シギ(読み)しぎ(英語表記)sandpiper

翻訳|sandpiper

改訂新版 世界大百科事典 「シギ」の意味・わかりやすい解説

シギ (鷸/鴫)
sandpiper

チドリ目シギ科およびいくつかの近縁の科の鳥の総称。タマシギ科Rostratulidae(世界に2種),シギ科Scolopacidae(81種),セイタカシギ科Recurvirostridae(7種),ヒレアシシギ科Phalaropodidae(3種)などが含まれる。なお狭義にはシギ科の鳥だけを指す場合がある。

全長12~61cm。体の大きさはさまざまで,くちばしは一般に細くて長く,まっすぐなもの,下に曲がったもの,上に反ったもの,へら形のものなどがある。体型は渉禽(しようきん)型で,くびも脚も長く,なかには体に比較して著しくくびと脚の長いものがある。羽色は一般にじみで,鮮やかに見える場合でも隠ぺい色になっている。北半球で繁殖するものは大部分渡り鳥で,夏羽と冬羽が著しく異なる。冬羽は夏羽より色淡く,またじみである。翼に白帯,腰に白色部があって,飛翔(ひしよう)中に目だつ種が多い。翼は細長くて先がとがり,尾は短い。

世界的に分布するが,北半球の極北地で6~7月に繁殖し,長い渡りをして熱帯や南半球で冬を越す種が多い。繁殖期には営巣地の上を鳴きながら飛び回り,なわばり宣言を行い,近くの木の枝,杭,石の上などに止まって鳴くこともある。あまりはっきりしたなわばりをもたずに,比較的狭い範囲に数つがいから十数つがいが巣をつくるもの,一雄多雌で繁殖するもの,エリマキシギのように集団交尾場(レックlek)をもち乱婚的繁殖をするものなどがある。地上のくぼみや草の根もとに枯茎,枯葉,細い枯枝などで皿形の巣をつくり,淡色の地に黒褐色の斑紋のあるヨウナシ型の卵を産む。1腹の卵数は4個が多く,2~3個のものもある。抱卵は雌雄交替でするもの,雌だけでするもの,雄だけでするものがあり,抱卵日数は平均25日前後で,大型種のほうが長い。雛は早成性で,かえったときには綿羽につつまれていて,かえって数時間後には親鳥に導かれて巣を離れる。多くの種は卵や小さな雛に外敵が近づくと,親鳥は翼を垂らし地上をはうようにして擬傷動作を行う。渡りや越冬期には海岸や河口の干潟,湿地,水田,蓮田などにすみ,地上や浅水の中を歩いて,カニ,貝,ゴカイ,昆虫などをあさり,見つけるとすばやくくちばしでくわえて食べる。長いくちばしをもった種では泥や土の中に深くさしこんでカニや貝を巧みにとらえる。同種または他種と群れでいる場合が多く,とくに干潟で餌をとるものは,潮が満ちてくると岸近くの一定の場所や近くの干拓地の水たまりなどに集まって休んだり,水浴をする。しかし,ヒレアシシギは渡りのときには海上に生活し,海面に浮いてプランクトンなどを食べる。鳴声は口笛のような声を出す種が多い。

日本ではタマシギ科1種,シギ科49種,セイタカシギ科2種,ヒレアシシギ科2種の計54種が記録されているが,旅鳥として春と秋に渡来するものが多い。ホウロクシギチュウシャクシギオオソリハシシギオバシギキョウジョシギトウネンキアシシギなど,おもに干潟で餌をとるものと,タカブシギクサシギ,オジロトウネン,タシギ,タマシギ,イソシギアカアシシギオオジシギヤマシギアマミヤマシギ,セイタカシギの7種だけである。日本で規則的に越冬するものはタマシギ,オジロトウネン,ハマシギミユビシギ,クサシギ,イソシギ,ダイシャクシギのように内陸の淡水畔で餌をとるものとがある。日本で繁殖するものはタマシギ,ヤマシギ,アマミヤマシギ,タシギ,アオシギなどがある。長い渡りをするので迷行例も多く,ハリモモチュウシャク,シロハラチュウシャクシギ,コモンシギ,アシナガシギ,オオキアシシギなどは日本では迷鳥としてそれぞれ1~数回の記録がある。

食性による利害関係はとくにない。くちばしや脚の長い形のよい鳥であり,声は涼しそうに澄んでいるので,古来日本人には俳句や和歌の対象として好まれ数多くよまれている。またシギの肉は美味とされ狩猟の対象としても珍重されたが,現在の法律ではタシギとヤマシギが狩猟鳥に指定されているほかはすべて非狩猟鳥である。猟法としては銃猟のほかに,浅い海岸に土を盛り,その近くに剝製のシギ(型(かた)おとり)を立て,笛を吹いて群れを誘い,群れが盛った土に降りようとするときに無双網をかぶせる方法があった。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「シギ」の意味・わかりやすい解説

シギ
しぎ / 鷸

sandpiper

広義には鳥綱チドリ目シギ科およびその近縁の数科に属する鳥の総称で、狭義にはシギ科の鳥だけをさす。すなわち広義のシギにはシギ科Scolopacidae81種のほか、タマシギ科Rostratulidae2種、セイタカシギ科Recurvirostridae7種、ヒレアシシギ科Phalaropidae3種などが含まれる。

