コウノトリ(鳥)(読み)こうのとり(英語表記)stork

翻訳|stork

日本大百科全書(ニッポニカ) 「コウノトリ(鳥)」の意味・わかりやすい解説

コウノトリ(鳥)
こうのとり / 鸛
stork

広義には鳥綱コウノトリ目コウノトリ科に属する鳥の総称で、狭義にはそのうちの1種をさす。種としてのコウノトリCiconia ciconiaは、全長約1.15メートル。英名をwhite storkというように全身白色で、風切羽(かざきりばね)(次列風切の外弁を除く)および初列雨覆(あまおおい)、大雨覆だけ黒い。足は赤色。旧北区に分布し、大きさあるいは嘴(くちばし)の色の違った3亜種に分類される。日本、朝鮮半島、中国北部、沿海州に分布するものはコウノトリC. c. boycianaとよばれ、大形で嘴が黒い。ヨーロッパ、北アフリカで繁殖する亜種は、小形で嘴が赤く、シュバシコウC. c. ciconiaの名がある。中央アジアには、それより大形で嘴の赤いオオシュバシコウC. c. asiaticaが分布する。大陸のものは冬は中国南部、インド北部、アフリカで越冬するが、日本のものは留鳥である。

 日本では、かつて全国にかなりたくさんすんでいたらしく、江戸時代には浅草の観音堂や市内の大きな寺院の屋上で営巣していたという記録がある。しかし、明治の中ごろから急激に減少し、1956年(昭和31)には特別天然記念物に指定され、1958年の調査では兵庫県下に7巣15羽、福井県下に2巣6羽が数えられるだけとなり、その後も減り続けて、現在は野生で繁殖するものはなく、中国やロシアから冬鳥としてときどき渡来するだけである。日本のコウノトリが急激に減少した原因は、おもに狩猟による殺戮(さつりく)であるが、絶滅するに至ったのは、第二次世界大戦後急速にコウノトリの生息環境が破壊されたことと農薬使用による水銀中毒であった。営巣木であるマツが伐採され、土地開発・河川改修で生息地が激減、彼らの餌(えさ)となるドジョウカエルなどの生物は水田から姿を消していった。1971年には、わが国最後の野生のコウノトリが兵庫県豊岡盆地で絶滅した。このような状況を受けて、コウノトリの保護増殖活動が展開され、1988~89年にはソ連(当時)から贈られたペアで飼育下での繁殖に成功、以降も保護増殖の努力が続けられる。2002年(平成14)には保護下での飼育数が100羽を超え、また同年8月5日には兵庫県立コウノトリの郷(さと)公園(1999年開園、豊岡市)に野生のコウノトリが1羽飛来、1年以上定着している。現在、同公園が中心となりコウノトリとともに生きる地域社会を目ざして将来の野生復帰計画を推進している。

 コウノトリの好む生息環境は、餌となる生物が生息できる水田や湿地が多い開けた所で、人家の近くでも繁殖する。巣は高いマツなどの頂上につくられ、小枝を寄せ集めただけのものだが、直径1.5~2メートルの大きさがある。古くから「松上の鶴(つる)」として絵画に描かれているのはツルではなく、コウノトリである。一方、ヨーロッパのシュバシコウは、人家の屋根や煙突の上に営巣するのが普通で、毎年越冬地から同じつがいが同じ家に帰ってきて繁殖する。この鳥は、一家に幸運をもたらすとか、赤ん坊を連れてくるという言い伝えのために、人々に非常によく親しまれ、またたいせつにされているが、工業化の影響で、その姿をみられなくなった地方が少なくない。しかし、東ヨーロッパではまだかなりの数が生き残っている。1腹の卵数は3~5個、抱卵・育雛(いくすう)は雌雄とも行う。食物はおもに動物食で、魚、カエル、タニシバッタなどの昆虫類を主食とし、みつければ小形のヘビ、ネズミ、小鳥の雛(ひな)なども食べる。

