,一つの共通語が形成された。これがマケドニアのアレクサンドロス大王の遠征によって広くヘレニズム世界に拡大し,ローマ帝国の崩壊に至る長い間,東地中海の標準語として用いられた。その後もコイネーはまた西のラテン語と並んで東のギリシア正教の用語となり,ビザンティン時代を経て現代ギリシア語に発展する。

 コイネーの資料としては,碑文と並んでヘレニズム世界の中心であったエジプト出土の多量のパピルス文書がある。その中には公の内容をもったもののほかに,私的な手紙や勘定書のような,当時の日常生活を伝える興味ある文書が含まれている。またエピクロスのような,古典期以後のギリシア作家の著作からも当時のギリシア語の実状がうかがわれるが,とりわけ重要なものは,ヘブライ語から訳された旧約聖書と,新約聖書の原典であろう(《七十人訳聖書》)。これにみる限り古典ギリシア語のもつ文法の不規則があらゆる面で規則化され,格の用法や動詞の法などにも単純化が進んでいる。聖書のギリシア語は,宗教上のみならず,翻訳を通じてラテン語をはじめヨーロッパの諸言語の形成に強い影響をあたえた。
ギリシア語
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百科事典マイペディア 「コイネー」の意味・わかりやすい解説

コイネー

古代ギリシア語の共通語。アテナイの隆盛とともに,この地の方言であるアッティカ方言Atticが他の方言を吸収して標準語となり,これにイオニア方言Ionicを加えた共通語が前4世紀に成立ヘレニズム文化とともに広く普及した。ヘブライ語から訳された旧約聖書,新約聖書の原典にも使用され,ラテン語とともに古代社会の公用語として西欧諸語に多大の影響を与えた。現代ギリシア語の基礎。
→関連項目共通語

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「コイネー」の意味・わかりやすい解説

コイネー
こいねー
koine ギリシア語

紀元前4世紀末から6世紀なかばごろまで使われたギリシア語の共通語で現代ギリシア語の祖。コイネーは「共通の(ことば)」の意。それ以前のギリシア語は多くの方言に分かれていたが、マケドニアによるギリシア世界の統合を契機に、アッティカ方言にイオニア方言の要素が加わってコイネーが形成された。アレクサンドロス大王の東征を契機に、小アジア、パレスチナ、エジプトから、一時はインドにまで至る広大な地域で用いられた。

[田中利光]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「コイネー」の意味・わかりやすい解説

コイネー
koinē

ギリシア語で「共通語」の意味で,前4世紀後半から後6世紀の中頃まで,広くヘレニズム世界に行われたギリシア語。古代ギリシア語の諸方言のなかで優位に立ったアッチカ方言がもとになっているが,行われた地域がギリシア本土やマケドニアばかりでなく,アジアやアフリカにも及んで国際共通語の役割を果したため,各地域固有の言語の発音や単語が加わった。書き言葉としてのコイネーは,『七十人訳聖書』や新約聖書にみることができる。現代ギリシア語は,このコイネーが中世,近世を経て変化してきたものである。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「コイネー」の解説

コイネー
koine

アッティカ方言を根幹に,その他の方言が混合してできあがった古代ギリシアの共通語。混合の過程はすでに前4世紀前半から始まり,ヘレニズム世界の公用語となる。七十人訳聖書および新約聖書はコイネーの代表的文献。

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旺文社世界史事典 三訂版 「コイネー」の解説

コイネー
koine

アレクサンドロス大王の征服した地域に通用した共通ギリシア語
アッティカ方言を母体として前5〜前4世紀に成立。ヘレニズム世界では,長い間,国際語として用いられ,ビザンツ帝国では公用語となり,『新約聖書』もコイネーで書かれた。現在のギリシア語の母体となっている。

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