サムライアリ(英語表記)Polyergus samurai

改訂新版 世界大百科事典 「サムライアリ」の意味・わかりやすい解説

サムライアリ (侍蟻)
Polyergus samurai

膜翅目アリ科の昆虫。ヤマアリ亜科に属し,働きアリの体長は5~6mm,全体に黒色腹部のみやや灰褐色,大あごは細く鎌状。初夏日中に行われる婚姻飛行の後,雌アリはクロヤマアリの巣をさがして侵入し,鋭い大あごでクロヤマアリの女王アリをかみ殺す。数日後にはクロヤマアリの働きアリは侵入したサムライアリの女王(雌)アリに仕えるようになり,以後,巣ではサムライアリのみが産みおとされるようになる。サムライアリの働きアリは食物を集めたり幼虫を育てるといった労働能力を欠いているので,奴隷狩りを行っては労働力を補充する。夏の日中にサムライアリの働きアリ数百匹が隊列をつくって繰り出し,クロヤマアリの巣に侵入して幼虫や繭を略奪してもち帰る。それから生まれるクロヤマアリはサムライアリに労働奉仕して一生を終わる。巣はクロヤマアリがつくるのでクロヤマアリのものとまったく同じになる。本州,四国,九州および朝鮮半島に分布する。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「サムライアリ」の意味・わかりやすい解説

サムライアリ
さむらいあり / 侍蟻
[学] Polyergus samurai

昆虫綱膜翅(まくし)目アリ科に属する昆虫。日本各地に分布し、おもに草地や裸地に生息する。働きアリは体長5、6ミリメートルで、体は黒褐色。一見クロヤマアリに似ているが、本種は大あごが鎌(かま)状であり容易に区別できる。奴隷狩りを行うアリとして有名。7、8月に隊列をなしてクロヤマアリの巣を襲い、蛹(さなぎ)や幼虫を略奪して自巣に持ち帰る。羽化したクロヤマアリはサムライアリの巣で労働に携わるが、サムライアリは奴隷狩り以外の仕事は行わない。

[山内克典]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「サムライアリ」の意味・わかりやすい解説

サムライアリ
Polyergus samurai

膜翅目アリ科。職蟻は体長 5mm内外,全体黒褐色であるが,灰白色の絹様光沢のある微毛におおわれる。大腮は細長く鎌状。腹柄は1節で厚く,丸みがあり,腹部はやや三角形状で後方へせばまる。女王は体長 7mm内外,翅は白く,翅脈淡褐色。職蟻に似て強壮である。雄は体長 5mm内外で,肢,翅,触角などが白い。本種はクロヤマアリ Formica fuscaを奴隷として生活し,営巣や幼虫の保育などをさせる。7~8月頃職蟻が列をなしてクロヤマアリの巣を襲って奴隷狩りをし,幼虫や蛹を奪うが,このとき以外は巣外に出ない。ヨーロッパのアマゾンアリ P. rufescensは本種と同属で,奴隷使役蟻として有名である。

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百科事典マイペディア 「サムライアリ」の意味・わかりやすい解説

サムライアリ

膜翅(まくし)目アリ科の昆虫の1種。体長は兵アリ5mm,雌7mm内外。黒ないし黒褐色。日本全土に分布し,奴隷狩りを行うアリとして有名。7〜8月の日中に大挙してクロヤマアリの巣を襲い,その蛹(さなぎ)を奪って自分の巣に運び,これから羽化した働きアリに労働させる。一般にアリの引越しといわれているのは,この狩の帰途にある本種の大群である。奴隷狩りと繁殖期(7月)以外は地表に現れない。

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