コオイムシ(読み)こおいむし

改訂新版 世界大百科事典 「コオイムシ」の意味・わかりやすい解説

コオイムシ (子負虫)
Diplonychus japonicus

半翅目コオイムシ科の昆虫。背に産み落とされた卵を孵化(ふか)するまで,雄が保護する性質があるのでこの名がある。褐色をした平たい卵形の水生カメムシで,体長は19mm前後である。口吻(こうふん)は短くて大きい。前脚は強大な捕獲脚で先端に小さな2個のつめをもち,中・後脚は遊泳脚になっている。腹端に出し入れできる1対の呼吸弁がつき,水面に浮かんでいるとき,そこから空気を取り入れる。本州,四国,九州,韓国,中国に広く分布するが,水が汚染されてきているため,生息地は狭くなっている。水草の多い池沼に生息し,水生昆虫の幼虫オタマジャクシ稚魚などを捕食する。越冬した雌は初夏のころ雄の背に卵を立てて産みつける。雄は水面に出たり,水草の上に現れて,卵を空気に触れさせて胚の発育を促す。1月ほどで孵化するが,その後卵殻はひとつづきになって脱落し,雄は自由になる。オオコオイムシD.majorは体長25mm前後の大型種で,東京周辺や京都,大阪付近から知られ,また済州島や韓国本土にも分布する。タイワンコオイムシD.rusticusはコオイムシより小型で,前脚の跗節(ふせつ)が1個しかなく,また半翅鞘(前翅)に膜質部がないので前記のものと区別できる。熱帯地方カンテツ肝蛭)の中間宿主のモノアラガイ類を捕食することでよく知られている。沖縄以南の暖地に広く分布する。なお,英名のgiant water bugは,タガメを含めて,コオイムシ科昆虫に対する総称名である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「コオイムシ」の意味・わかりやすい解説

コオイムシ
こおいむし / 子負虫

昆虫綱半翅(はんし)目異翅亜目コオイムシ科Belostomatidaeの昆虫の総称、またはそのなかの1種。この科はコオイムシ亜科とタガメ亜科に分けられ、日本にはそれぞれの亜科に2種ずつが知られる。

 日本で知られるコオイムシ類は、体長20ミリメートルぐらいのコオイムシDiplonychus japonicusと、やや大きく体長25ミリメートルぐらいのオオコオイムシD. majorである。体は両種ともよく似ており、卵形で、頭部は三角形で、触角は頭部の下側に隠れている。前脚(ぜんきゃく)はやや太く、捕獲脚(あし)となる。中脚と後脚は扁平(へんぺい)で、両側に長い毛が列生し、泳ぐのに適した形となる。尾端には2本の短くて扁平な呼吸管があり、これは伸縮自在である。

 池や水田など、静水中に生息し、小魚やオタマジャクシなどを捕食する。年1回発生し、越冬した成虫は5、6月に交尾し、その後、雌は雄の背に卵を産む。雄は雌が産卵しやすいように雌の下側に接近し、雌は時間をかけて1卵ずつ産み付ける。産卵数は10~60といろいろである。雄が卵を背に負うことからこの和名がついたが、孵化(ふか)までの間は雄は飛べず、卵を敵から守る。これはカメムシ類にみられる卵保護習性の一つである。卵は直径2ミリメートル、長さ4ミリメートルぐらいで、卵期は約12日である。幼虫期は比較的長く、6~7週間である。新成虫は8月に現れる。

[林 正美]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「コオイムシ」の意味・わかりやすい解説

コオイムシ
Belostomatidae

半翅目異翅亜目コオイムシ科,特にコオイムシ亜科 Belostomatinaeに属する昆虫の総称。池沼中に生活する水生カメムシの1つ。越冬した雌が晩春から初夏にかけて雄の背中に卵を多数産みつける特殊な習性があり,雄は卵が孵化するまで保護するので,「子負虫」の名がある。体長 20mm内外。体はやや扁平。全体に暗黄褐色で,生息地の泥をつけていることも多い。小楯板 (しょうじゅんばん) は正三角形で,前翅は腹端近くまで伸び,革質部に網目状の脈がある。前肢は強大な捕獲肢となっていて先に鋭い爪があり,他の水生動物を捕食する。中肢と後肢は遊泳肢となり刺毛が多い。腹端には伸び縮みする弁状の呼吸管があり,これを空中に伸ばし呼吸する。コオイムシ Appasus japonicusは,本州,四国,九州に分布するこの類の代表種。 (→異翅類 , 半翅類 )

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百科事典マイペディア 「コオイムシ」の意味・わかりやすい解説

コオイムシ

半翅(はんし)目コオイムシ科の昆虫の1種。タガメに似るが小さく,体長20mm内外,茶色。尾端に短い伸縮する呼吸管がある。北海道を除く日本,朝鮮,中国に分布し,池沼や水田などの水中にすむ。昆虫などを捕らえて体液を吸う。雌は雄の背面に産卵し,雄は卵が孵化するまで保護する習性がある。準絶滅危惧(環境省第4次レッドリスト)。近縁種にオオコオイムシがある。

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