日本大百科全書(ニッポニカ) 「ゴング(打楽器)」の意味・わかりやすい解説
ゴング(打楽器)
ごんぐ
gong
一般に円盤形ないしはそれに縁のついた盆形の金属製(青銅、真鍮(しんちゅう)、鉄など)打楽器をさす。語源は、インドネシアのガムランに用いられるゴンにあるといわれ、東南アジア、東アジア一帯にさまざまな名称で広く分布する。楽器分類学上では、容器の中心部を打棒などで打つ楽器を意味し、垂直に吊(つ)り下げて使う円盤形や盆形のほかに、壺(つぼ)形で水平に伏せて置き頂上部を打奏するものもある。いずれの形にせよ、発音する際には本体の中心部の振動が周辺部に比べて大きいものがゴング類とされ、この点において、たとえ同じ外形をしていても、本体の周辺部の振動が大きいベル類とはっきり区別されている。
ゴング類は、本体の中央部にこぶ状の突起をもつものとこぶをもたない平板状のものに大別される。
[藤田隆則]
こぶ付きゴング
一般に音高がはっきりと聴き取れるので、音高の異なるゴング、つまり大きさや厚みの異なるものをいくつかセットにして、旋律を奏する楽器として用いる場合が多い。これを欧米では一般的にゴング・チャイムgong chimeという。東南アジア島嶼(とうしょ)部、インドシナ半島を中心に広く分布している。
インドネシアのガムランには数種のこぶ付きゴングが使われる。最大のものは直径約1メートルの盆形ゴングを数個吊り下げたゴン(ゴン・アグン)で、何度も繰り返される基本旋律の終わり、同時に始まりを示すために奏される。ゴンより小型で同形態のクンプルは、ゴンよりも細かい時間分割単位を表示すべく打奏される。クトゥやクノンは壺形で、クトゥが単独で時間区分を刻んでいくのに対し、クノンは数個を組み合わせて使う。ボナンは、クトゥやクノンをより小型にしたものを組み合わせて使うゴング・チャイムで、旋律を装飾する楽器である。いずれも桴(ばち)で壺形の突起部を打奏する。音の歯切れのよさが要求されるため、演奏には音を桴で消す技術も必要とされている。
フィリピンのミンダナオ島以南のゴング類は、形態やその使用法においてインドネシアのゴング類と似ている。クリンタン合奏の中心楽器としてのクリンタンは、8個の壺形ゴングを水平に配置したもので、両手の桴で旋律を演奏する。アグンは垂直に吊り下げるタイプで、拍節の表示に用いられる。
タイの伝統音楽ピー・パット編成の合奏では、壺形のゴングを環状に配置したゴング・チャイム(コン・ウォン)が主旋律を担当する。奏者は環の中央に座り、2本の桴で打奏する。
タイの影響を受けたビルマ(ミャンマー)の伝統音楽でも、コン・ウォンに似たチー・ワイン、より小型のマウン・サインが旋律楽器として使われる。
[藤田隆則]
平板状ゴング
一般に大型で音量が大きく、音高が不明確で噪音(そうおん)的な音色をもつ。そのため音量的な圧倒感を意図して、音楽だけではなく儀式などの合図にも用いられる。また、音高があいまいなため、声楽や他のさまざまな楽器にもなじみやすい。東アジア、インドシナ半島山地部、フィリピン北部などに分布し、ヨーロッパの管弦楽でも用いられる。
中国では初め、吊り下げ型の鉦(しょう)が軍楽に用いられたが、6世紀ごろ西方から薄手の鑼(ら)が伝わり、鉦より普及した。鑼は仏教、道教、チベット仏教(ラマ教)などの寺院の儀礼に用いられるようになったほか、京劇にも取り入れられ、場面に応じて異なる大きさ、音色のものが使い分けられる。また、厚みの異なる10個の鑼を木枠に垂直配置したゴング・チャイムを雲鑼(うんら)という。
日本では「かね」ということばでゴング類を総称しているが、雅楽の鉦鼓(しょうこ)、歌舞伎囃子(かぶきばやし)の当り鉦(がね)が代表的平板状ゴングである。
フィリピンのルソン島北部には、大きさの異なる平板状ゴング(ガンサ)を1人一つずつ手に持ち、音色の違いと音の強弱によるリズム・パターンをつくる合奏がある。桴を使う場合と素手で打つ場合があり、音楽様式が異なる。
ヨーロッパの管弦楽では、中国から輸入されたタム・タムtam tamというゴングが16世紀以来用いられている。直径約60~120センチメートルで枠に吊るす。最初は、その音量による劇的効果や異国的な音色効果をねらって、おもにオペラなどで用いられたが、チャイコフスキーの交響曲『悲愴(ひそう)』などで効果的に使用されて以来、多用されるようになった。フェルト付きの桴で打奏するほか、弱奏のトレモロ、他の桴でこするなど用法も多様になっている。
[藤田隆則]