日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
コンプレックス(心理学)
こんぷれっくす
complex
辞書的にいえば、深く絡み合ってつくりあげられたものという意味であるが、精神分析では、強い情緒的反応を引き起こすような一群の観念とか記憶のことをいい、観念複合体と訳されることもある。ほとんど意識されるようなことはない。スイスの精神科医ユングの連想実験においては、刺激語に対して反応語が答えられるまでに時間がかかるような場合には、コンプレックスの存在が推論される。刺激語が特殊な強い情緒をもつ語と結び付いているため、反応が遅れると考えられるからである。連想実験は、こうした強い情緒をもつコンプレックスを明らかにしようとする。ユングは、彼の分析心理学においてコンプレックスを重視し、その深層に元型(アーキタイプ)を想定することになった。フロイトは、夢や神経症、また日常生活の精神病理的研究から意識の背後にあって意識の流れを決定している無意識の観念群があることを明らかにした。
コンプレックスという用語は日常的には劣等コンプレックスの意味で使われているが、専門的な意味でコンプレックスといわれるのは、エディプス・コンプレックスと去勢コンプレックスである。父親コンプレックス、母親コンプレックス、カイン・コンプレックス(兄弟コンプレックス)などは、エディプス・コンプレックスの一側面をとくに強調したものである。
[外林大作・川幡政道]
『C・G・ユング著、林道義訳『連想実験』(1993・みすず書房)』▽『河合隼雄著『コンプレックス』(岩波新書)』