[森岡弘之]

科の特徴、種類、生態

コウノトリ科Ciconiidaeは6属17種に分類され、前出のコウノトリ属Ciconiaのほか、トキコウMycteria、スキハシコウ属Anastomus、セイタカコウ属Ephippiorhynchus、ズグロコウ属Jabiru、ハゲコウ属Leptoptilosなどの仲間を含む。世界の温帯・熱帯に分布するが、アジア南部とアフリカにすむ種が多い。一般に大形の渉禽(しょうきん)で、頸(くび)と足と嘴は長く、外形態はツル類に似ている。しかし、ツル類とは解剖学的特徴や習性の共通点が少なく、類縁関係はむしろ遠いと考えられている。コウノトリ類の特徴の一つは鳴管が退化していることである。そのため声を出すことはほとんどできず、かわりに上下の嘴をたたき合わせて、カタ、カタ、カタッと連続して聞こえる大きな音(クラッタリング)を出す。この音は繁殖期にとくによく聞くことができる。またこの時期には、雌雄によるお辞儀のし合いをはじめ、コウノトリ類独特のディスプレーが演じられる。食性は多くのものが動物食だが、ハゲコウ類の3種は腐肉を食べる。下に湾曲した嘴のあるトキコウ類は、おもに魚食である。上下の嘴を閉じてもすきまができるスキハシコウ類は、食性もいちばん特殊化していて、大形のタニシを常食としている。繁殖習性は、コウノトリとだいたい同じであるが、トキコウやスキハシコウはしばしば数百羽以上の大集団をつくって繁殖する。ナベコウC. nigraやセイタカコウE. asiaticusは、地方によっては岩棚の上に営巣することを好む。

[森岡弘之]

民俗

ドイツなど北ヨーロッパでは、赤子はコウノトリによってもたらされると伝えている。沼、池、泉などの水の中、あるいは岩山の洞穴から赤子をみつけてくるといい、もともとはコウノトリが、これらから生まれる赤子の霊魂を運んでくるという信仰であったらしい。またドイツでは、コウノトリが家の上を飛ぶのは赤子が生まれる前兆であるともいい、デンマーク、オランダなどでは、屋根に巣をつくると縁起がよいといって喜ぶ。逆に、巣を離れるのは悪疫や大災害の前触れであるとする。中国では、コウノトリは群れて飛んで雨を降らせるといい、コウノトリの子をとると日照りになるといってたいせつにする。

 埼玉県鴻巣(こうのす)市の氷川神社(ひかわじんじゃ)や岡山県倉敷市琴浦(ことうら)の八幡宮(はちまんぐう)は別名を鴻宮(こうのみや)といって、コウノトリを神に祀(まつ)ったと伝えている。神域の木にある巣に神が卵を呑(の)もうと大蛇になって登ったところ、コウノトリが蛇を突き殺したので、新しく神として崇(あが)めたという。千葉県市川市の鴻ノ台(国府台)にあった鴻宮は、日本武尊(やまとたけるのみこと)が川を渡るとき、瀬踏みをして案内したコウノトリにすみかとして与えたのにちなむと伝える。その挙動を神秘とした伝説はほかにもあり、兵庫県豊岡(とよおか)市の鴻湯は、足をけがしたコウノトリが治療しているのをみて発見したという。なお縁起物に、ツルが松の枝に巣をつくっている図柄があるが、これは生態上コウノトリを誤解したものである。古くはコウノトリを縁起のよい鳥として考えていたことが推定される。

[小島瓔

『但馬コウノトリ保存会・神戸新聞社編『コウノトリ誕生』(1989・神戸新聞総合出版センター)』『池田啓総監修『週刊 日本の天然記念物22 コウノトリ』(2002・小学館)』『加藤紀子著『コウノトリ大空に帰る日へ』(2002・神戸新聞総合出版センター)』


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