高野伸二

形態

体の大きさは大小さまざまで、全長約15~60センチメートルと幅がある。嘴(くちばし)は細長く、まっすぐなもの、下に曲がっているもの、上に反っているもの、へら形をしているものなどいろいろである。頸(くび)は長めで足も長く、種によっては体に比べて嘴や頸が著しく長い。体色は一般に上面が灰褐色、下面が淡色でじみであるが、夏羽になると赤褐色や黒色になったり、胸や腹に黒斑(こくはん)が出たりする。翼や腰に、白帯や白斑のある種が多い。足の色は、赤、黄、緑、黒褐色などである。

[高野伸二]

生態

多くの種は北半球の極北部の草原で繁殖する。雄は繁殖地の上を鳴きながら飛び回って縄張りの宣言をするが、木の枝や杭(くい)に止まったままで鳴くこともある。また、縄張りがあまり明瞭(めいりょう)でなく、比較的狭い範囲に数つがいが巣をつくる種や、一雄多雌で繁殖する種、エリマキシギのように集団交尾場をもち、乱婚的な繁殖をする種もある。地上のくぼみや草の根元に、枯れ茎、細い枯れ枝、枯れ葉などを使って皿形の巣をつくり、そこに4個の卵を産む。卵は洋ナシ形で、灰色やクリーム色の地に黒褐色の大きな斑紋がある。雌雄交代で約4週間抱卵する。かえった雛(ひな)は綿羽に包まれており、孵化(ふか)後数時間で親鳥に導かれて巣を離れる。外敵が卵や小さな雛に近づくと、親鳥は翼を垂らして地面をはうように動き回り、敵の注意をそらそうと擬傷動作をする。北半球の高緯度地方で繁殖する多くの種は渡り鳥で、赤道を越え南半球で越冬するものも少なくない。

[高野伸二]

日本のシギ類

日本では54種が記録されているが、旅鳥として春と秋に渡来するものが多い。ホウロクシギ、チュウシャクシギ、オオソリハシシギ、オバシギのように海岸や河口の干潟でおもに餌(えさ)をとるものと、タシギ、クサシギ、オジロトウネン、タカブシギのように内陸の淡水の水辺をおもな生息地としているものとがある。また干潟にも淡水にもいる種もある。主食は、貝、カニ、ゴカイ、トビムシなど動物質である。日本で繁殖するものは、タマシギ、イソシギ、アカアシシギ、オオジシギ、ヤマシギ、アマミヤマシギ、セイタカシギの7種で、タマシギは九州、四国、本州の水田や湿地、イソシギは九州、本州、北海道の川原、アカアシシギは北海道東部の湿原、ヤマシギは本州以北と伊豆諸島の山林、アマミヤマシギは奄美大島(あまみおおしま)の林、セイタカシギは本州中部の干拓地などで繁殖する。日本で定期的に越冬する種には、タマシギ、イソシギ、クサシギ、オジロトウネン、ハマシギ、ミユビシギ、ダイシャクシギなどがある。長い渡りをするだけに迷鳥として渡来する種類も多く、わが国から1~数回の記録があるだけのものに、ヒメウズラシギ、コモンシギ、シロハラチュウシャクシギ、ハリモモチュウシャク、アシナガシギ、オオキアシシギなどがある。

[高野伸二]

人間生活との関連

シギ類は肉の味がよいので古来、狩猟鳥として珍重されてきた。しかし現在では、狩猟鳥として法律的に認められているのはタシギとヤマシギのみで、他の種はすべて狩猟を禁じられている。銃猟のほかに、剥製(はくせい)(型おとり)を浅瀬に立てておいて笛で群れを呼び寄せ、鳥が着地しようとする寸前に無双網をかぶせる猟法があったが、これも現在ではほとんど行われていない。また古来、シギ類は詩歌の対象としても親しまれている。

[高野伸二]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「シギ」の意味・わかりやすい解説

シギ
Scolopacidae; sandpipers, curlews, snipes

チドリ目シギ科の鳥の総称。全長 12~66cmの地上採食性の鳥で,約 95種からなる。一般に頸,脚,が長く,尾は比較的短い。は通常細長くてまっすぐだが,上方にそったり,下方に湾曲したり,へら状になったものなどもある。羽色は雌雄ともよく似ていて,夏羽(→羽衣)は赤褐色や黒色になるものもあるが,冬羽はだいたい褐色や灰色など地味である。多くの種は北半球北部のツンドラや草原で繁殖し,繁殖を終えると長距離の渡りをして冬は熱帯南半球で過ごす。春と秋の渡りの途中に温帯の海岸,湿地,水田,草原などに渡来し,日本でもこれまでに 58種が観察されている。代表的な種にはエリマキシギキアシシギキョウジョシギダイシャクシギタシギハマシギヤマシギなどがある。ヤマシギはシギ類でも珍しく留鳥で森林にすむ。なお,科は異なるが,タマシギ科,セイタカシギ科などの鳥もシギと呼ばれる。(→渉禽類

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